3-12 常設大同盟軍『白の部隊』
白の部隊【軍事機密(改定済)】
龍歴298年当時、龍の国の女王であったドラゴ・フレイルが組織した私設部隊。
明確な任務を持たず、言ってしまえば女王の機嫌次第で動くが、実態としては軍事行動を起こせば国際問題になりかねない案件を穏便かつ秘密裏に処理するための部隊。
そのため少数精鋭を旨としており、高い個人性能を持つ人間と、少数での運用に特化した特務艦『ノーチラス』を与えられた。
フレイル女王の暗殺時には策謀によって国際指名手配となったこともあったが、事件後に解除されている。
一方で私設部隊として組織された経緯から、フレイル女王暗殺後に自然消滅しており、部隊員はそのまま龍の国の軍隊へ編入された。
なお、『白の部隊』は明確な書面による作戦行動ではなく、女王主導で動くことから『命令書が白紙でも戦闘可能である。』という意味で名づけられたとされるが、真意ははっきりとしない。
常設大同盟軍を任されたツスルの号令で大国を中心に選りすぐりの兵士たちが集められていた。
彼らは天の国王城内の会議室に呼び出されていた。
その雰囲気は先の戦闘で共闘しているからか非常に和やかではある。
ツスルが最後に入室すると、補佐の役人が資料を配布する。
「資料はこれから説明するさかい、今読まんでええ。」
配布が終わるのを待ちながらツスルはそう言ったが、何人かは資料のページをめくる。
全員に資料が行き渡ったことを確認し、ツスルは説明を始める。
「えー。これから常設大同盟軍の発足に係るブリーフィングを始める。ワシは天の国事務局長のソラウ・ツスル。常設軍では総督を務めさしてもらう。」
ツスルは文官ではあるものの、その立場から大戦争時代には軍の最終決定権を持っていた。
そう言った意味では文官としての知見と軍官としての経験を持つ彼は国家同盟の常設軍総督は適任とも言える。
ツスルは資料のページを捲り、所属する人員の紹介を始める。
「次いで実働部隊。元ん所属ごとに紹介さしてもらう。まず、天の国は天虎士のベテラン、ヤマトとオジマ。そして『剣聖』カイン。龍の国からパルちゃん、ハウンドくん、ここにはおらへんけどバイソン君とドルフィンちゃん。港の国からコオウ元帥、『居合』のザイチ。」
資料には各々に関する簡単な履歴が書かれているが、一部はほとんど白紙であったり、途中の経歴が抜けているものもあった。
そういう意味で『都合のいい』書類だ。
「バックアップメンバーは天の国からドクター・ヤマネ、龍の国ドクトル・シュナイダーの2名を中心に適時入れ替わる。」
発言の許可を求めるようにヤマトが手を上げる。
「ちょっといいですか?ドクター・ヤマネって生きてるんですか?」
「んまあ100歳近いジジイではあるんやけど生きとるで。」
ツスルの説明に一同は小さく驚きの声を上げる。
ドクター・ヤマネ、本名、ヤマネ・ダイキチ。
大戦争どころかそれ以前の大陸戦争時代の名軍医であるが、さも当然のように第一線に出てくるバイタリティは異常ともいえる。
というのも彼はハウンドと同じく亜人の混血であり、当時としてもさほど珍しくない『身体的特徴の出ていない』混血種でもある。
故に寿命サイクルそのものが純人間と異なる。
昨今の事情を鑑み、最近では亜人の血を持つことを隠しており、100歳近いにもかかわらず現役かつ若々しい謎の医者という扱いになっている。
無論、その事実を知らぬオジマ達は言葉を失う。
この場で唯一彼の真実を知るツスルは当然のように話を進める。
「物資関連はヤタ重工のニニギ君が窓口になる。まあとりあえずほしいもんがあったらワシに言うてくれたらええ。」
ツスルは資料のページをまとめてめくる。
細かい経歴の説明は行わないようだ。
「次に部隊の割り振りを発表する。まず、監獄島ん方を担当してもらう監視部隊には、オジマ、ヤマト、元帥、ザイチ、ドルフィンちゃんにバイソン君、あとドクター・ヤマネやな。」
「監獄島も常設軍が面倒みんのか?」
パルは反射的に質問する。
