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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-11 仮面の下

剣王会【一般情報(更新有)】

旧風の国が雇用していた傭兵組織。

剣術のみならず銃火器の扱いも訓練されており、剣客集団としては異色ながら集団戦も得意とする。

その理念は『屍は礎に、魂は心に。』であり、彼らの一集団としての信念が見える。

風の国解体と同時に離散し、自然消滅したが、一部は国家を変え、客員兵士として現役で活動している。


ツスルが改修作業を終えたノーチラスと共に天の国へ帰還して3日が経過した。

それは彼が世界中に散らばった関係者に出した召集命令の集合日でもある。

まだ、午前中ではあるものの彼の元には選りすぐりの軍人が到着の報告に現れている。

「セリンスロ・ケン。戻りました。」

「すまんな、ハウンドくん。休暇やなんや言うて2週間ぐらいしか休めへんやったろ?」

ハウンドは敬礼を解くと軽く笑って見せる。

「お気になさらず。休暇ではなく滝の国の現状調査でしたから。」

「ほな、今度は休暇を用意せなあかんな。」

和やかな雰囲気の中でさらに来客が訪れる。

「港の国コオウ・ママー元帥以下一名!到着の挨拶に伺いました!」

ママが部屋の入口で声を張る。

ハウンドはママの隣にいる人物に驚く。

先の大同盟軍との戦闘で敵対した傭兵軍団『剣王会』のザイチがともにあいさつに来たのだ。

「ハウンド君、こまい話はおいおいさしてくれや。」

ツスルは申し訳なさそうにそう言ったが、ハウンドは笑顔で頷き部屋を出る。

すれ違い際にママへ軽く頭を下げると、彼とともにザイチも頭を下げた。

国家によって雇用される傭兵であれば、敵対した後に共闘することもその逆になることもありうる。

ハウンドもそれは理解していたが、かつてザイチの所属していた剣王会が消滅したにもかかわらず国家に登用されているというのは珍しく、驚いていた。

「忙しそうですね。」

ハウンドを見送ってから、ママはツスルの前に出る。

「何事も最初がバタバタするんや。明日は式典もあるしな。」

「そうですね。そういう意味ではスタートに彼女が来てくれたのは大きいのでは。」

彼女という単語にツスルは口角を上げる。

常設大同盟軍の成否を握る兵士。

だが、ママの予想に反してツスルは首を振って否定する。

「残念ながらたまたまやない。あん子がこのタイミングで来たっちゅうことや。」

「それは御見それしました。さすがの人徳と見える。」

「茶化すんやない。あん子を連れ戻したんはレイア女王や言う話やしな。」

「彼女は今どこに?」

ママの問いにツスルは否定するように手を振る。

「わからん。3日前に到着はしとるけど、揃うまで時間かかる言うたら散歩してくるう言うてどっか行ったわ。」

「そうですか。なら探してみるのも一興ですかね?」

ママが声を上げて笑うと、ツスルも同じように笑う。

「せや、資料を隣の部屋に用意しとるから読んどいてくれや。」

ママはすぐさま、表情を引き締め敬礼で答えると、ザイチとともに部屋をでる。

すると、待ち構えていたリョーマが道案内を買って出る。

彼の誘導で小さな会議室に通された2人は椅子に座り、机に用意された書類を手に取る。

「なにか、用かな?」

書類に目を落とす前に、ママは扉の前で立ち尽くすリョーマへ声をかける。

「名乗らず失礼しもした!おいはサイタニ・リョーマといいもす!」

緊張しながらも声を張るリョーマをママは気に入る。

