3-10 父の最期、友の真相
80200可変式多目的弾頭投射ユニット『マスカラ』【軍事情報】
ヤタ重工が新たに開発した戦艦用兵装システム。
多目的弾頭投射ユニットの名の通り、目的ごとに複数の弾頭を切り替えることを前提としており、当該弾頭の装填、発射を半自動で行うことができる。
通常の誘導弾のほか、拘束用瞬間凍結弾頭、光魔術式鎖状拘束弾頭、対魔力拡散投射弾頭、質量弾頭、無誘導小型拡散弾頭、魔力式延焼弾頭などを切り替えることができる。
加えて、各種弾頭に200mm〜80mmまでのバリエーションが存在し、より小口径の弾頭を使用する際は光魔法によってその隙間を埋め、効率的な運用を目指している。
一方で、これだけの弾頭を搭載するためのスペースと効果的に運用するだけの知識が必要となる。
そのため、マスカラとしての装備はあまり見られず、各弾頭の専用兵装として商品化されている。
なお、『マスカラ』は龍の国の一部地方などで使われる言葉で、『マスク』『仮面』という意味である。
簡単に取り換え、別の表情を見せるという意味で命名されている。
龍の国の資料室で、パルは再びレイモンドと向き合う。
レイモンドはパルと自分の席に紅茶のカップを差し出す。
「さっきとは違う茶葉だ。口に合うといいけど。」
そりゃどうも。とパルは軽く答え、少しすする。
先ほどよりは渋みが強いがその分、風味をよく感じられる。
「茶菓子がほしい奴だ。まあ、オレはこっちのほうが好みだけど。」
「プルトが作っていた品種だよ。」
パルは、その言葉に対して答えることもなく、カップを静かに置いた。
実父であるプルト。
ただ、それはあくまでも状況証拠からそう判断される部分が大きい。
しかし、こうした紅茶やコーヒーの好みは似通っている。
「嬉しそうだね。」
レイモンドは笑顔で問いかける。
その目は古くから知る親友の娘に対するそれだ。
「オレは…親父のことも母親のことも碌に知らねえんだなって。ただ、今はそれを素直に…2人を知ることができてうれしいって思えてる。」
パルはそう答えると、ペンダントを首から外し、机に置く。
「見ても?」
レイモンドの問いに、頷き答えるパル。
彼の声がわずかに震えていることが、すべての答えであるともいえた。
「ああ…そうだね。彼の目と同じ深緑のペンダントだ…そうか…」
レイモンドは感慨深げにペンダントを手に取って呟く。
パルもその様子を目にして、こみあげてくるものを感じていた。
「君は…これのために…そうでなければ生きられなかったのかい?どうして…言ってくれなかったのかな。僕は…」
「親父は…それをオレの首にかけてくれた。成人の祝いだっつってな。」
パルの言葉が最後の一押しとなったのか、レイモンドの目から涙がこぼれ始める。
「親父は…パーシヴァル・プルトは狂ってた…」
パルは手で目を隠す。
「それを…オレの首にかけて、大きくなったなって…おかしいだろ…オレの身長は低いのに…オレの成長なんて見たことないのに…!」
声が震える。
涙が溢れる。
それだけ、プルトを他人と思えていない。
「何が…人間的に大きくなっただよ…オレはちっとも…」
「ありがとう…」
「ああ…ああ!そう言った!自分を親にしてくれてありがとうって…!オレが…オレは…」
レイモンドは声を上げて大粒の涙をこぼす彼女にペンダントをかける。
「わかったよ…ありがとう。プルトは君を父として愛していた。それがわかれば十分だよ…」
「でもオレは!親父を!わかっていたのに!オレが殺したッ!」
「いいんだ。いいんだよ。仕方のないことだった。それでいいんだ。」
慟哭。
泣き叫ぶ声。
様々な感情が大挙して押し寄せてくる。
彼女にとってすべては終わっていない。
終わらせることができない。
だから背負う。
自分自身がつぶれそうになりながら進んでいく。
それを分け合い、ともに背負い。
過去と付き合っていく。
それが生きるということなのだろう。
天の国も夜を迎えていたころ、一隻の船が入港していた。
常設大同盟軍で運用するために改修作業を終えた多目的特務戦闘艦『ノーチラス改』。
それが正式運用のために天の国へ入港してきたのだ。
船を降りたツスルは大きく伸びをする。
予想外の戦闘の疲労もあったが、2週間ぶりの帰国がひどく懐かしく感じた。
そんな彼のもとに1人の男が作業員に指示を出しながら近づいてくる。
ツスルはその顔なじみに手を振ると、彼は大型犬のように駆け寄ってくる。
「お疲れさまっス!事務局長!」
やや乱暴な口調だが、その人柄を知る人間からすれば大した問題ではない。
「遅れて悪かったのうニニギ君!早いとこ実戦仕様にしてくれや!」
ツスルはニニギと握手を交わす。
「そのことでお話が…」
神妙な面持ちのニニギが事態の深刻さを物語る。
その原因が先の奇襲であることは明白である。
突如決まった出航で深海を潜航するノーチラスへの奇襲。
それは事前情報に加え、相応の装備が必要になる。
特に移動用として戦闘能力のほとんどを制限されている納入直前の襲撃など簡単にできることではない。
その背後にある部分。
ツスルが当面の課題として考えていた部分への解答をニニギが持っているのなら話が早い。
「すぐ時間作るわ。実戦仕様への調整はどんぐらいかかる?」
「マザーの最終調整を含め24時間程度です。ドクさんがマザーの搭載作業を完了してくださったので調整はマザーとの対話ベースで進めます。」