本来、咎められる行動でもあるが、彼女を皆よく知っているだけにツスルさえ特に気にしない。
「そや。もともと供託で運用されとったが、そのすべてが大同盟の所属になった。逆に言えば、大同盟のそれと別系統で監獄島だけ独立させるんは効率的やない。今言った6名は4か月周期で2人づつ監獄長の仕事をやってもらう。これまで看守として業務をしとった連中の指揮役やけどそんな複雑やない。ドクター・ヤマネは医務室の責任者やけど、実際に仕事すんのは推薦された医者や。あん爺さんはどちらかというと人の割り振りと臨時大同盟軍結成時の軍医やな。」
それ以外は?ママも挙手することなく発言する。
パルが変えた流れのほうがやりやすいと感じたらしい。
「待機人員や。基本的に元の所属として働いてもろうてもええし、休んでもらってもええ。ただし、あくまで待機やからな。必要があればすぐ出てきてもらうことになるわ。」
「バイソンさんたちはもう行っとるってことですか?」
流れるようにヤマトが続く。
それだけツスルと彼らの距離は近いともいえた。
「そやな。元々、バイソン君は監獄長として仕事しとったさかい、それを続けてもらっとる。次に入る組は君らで決めて、報告してくれたらええ。改修中ん船を持って行ってもらうわ。」
ツスルは一度、様子を見る。
自由に発言する流れになったため、一度、落ち着き、誰かの疑問を待った。
問題なさそうやな。と促すと、全員が頷く。
「続けるで。パルちゃん、カイン、ハウンド君、ドクトル・シュナイダーが常設機動部隊になる。改修したノーチラスで各国へ実際に足を運んで諸々政治的に面倒な案件を担当してもらう。」
ハウンドは、その部隊コンセプトに心当たりがあった。
かつて自分が所属した『白の部隊』。
龍の国にとって面倒な案件や女王の個人的な案件を担当するそれを大同盟という規模に拡大したものともいえる。
「この機動部隊はこの4名を軸に動いてもらうけど、場合によっては人員を増やしたり減らしたりする。大同盟案件でのワシの護衛や移送含めてな。」
「そんなに偉くなったのか?」
パルの言葉に何人かが小さく笑う。
嘲笑というより彼自身、一線級の戦闘能力を有しているため、職権乱用にも見えるからだ。
それに、この手の冗談は彼が好むものだ。
「なんやええやんけ。ワシかてたまには楽したいんや。それにな、ワシかてソラウの血はひいとるんやで?めっちゃ薄いけどな!」
思わず、ハウンドの顔がひきつる。
彼は確かに王族に名を連ねるが、継承順位は低く、幸運のもとに次期国王として招集された。
だが、その数年後に当時の王妃が身籠っていたことが判明、次期継承者の座を横取りされる形で今のポストについている。
笑うに笑えない冗談だ。
「話、もどすで。ええっと?せや。君ら機動部隊の部隊名は『白の部隊』や。」
和やかだった雰囲気がわずかに引き締まる。
「何の…冗談でしょうか?」
ハウンドはなんとか平静を装いながら聞き返した。
白の部隊は確かに龍の国が運用していた女王私設部隊であり、少数精鋭によって外交上、軍の派遣が行いにくい案件を担当していた。
一方で、部隊を設立した女王、ドラゴ・フレイルは暗殺によって死亡。
白の部隊員であったパルとハウンドはその容疑者としてあらぬ罪で逃亡することを余儀なくされた。
ここで『白の部隊』を復活させ、それをまたハウンドとパルにやらせるというのは冗談で済む話ではなく、死者であるフレイルへの侮辱とも取れる。
それは、ハウンドやパルだけでなく、逃亡時代に共闘したママやその1件で対立したカインも同じであった。
ツスルもその反応はおおむね予想していたようで、動揺することなく、真剣な口調で説明する。
「前提としてワシはフレイル陛下を尊敬しとる。あん人の生き方は継承権を失ったワシにとって希望みたいなもんやった。伝えたこともない一方的なもんやけどな。」
フレイルは夫にして国王であったドラゴ・ドライム8世が急逝したことを受け、幼いわが子を政治闘争に巻き込まないために即位した。