「ああ。こちらも失礼した。私はコオウ・ママー元帥。こっちはザイチだ。」

ママに紹介されたザイチも彼を気に入ったらしく、笑顔で軽く頭を下げる。

リョーマはあっけに取られたように立ちすくんでいる。

化粧これか?まあ、いろいろあってな。仮面みたいなものだ。」

「な…なにかあったんがか?」

リョーマは恐る恐る質問する。

彼自身、人の事情を深く聞くことは無礼であると認識しているが、咄嗟に聞いてしまった。

自分の言葉に気づき、リョーマは深く頭を下げる。

「し…失礼しもした!」

「気にしなくていい。簡単な話、元の名前と姿で生きられないだけなんだ。」

リョーマは首を傾げる。

「そうだな…簡単に言えばこれは禊のための衣装だと思ってくれればいい。」

「禊…?」

「そうだ。私は脱走兵だ。戦場から…いや、すべてから逃げ出したんだ。」

心配そうに視線を投げるザイチをあえて無視してママは話を続ける。

「風の国はわかるな。私は元々、あの国で兵士をしていた。国の方針と軍の正義を信じてね。」

そういってママは彼に手を見せるとその手が猛禽類を思わせる爪に変化した後、ゴリラのような毛深く強靭な拳に変わり、元の人のそれに戻る。

「私は君達、亜人の力を人為的に再現したキメラ兵士だ。ああ、勘違いしないでほしいのは、私は志願して手術を受けている。」

リョーマは唾をのむ。

獣の国という亜人の国から来た彼からすればママの力は異常というより狂気として映る。

「私は、風の国が勝者となることが戦争を終わらせる近道だと思っていた。」

今から約30年前、各国が戦争を常態の手段としていた大戦争の時代、各国は減少傾向にあった人口をさらに減らすような行為を見て見ぬ振りをした。

ただ、それは大戦争という時代が続けば続くほど表面化していく。

特に軍人の数は著しく減少した。

各国は目減りしていく軍事のマンパワー不足解消のために様々な技術に手を出していった。

「当時、減った兵士の穴を埋めるためにデザインベイビーやゴーレム技術に出資していった。ただ、それでは戦力差を覆すことはできない。」

「笑える話だが、各国の投資先がそろいも揃ってヤタ重工だったからな。ヤタの進歩が技術の進歩。だから、金を積んだ国が一方的に戦場を支配できたんだ。」

ママの言葉をザイチが補足すると、彼は感慨深げに頷く。

「ザイチの言う通りだ。国の出資では資金力が戦力に直結する。それではらちが明かない。だから、私のように、人間を強化することで戦力差を覆す研究もなされたってわけだ。」

そして生産されたキメラ兵士たちは生産英雄ファクトリー・ヒーローと呼ばれ、戦場を席巻した。

「当時の風の国は勢いがあった。相手国であった龍の国との未開拓地域争奪戦、はっきり言って勝算はあったんだ。」

しかし、そのすべては大国が開発した1人によって覆される。

「しかし…風の国は負けた。龍の国が投入したたった一人の少年兵によってね。」

「龍ん国が少年兵…?」

リョーマが事実を疑うのも無理はない。

龍の国は大国の一つに数えられており、風の国に押されている状況であったが、指折りの軍人が在籍していた。

そんな国が少年兵を投入することを疑問に思うのは仕方がない。

「少年兵ってのは非正規の連中が人手をカバーするために投入していた。一方で正規軍に所属し、正規軍の相手をしていた私にとっては縁のない話でもあった。」

ママは当時を回顧するように目を閉じ、深呼吸して開く。

「私はね。自分たちが勝てば戦争は終わるし、少年兵こどもが戦う必要はなくなると思っていた。ただ、目の前には少女がいる。私は負けられないと思ったよ。負ければこの少女はさらなる戦場へ送られる。前線で、ひとを殺すためにね。」