マザーは基本的には艦運用を補助する対話型インターフェースではあるが、当然、その補助のために艦の状況や仕様を理解している。
そのうえ、各装備の調整を行う権限を与えられているため、ハード面を人間が担当し、ソフト面をマザーが担当する。という役割分担が可能になる。
それによって本来、各分野の専門家が時間をかけて計算と調整を行う作業を短時間で完了できるのだ。
ツスルは後ろから下船しようとしていたドクに追いつかれる。
「忙しそうだね?」
「問題あらへん。これから忙しくなるんや。」
笑顔でそう答えるツスルに頼もしさを感じつつも、仕事に忙殺されることをなんとも思っていないツスルにかける言葉を失うのだった。
「帰還命令か。状況的に仕方ないか…」
事実上の休暇として滝の国での調査を行っていたハウンドはホテルのフロントで伝言のメモを受け取り呟く。
「おいも戻りもす。」
彼に同行する形でこの国を訪れていたリョーマもすぐにそれを受け入れた。
「また戦争になるんですか?」
不安そうに彼らとともにこの国で行動していたハウンドの娘、セッカが声をかけた。
「すぐにはならんだろう。ただ、今、俺の所属している常設大同盟軍は最前線で戦う部隊になる。そういう意味でも帰還命令が出たから戦争ってわけでもない。」
戦争。
会話の中でごく自然に出た単語に、フロントの女性スタッフが表情をわずかに曇らせる。
「場所を少し変えるか。リョーマ、この国での最後の食事だ。奢るぜ。」
最後?わざとらしく強調された言葉をあえて繰り返すリョーマ。
ハウンドなりの冗談であることは理解しているが、もっと笑えるものにしてほしい。と内心思うのだった。
3人は併設されたカフェテリアのテーブルに着く。
ハウンドは適当にメニューからオーダーを済ませると、大きく息を吐く。
「さて、俺とリョーマは明日一番で天の国へ戻る。セッカ、悪いがまたしばらく義母さんを頼む。」
「平和は遠いもんですかのう…」
リョーマの発言は疑問というより独り言に近い。
「お前は国が武力を捨てればそれで平和になるってのか?」
「違いもすか?力があっからそいば使うんじゃなかがか?」
「確かに戦争はなくなる。使う力がないからな。ただ、それは政治の舞台が戦場に変わるだけだ。」
「それがレギオンを作った?」
セッカも会話に混じる。
確かに、レギオンのような政治戦争の舞台装置が台頭する条件ではある。
そしてそのレギオンが手に入れた多くの政治スキャンダルと非合法の報酬は『レギオンの遺産』としてトラ教団の行動資金になっただけでなく、教団の崩壊後も各国を悩ませる存在となっている。
「じゃっどん、そいなら民は死ぬことはないがか。」
「どうかな。戦争があろうとなかろうと、すでに世界は力を持っている。その力のすべてを捨てたとしても非正規の軍隊は武力を持ち続ける。」
「その力が向くのは…」
「お前の言う民だ。」
ハウンドはかなりシビアな例えをリョーマに話している自覚があった。
すべての軍事力を放棄する。という平和への近道に思えるそれが孕む危険性。
それを理解しきれていない場合、その近道へ強行することも考えられるからだ。
それに、件のトラ教団の首魁、パーシヴァル・プルトを狂わせた最大の原因は天の国の正規軍がジユウの村という辺境までカバーできなかったからともいえる。
軍人としてではなく、その事実を知る人間として、武力の放棄は考えられない。
それに、とセッカが切り出す。
「政治が戦場になれば経済制裁等の名目で国力へのダメージを与え始めます。そうなれば、その皺寄せも…」
最後まで言い切らなかったが、当然、その矛先も市民へ向けられる。
ただ、国家間の戦争も無視できる問題とは言いがたい。
そういった意味でパーシヴァル・プルトやリトの構想していた理念は決して間違ったやり方とは言えないのだ。
教団による国家支配と、非正規組織の統合によって、国家対組織の構図によって市民への被害を減らすことを考えたプルト。
すべての国家を大同盟へと統合し、協調のもとに非正規組織を駆逐、大同盟を離反しようとする存在を自分たちが始末することで強引でも安定を求めたリト。
特にリトの概念は常設大同盟軍の誕生によって曲がりなりにも実現しつつある。
しかし、これらはあくまでも一つの考え方に過ぎない。
どちらの理念にも付随する問題があり、それは時間が経過すればするほど表面化する。
向こう10年の平和のために20年後を混乱させる権利は今を生きる人間にはないのだから。
「難しい話ではある。ただ、どういう道をとったとしても犠牲になるのは市民だ。いつだって…」
ハウンドの脳裏にはプルトともう一人が浮かぶ。
ジユウの村焼き討ち事件のもう一人の被害者。
孤児として体を売ることで食いつなぎ、政治と軍事のエゴで生き方を曲げられたパル。
そんな境遇であっても強く、生き抜く彼女は尊敬に値する。
そして、その彼女の力になれなかった自分は。
自己嫌悪に陥る彼の目の前にオーダーした料理が続々と並べられる。
「暗い話もなんだ。飯でも食って今度考えることにしようぜ?」
ハウンドは想像よりもいくらか多い料理を前にそう宣言する。
老いた胃腸が悲鳴を上げそうな分量だが、まだ大丈夫だろう。と自分に言い聞かせながら。
次回は水曜日。
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