当時から龍の国は国王の発言権は強いものの、各分野の官僚が政治方針を決めるというやや独特な政治体制となっており、完全な王位撤廃と協議制による政治運営にシフトしようとする一派にとって、彼女の即位は好機でもあった。
特に、正式な王家の血を持つドライム8世の急逝により、その血が途絶えたタイミングでの即位は内部から評価を得られるはずもなく『王位を掠め取った女狐』と陰口を叩かれる始末だった。
それでもフレイルは懸命に国家運営に尽力。
クーデターの噂など緊張もある中で、その命を使い、トラ教団の存在を世界に公表するための布石を打って見せた。
ツスルはわずかに息を吐くと、本音をぶつける覚悟を決めた。
「せやからワシはフレイル陛下が切り札を託したパルちゃんたち白の部隊を評価する。あん人がそこまでの信頼を置いたのならそれをリスペクトする。『白の部隊』はそのためや。そうでないとあかんやろ。大同盟結成の契機となった一連の事件、その発端でもあり最大の功労者…その存在を公表してもしゃあない。せやけど忘れんために『白の部隊』として働いてもらうんや。他でもない君らにな。」
わずかに震える声が、冗談でも演技でもないことを証明する。
「わかりました…謹んでお受けします。」
ハウンドは彼の誠意に答えるように力強く返す。
その目にはツスルの思いを受け止めんとする強い光があった。
パルは、重くなった雰囲気を再び戻すように気怠げに手を挙げる。
「あー…悪いんだけど、オレ達だけ拘束されすぎじゃね?」
ツスルも即座に切り替える。
「当たり前やろ。」
ハウンドが先ほどの真剣な言葉をわずかに疑うほどに早い切り替えだ。
「ええか?君とハウンド君は天龍事変の容疑者になったやろ?そん時の罪を帳消しにするときに大同盟優先で動くことを約束したやろ?」
パルは思わず舌打ちした。
教団の策による冤罪とはいえ、大々的に女王暗殺の容疑者として公表された彼女たちは無実の証明のために天の国クーデター阻止に尽力したとして減刑が認められた。
一方で、それで彼女たちの戦力を野放しにしたくない国も少なくなかった。
特に戦場の都市伝説とも言われていたパルの復帰は軍事国家である龍の国の戦力を大幅に底上げするため、なんとしても首輪を付けたかったのだ。
そこで妥協策として発足間もない大同盟関連案件への優先的な参加を約束させることが決定された。
これにより、少なくとも大同盟に参加していればパルをはじめとする龍の国の戦力を相手取ることがなくなるためだ。
「ええか?ワシはな大同盟ができる前からこのことを考えとったんや。都合よう忘れられても困るで?」
あおるようなツスルの笑みにイラつきながらパルは引き下がる。
とはいえ、ツスルの言葉は確かに筋が通っている。
常設軍の影もないころからこれを見据えていたツスルの政治力を認めざるを得ないだろう。
「カインもですか?」
今度はハウンドが声を上げる。
確かにカインは天の国クーデターにおいて教団の先兵として参加していた。
だが、彼の場合はクーデターそのものが未遂に終わったことや彼自身、右腕を落すことで禊をしたため不問となっている。
これは天の国が自国の戦力をコントロールできなかったという汚点を隠すためでもあった。
「剣聖は事情がちとちがうわな。そもそも天の国の軍人やないし逆に天の国の要人ってわけでもない。ただ、こんなクソ強いやつ放し飼いにできへんやろ。せやから大同盟軍の所属にしてこれまで以上に使い倒すんや。」
さも当然のように使い倒すと言ってのけるツスルの丹力はハウンドは反論する言葉を失う。
ただ、これもツスルの言い分が通ってしまう。
特に、パルに匹敵する程の能力を持つ彼が軍の所属でもないというのはいささか放任が過ぎる上、コントロールのしようがない。
端的に言えば、彼が大同盟非加盟の国へ協力する可能性もある。
それを回避するために大同盟の所属とすることでコントロールしようというのがツスルの考えだ。
