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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-13 愛する権利、愛される権利

刃の国【一般情報(更新:有)】

サンヨウ大陸北東に位置する国家。

国土そのものは広大とは言い難いものの、海を挟んだ先にある鉄の国が工業大国であり、風の国から譲渡された鉱脈を用いて経済的に大きく前進した。

大同盟による侵攻後によって国民の大半が死亡ないし行方不明となっているが、他国からの難民に住居を提供する形で労働力を確保している。

一方で現状、話題の渦中にある風の国跡地に隣接してることもあって国内の緊張は日を追うごとに高まっている。

大同盟侵攻以前から議会制を採用していたが、侵攻前後に多くの欠員が出たため、議長に就任した軍総括のジェスが実質的に国家元首として国を運営している。


正式に活動を開始することとなった常設大同盟軍。

そのうちの一つ『白の部隊』。

ここに選出されたのは兵士だけではない。

白の部隊のために改修が施された多目的特務戦闘艦『ノーチラス・メオラ』、そしてその運用をサポートする対話型インターフェース『マザー』とその子機『カレン』。

改修元となったノーチラスと改修前から搭載されていたマザーとカレン、この2つに大きく関わっている人物アルデント・シュナイダー。

稀代の天才とも呼ばれるドクもまた、白の部隊に軍医として参加する。

といっても軍医としての仕事は副次的なものに近く、基本的にマザーとカレンのメンテナンスなどを担当する。

ノーチラス艦内でドクと再会したパルは彼に抱きついていた。

「離れえや。」

同行していたツスルが呆れた様子で促すが、パルは無視する。

当のドクもそれを気にも留めていない。

「早速だが話を始めようか?驚くぞ?ブリッジも広くなったし私室もきれいになっているよ。」

ドクの興奮した様子にハウンドの期待も高まる。

完全に趣味の領域ではあるが、ドクはこうした機械設備関係にも精通しており、その彼をして、驚く。と称されれば期待感も高まるというものだ。

ドクに張り付いたまま器用に歩くパルを先頭に、ツスルそしてハウンドがブリッジへ入る。

確かに改修前と比べて非常に広くなったブリッジは少人数で話しにくい内容の会議を行うにはうってつけの広さをしており、この人数であっても狭さは感じない。

「お待ちしてました!お久しぶりっす、皆さん。」

ブリッジで待機していたヤタ重工のニニギが彼らを迎え入れる。

彼の首にかけられたヘッドセットを見るにどうやらここから何かの指示を出していたようだ。

「ツスルさん、船の実戦仕様作業完了してます。作業員の撤収も済んでるっす。」

ツスルは頷くと、全員に着席を促す。

「離れえや。」

ドクの膝の上に座るパルにツスルは困惑した様子で問うと彼女は首を振って拒否する。

「話というのはここに来る時のことかい?」

ドクはそんなことを気にも留めず話題を切り出すと、ツスルが状況を説明する。

「簡単にいうと、鉄の国からここに来るまでに襲撃を受けた。相手の所属はわからずじまいやが、こっちの戦闘能力が制限されとる上に深海を航行しとるワシらを狙えるだけの装備を用意しとった。」