それが傲慢でないことはママの目を見ればすぐに分かった。

勝利するという信念や正義ではなく、慈悲。

「今思えばその子を引き取ることも考えていたかな。失敗作となった生産英雄ファクトリー・ヒーローの末路は私もわかっていたし…」

引き取ることを考えていたことはザイチも初耳だった。

というより、ママと龍の国の少女の戦闘後、彼は失踪したため当時の心境は知る由もなかった。

「まあ…引き取るといっても汚れた手じゃ、手を汚す生き方しか教えられない。それはわかっていたんだ。でも、そう思ってしまうもんなんだ。」


『子供の出る幕ではないッ!いいか!軍人というのはお前たちを守るためだけにあるのではない!お前たち子供が戦場に出ないために代わりに戦う存在だ!』


ほんの数か月前、ある少女へ切った啖呵。

それは彼が戦う意味であり、正義であり、一度、見失ったものだ。

「子供が戦わないようにするための軍人…そう思っていたが、私は現実を見ていなかった。私がその覚悟と信念で大人を殺す裏で、子供たちは戦場で命を落し、生き方を歪められていっていた。」

目の前で少年兵という現実に直面し、その少女が目に宿した『押し殺さずを得なかったやさしさ』に気づいたとき、彼の決心は強く強固になり、敗北をもって砕け散った。

「結果から言えば私はその少女に負けた。手を抜いたとか、油断したとかではなかったよ。ベストに近いコンディションで、本気で戦い、負けた…」

「そいで脱走兵に…」

結論を察したリョーマは口を挟む。

ママは視線を外したままバツの悪そうに頷く。

「逃げたら今度は風の国から刺客が送られてきた…国が投資した独自の最新技術の粋だったからね。敵国に渡る前に殺すというのは正しい判断だ。流れに流れて港の国に居つき始めたころ、同じような事情を持つ連中の寄合ができていた。」

「それがサーベル・タイガーってわけか?」

いつの間にかザイチも聞き手側に回る。

「そうだ。そこでは顔を隠すために化粧をして、名前を変え、女性ものの服を着て奇人を演じる。そうすれば人相書きも意味をなさんからな。」

「なしで今もそれを続けておるんですか?」

半分たてまえは趣味。半分ホンネは…隠したままにしていたいんだ。相手が気づいていようといまいと、化粧をして『サーベル・タイガーのママ』であり続けたいんだ。」

情けないけどな。ママはそう付け加えて笑う。

「正直、トラ教団だとか大同盟だとか気にせず世捨て人になるつもりだった。けどな、あの時の少年兵と再会して気が変わったんだ。」

訳アリね。再会した時、そう声をかけたことを思い出す。

真珠のような髪色と宝石のような赤い目は変わっていなかった。

そして、あんたがか?と返されたとき、答えに窮した。

訳など星の数ほどある。

だが、それをどう足し合わせても、再会した彼女に協力しない理由には足りない。

「信じられなかったよ…とっくに死んだと思っていた。大戦争が終わりを迎えたとき、処分されたと思っていた…だが、その子は生きていた。大きくなってたなあ。それにいっちょ前に恋なんてしててよ。そしたらほっとけねえじゃねえか。」

言葉にすることで感動がこみあげてきた。

わずかに瞳をうるませ、口調が砕ける。

「あとは知っての通りさ。私は軍人に復帰した。不思議なもんでな、私はあの子に2度も人生を変えられたんだ。」

一度目は己の無知と現実を突きつける存在として。

二度目は戦う意味と軍人の在り方を示す存在として。

ママの人生の転機には常に彼女がいた。

「そん人は…今?」

「昔は『ドラゴン』というコードネームを使っていた。今は『ルビリア・パル』。お前も知る龍の国のパルちゃんさ。」

パルの経緯を知り、リョーマは言葉を失う。

彼から見た彼女はそういった過去を持つ暗さや悲壮感を感じさせない。


ママが話を終えると同時に、部屋の前にいた女は歩き出す。

挨拶でもしようかと思っていたが、とてもできるような状況ではなかったからだ。

彼女は自分の頭にあった兵士とママの姿をはっきりと重ねる。

今思えば必死な目をしていた。

そして、自分という存在が、彼を苦しめていたことは自覚していた。

一方で、彼を救ってもいたことを知った。

彼女の口角がわずかに上がる。

「古い話しやがってよ。オレの歳がバレるじゃねえか…」

悪態を吐きながら喫煙所へ向かう。

宝石のような目がわずかに潤み、真珠色の髪が上機嫌に揺れた。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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