使い倒すというのは冗談でもなんでもなく、手元に自由に使える人員が居ればそれを限界まで使うのがツスルのスタンスなだけだ。
それに当の本人であるカインが声を上げない時点で、ハウンドが何を言っても仕方のない部分もあった。
「早速で悪いけど、カインを除く白の部隊は刃の国へ行ってもらう。向こうでなんかするわけやない。ただの牽制や。」
「効果はあるのでしょうか?」
ハウンドが聞き返す。
確かに、彼らが刃の国に赴いたところで政治的な決定権は彼女たちにない。
言葉通り『行くだけ』になってしまう。
「これはあくまでポーズや。ワシの方の準備ができるまでの時間稼ぎと『大同盟軍は即座にこれだけの戦力を刃の国に展開できる。』っていうポーズや。」
刃の国は風の国跡地に隣接しており、跡地を狙う大同盟非加盟の花や歌の国との最前線になる可能性がある。
そこへ、パルやカイン、ハウンドといった強力な個人と、高い戦闘能力を有するノーチラスを派遣できることを証明する。
これによって花と歌の国の軍事的な行動を抑制するだけでなく、彼らの軍事的パフォーマンスの効果を低下させる。
どれだけ花と歌が派手な軍事パレードや演習を行おうとも既製品を中心とした部隊と、パルのような異常な経緯と戦闘能力を持つ人間や亜人であるハウンドが相手では当然見劣りする。
そういった意味で非常に強力な牽制となるだけでなく、ツスルの考えている策が形になるまでの時間稼ぎもなる。
最小の労力で多大な効果を望めるだろう。
「その策とは?」
ザイチが聞くと、ツスルは少し思案する。
「んー…今言うてもしゃあないと思うわ。もうちょっと待ってや。」
一通りの説明を終えたツスルは違和感を覚える。
参加している彼らからすると納得していないのに話が終わったからだ。
状況を察したパルが発言する。
「なあ、総督様よ。本音はどうなんだ?こんだけの面子そろえて仕事してねってのは無理があるぜ?」
ツスルは苦い顔をしつつも観念する。
「わーったわーった!確かに君ら相手にごまかしは通用せえへんな…はっきり言うとこうか。常設軍の意味とこの戦力の意図。」
一同に再び緊張が走る。
はぐらかそうとするほど厄介な話。
それだけで警戒に値する。
それは政治的な理由で相手が決まる軍人ならではの感性ともいえた。
ツスルはその雰囲気に飲まれそうになりながら、仮に。と切り出す。
「ほんとに仮定の話や。天の国が大同盟を裏切ったらどうなる?天だけやない、龍にせよ港にせよ刃にせよ滝にせよや。混乱が生じるやろ?それに大同盟軍を緊急で結成する時間も戦力もないかもしれへん。せやから各国から戦力の上積みを大同盟所属にして常設軍にする。」
「裏切り者の始末のために?」
パルの疑問はこの場にいる人間の全員が大なり小なり感じたものだ。
ただ、ツスルは首を振って否定する。
「そうやない。大同盟を外れた国に対しての制裁やなく、その国が軍事力を行使する場合の盾としての存在が必要やという意味や。」
「大層な理屈だな。大同盟が狂ってたらどうすんだ?お前が狂ったらどうするんだ?オレ達はお前の手勢か?」
パルはあえて極論を言う。
安全装置の安全装置。
無限にループするものではあるが、だからと言って全くそれを用意しないのは正しいとは言い難い。
嚙み砕いていえば、常設軍を縛る物がない。
それだけツスルに与えられている裁量は大きく、準備も相当に周到だった。
そん時は。そう呟き、ツスルは息を吐く。
「ワシを討てばええ。君らになら簡単やろ?」
「わかってんならいいぜ。」
その言葉で場の雰囲気がなごむ。
「そういう意味ではオレ達は適任だ。」
誰一人としてそれを否定せず笑顔を見せる猛者たちにツスルの背中にいやな汗が伝う。
皮肉にも首輪を付けるはずの自分が首輪を付けられていた。
下手討てばワシはこいつらに殺される。
想像もしたくないその結末が、現実にならないことをただ祈るのだった。
次回は水曜日。
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