『具体的には天の国領海まで2500メートル地点です。ここから前後約1500メートルはどの国の領海にも属さない不干渉領域です。』

マザーの補足がきな臭さをさらに高める。

不干渉領域は自然保護の名目で近隣の国同士が産業的、軍事的行動をしないことを取り決めた場所を指す。

その本音は単に戦争や経済制裁のための理由づくりでしかない。

そのため、国はこの領域で表立った行動ができず、海賊、山賊の温床ともなっている。

逆にいえば『この場所』で『一部の人間しか知り得ないことを知った人間』が『攻撃を行った』という事実は国が非公式かつ秘密裏にノーチラスを襲ったとも解釈できる。

ここにおける一部の人間。

それはノーチラスを担当していたごく一部の技師とその総括役であるシンゴ、受け入れ態勢を整えていたニニギとその配下、あとはツスルとドクくらいの話になる。

その件に関して、とニニギが切り出す。

「お耳に入れおいてほしい人がいるっス。シジマ・ロウラ営業部4課課長っス。」

マザーはニニギの言葉を受けてモニターに顔写真を出す。

魔力が老化に影響を及ぼすため、見た目から年齢を推測できないが、一同は若い女性という印象を受ける。

「ロウラさんは風や刃の国を担当してます。それも大戦争時代から…」

その言葉の意図を最も早く理解したのはツスルだった。

「つまり、このロウラいう人はあん時の通信障害に一枚噛んどる。そう言いたいわけやな?」

ニニギは深刻な表情で頷く。

大同盟による刃の国侵攻作戦の直後に行われた風の国による宣戦布告と侵攻。

その際に発生した通信障害は間の悪いことに風の国最高戦力とも言えるパーシヴァル・プルトの本陣奇襲と重なり、大同盟軍に参加した面々に甚大な被害を与えた。

約3ヶ月前の話ではあるが、戦場でそれを体験したパル達にとってそれはあまりにも鮮明なものだった。

「刃の国に武器を流したのも連中か?」

パルの疑問にニニギは頷く。

「以前にパルさんが麦の国で非個人認証式火器(N-PAA)による奇襲を受けたと聞いたっスけど、現場をシンゴさんが確認した時に、最新モデルだったことが判明してるっス。」

「麦の国からの横流しの線はないんか?」

「購入履歴は確認できてないっス。そもそもあの国の軍事費はゴーレム関係が大半で銃火器は型落ちのものを安く仕入れてるっス。」

麦の国は昔から隣国である龍の国との共生関係にある。

麦の国からは肥沃な土地から生産される質の高い農作物を安く提供し、軍事力に秀でる龍の国が戦時には全面的に協力する。

これもあってか両国間での人物交流も盛んで、オルカは麦の国出身でありながら龍の国の軍人である。

逆に龍の国で行われる畜産は決して大規模ではないものの麦の国の知見や技術が用いられている。

「そう言う意味では麦の国の軍事に対する消極的な姿勢は大同盟の発足で露骨になった。一番平和を理解してるとも言えるか。」

ハウンドが口を挟む。

国家同盟である大同盟の発足に龍の国が関わっていただけに麦の国も即座に加盟、以降は本格的に農作物の増産に踏み切っている。

さらに常設大同盟軍の発足で即座に軍縮を行い、更に産業方面へ力を入れている。

平和を理解している。と言うのは花の国のように武器を捨てることを呼びかけるやり方ではなく自分からそれを捨てることで証明している。

「鉄の国の絵図なんやろか?」

しばしの沈黙の後、ツスルは核心の部分に触れる。

船に乗船するドクとツスルが情報を流すことは客観的に見ても無い。

「それは今、シンゴさんが追ってるっス。皆さんが刃の国に向かわれるのなら、その片手間に調べて欲しい。と言うのがシンゴさんの考えっスね。」

先ほどの話の通りであればロウラが鉄の国を出入りしている可能性は高く、そのロウラがノーチラス襲撃に関与している可能性は十分にある。

「鉄の行方…ね。」

パルはかつてシンゴから依頼された際の言葉を思い起こす。

あの時とは立場も状況も目的も異なるが調べる相手は変わらない。

世界最大の重機械工業所国家鉄の国、そしてその心臓部であるヤタ重工。

無数の下部組織を持ち、様々な分野に精通する彼らだが、その下地には吸収した無数の企業が存在する。

もはやその全てを把握しきれていない異形の怪物。

それが友好的であったために触れてこなかった。

いや、触れることを拒絶していた。

ただそれが牙を剥くのなら、全力で叩き潰す。

それがルビリア・パルのやり方でも、龍の国のやり方でもある。


天の国の北東、かつて戦場となった刃の国。

現在は大同盟の支援ありきではあるものの最低限の生活が可能なレベルまで復興が進んでいる。

と言っても纏められた瓦礫は処分先で揉めている上、戦場とこの惨状は大同盟の責任であるとしてデモが行われている。

工事作業の騒音とデモの声が入り混じる中、政治の中枢である議場で小太りの男が空を眺めていた。

『幸運のジェス』。

長年、この国の兵士として活躍した彼だが、大同盟軍侵攻の際、この国の全権を委任されたこともあって、現在は正式にこの国の運営を行なっている。

当人は政治仕事を苦手めんどうと言っているが、かつてからこの国にいた市民からの支持は厚い。

それは彼が唯一、最後まで国を捨てることなく最後まで為政者としての仕事をしていたからであり、刃の国存続に尽力したとされているからだ。

ただ、事実とは僅かに異なる。

彼は刃の国の存続など考えていなかったし、最後は全ての責任と共に自決するつもりでもあった。

が、しかし、それをハウンドが止めた。

彼にはそれだけの才覚を嗅ぎ取っていたのか、はたまた運命の気まぐれか。

ジェスは自身の執務室で書類を睨んでいたが、来客の訪問に気付き顔をあげる。

「珍しいお客さんだあ…」

気怠げで間延びした独特の喋り方でそれを迎える。

「心外だよ、ジェス。私と君の中だろ?」

中性的なその姿はトラ教団の天使を思わせるが、れっきとした女性である。

シジマ・ロウラ。

ジェスはその名を呟く。

1人ではない。

護衛を連れている。

軍人でもある彼は即座に彼らの練度を見抜く。

いや、それだけの存在感と強さをしている。

天使…いや、それ以上かもねえ。

ジェスの評価に応えるように護衛はロウラと共に入室する。

僅かに覗く護衛の手の皮は厚く、スーツの奥には鍛え上げられた筋肉がその存在を主張する。

筋肉のそれは見せるためではなく使うためのものだ。

「君たちい…私を殺すかね?」

ジェスは脅すように立ち上がる。

年老いて前線から離れていた期間があったとはいえ、その威圧感は衰えを知らない。

「まさか…ジェス、君にチャンスをあげようって来たんだよ。わざわざね。」

「ヤタからあ?いやあ?その背後かあ…」

「わかってるなら話が早いよ。簡単さ、大同盟を離れてこちら側につけばいい。」

ロウラは笑顔を見せる。

断れば護衛の男達が襲いかかってきそうだ。

「こちらあ…というのはあ…鉄かな?ヤタかな?『貴族たち』かな?」

「その全て。鉄の国とはヤタ重工であり、ヤタ重工とは『貴族たち』のものだ。」

「見返りはあ?」

「今の席に座り続ける権利。」

護衛の1人が半歩前に出るが、彼女はそれを制する。

ジェスが何かを待っており、時間を稼ごうとしていることはロウラもわかっている。

「断ると言えばあ?」

「やめようよジェス。それより…」

ロウラはそう言ってジェスとの距離を詰める。

護衛の目の前である以上、下がることすらできない。

ロウラと彼の間には机しかないほど近づくと、彼女は囁くように問う。

「君が何を待っているのか…教えて欲しいな…?」

「俺だろ。」

護衛のさらに背後から届く声にロウラは咄嗟に振り返る。

「生きていたのか…!?」

その男は元天使。

いや、元人間とでもいうべきか。

第二天使リエル。

元人間ながら天使となったいわば1.5世代天使で有り、単純な戦闘能力であれば他の第一世代天使を凌駕する。

「帰るなら見逃してもいいぜ?白の襲撃者ストライカー様が来る前によ?」

リエルは状況に臆することなくジェスの元まで進むと一枚の書類を机に置く。

「ふう…よりによって船ごと連中を派遣するのかあ…」

「なぜ貴様がここにいる…?!」

「行くあてがないから働いてもらっているんだよお。」

ロウラは有利に進めていたはずの状況を覆され、焦る。

ジェスを内密に離反させるはずが、ジェスを落とすどころかリエルにこの来訪を知られてしまったどころか話も聞かれていた。

そしてこともあろうにこの2人を同時に始末できるだけの戦力はない。

「懸命な決断を期待するよ。ジェス…!」

ロウラは捨て台詞を吐いて部屋を出ようとするが、ジェスに呼び止められる。

「ロウラあ…果たして白の襲撃者や猟犬ハウンド、何より大同盟とことを構えることが懸命かなあ?私はそうは思わないよお。貴族たちはもう少しい、現実を見た方がいいねえ。」

勝ち誇ったジェスの言葉を睨み返しながらロウラは足早に撤収するのだった。


次回は土曜日。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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