3-9 星の瞬き
OSML-202〈T〉超大型魔力投射砲『エストレージャ』【軍事情報】
ヤタ重工重兵器開発部門が開発した艦載攻城兵器。
魔力をチャージし、圧縮、投射するという魔力兵器の基礎にして簡潔な理論を大型化したもの。
本来、魔力炉の限界出力を図るための試算用として設計されたものだが、ノーチラス改修作業の際に、戦闘用に再設計された。
型式番号の『OSML』は『OverSizeManaLauncher』の略称で、超大型魔力投射砲を指し、202はヤタ重工の試作兵器に付けられる通し番号、〈T〉は構造転用の『Trance』を意味する。
記録ではヤタ重工が改修作業に合わせ、データ収集のために搭載することを依頼したことになっているが、元々、ソラウ・ツスルの作成した仕様書にも記載もある。という複雑かつ矛盾した状態にあるが詳細は不明。
なお、『エストレージャ』は龍の国などの地方特有の言葉で『星』を意味し、『星を貫く』という意味合いでソラウ・ツスルが命名した。
夜を迎えた龍の国で、パルとレイモンドは王城の資料室で向かい合うように座っていた。
資料室とはいうものの、保管されている資料が古すぎる上、閲覧の頻度が高いものは各執務室にて保管されているため、実質的にレイモンドの執務用個室になっている。
また、彼はそれにかこつけて、世界中の茶葉をはじめとする私物を多く持ち込んでいる。
そんな彼の用意した紅茶の香りを楽しみながら、パルは深刻な面持ちのレイモンドに声をかける。
「さて…オレの話をする前に、お前の方を聞かしてもらおうか?プルトとは知り合いだったんだろ?」
レイモンドは目を合わせず、小さく頷きながら、話を始める。
「僕とプルトは大学時代の同級生だった。って話はしたよね。僕らはサクラメイトの専修学院で社会心理学を専攻していてね、2人で組んで賭けで儲けたりして楽しくやっていたんだ。」
ここまではパルも知る内容だ。
サクラメイトは天の国に存在する地方都市で、首都を擁するヒロヨシ山の裏側、旧鎧の国との国境付近の町だ。
「ただ、僕もプルトも専修学院を卒業した後も、交流があった。といっても、僕はサクラメイトが地元だからそこにとどまって、彼は首都のほうに拠点を移したんだ。それからは以前に比べて会う頻度は年に数回に減ったけど。」
レイモンドは一息入れるように紅茶を飲む。
「今から…大体30年とちょっと前かな。彼は路地裏であった女性と結婚して首都を離れていた。驚いたよ。賭けで荒稼ぎしていた彼が、土いじりして妻がいればいい。なんて言ってたんだよ。」
「それが、エメラルダ。オレの母親か?」
パルは思わず口を挟む。
といっても記憶の遠い果てにある存在で、顔さえ思い出せない。
「そう…だね。」
「なんだよ。その曖昧な感じは…?」
「多分そうなんだろうって意味だよ。状況を考えれば君はプルトとエメラルダさんの娘になる。ただ…」
そこまで言われてパルは彼の態度を理解する。
「状況証拠しかないってわけだ。」
「君がそう思うのならそれでいいと思うし、否定してもいいと思う。ただ、教団の長となった後のプルトは正気だったとも思えない。」
パルは視線を落とすとプルトから送られたペンダントが目に入る。
せめて、自分が母の名を覚えていればこの問題は解決した。
そう思うと、自分を責めたくなる。
「悪かった。続けよう。」
レイモンドはパルがネガティブな思考を始める前に話を戻す。
「僕が会った時は結婚したばかりだった。つまり、君とは会ったことがない。ただ、手紙で娘が生まれたことと、その子が成人したときに送るプレゼントの用意をお願いされた。それがどうなったのかは、僕にはわからないけどね。」
「それは…まあいいや、続けてくれ。」
一度、パルは口を挟んだが、話が長くなるため、レイモンドに譲る。
「そうかい?えっと…ああ、そのあとも何度か手紙でやり取りをしていたんだ。それから…次に会った時には…」
「トラ教団を立ち上げようとしていた。いや、レギオンをつぶそうとしたのか。」
「そうだ。彼らの住んでいた村が焼き討ちにあったことを知ったのとほぼ同時に彼から協力を依頼された。」
『ジェイン。私のために力を貸してくれ。妻と娘の無念を、この世界を!私は!変えなくてはいかんのだ!そうでなくてはならない!レギオンよりも直接的な組織とッ!力でッ!私は世界を変えるシステムを作らなければならんのだッ!!」
そう力説するプルトの姿を思い出す。
思えばこの時点で彼は正気を失っていた。ともいえる。
彼の理想。
それは、非正規の武装組織を『トラ教団』として吸収、各国の正規軍とぶつけることで市民への山賊行為を抑制する。
焼き討ちという行為を経験した彼ならではの発想ともいえる。
ただ、このやり方は不完全とも言え、特に、教団に吸収されず、野に放たれたままの非正規組織が第三勢力として市民への攻撃を行わないとは言い切れない。
加えて、教団が巨大化すればするほど、そうした第三勢力への対処を国が行えなくなる。
しかし、彼のように行動を起こさなければ数多の非正規武装組織の力は年々増していくばかりか、軍縮の流れが続く世界で、被害を食い止める術も失いかねない。
プルトの教団結成は結果として軍縮への警鐘となり、各国は考えなしの軍縮を避けるように方針転換を図ったともいえる。
「それが僕がプルトと会った最後だった。教団の立ち上げのためにレギオンを陥れ、崩壊させ、彼に教団という宗教組織を作ることを促した。宗教ならば市民を巻き込み易いからね。」
「それは…政治組織だとマズイってことか?」
パルは今一つ話を理解できず、聞き返す。
「そうだね。レギオンが消えて、政治活動組織ができても、それはレギオンの後継としか認識されない、それじゃあダメだった。レギオンのデモは結構顰蹙を買うこともあったし、何より軍官の時代に政治組織は力を発揮できない。銃を持った兵士の前で政治批判できるほどの根性はないからね。」
「確か、レギオンは勢力こそ最大だったが、大戦争の時代には活動を縮小していったらしいな、そういう事情だったのか。てっきりお前らがやったのかと…」
「君の認識は間違っている…といえば間違ってるね。僕とプルトは大規模なデモ行為ができなくなっていたレギオンを潰しただけだ。そういう意味では、最後の一押しを加えただけだね。都合よくなるように。」
なるほどね。パルはそう言って椅子に沈み込む。
『トラ教団』宗教組織は大戦争という各国が戦争を常態の手段としていた時代において、非常に素早く浸透した。
明日をも知れぬ市民にとってトラという神の存在は縋るにたる存在だったのだ。
当時はそうした組織がいくつか存在しており、逆に言えばトラ教団がレギオンの後継であるということは誰も知らず、凡百の組織として認識されていた。
そして大戦争という時代の幕引きに合わせるように教団はその活動を縮小、陰で政治に加入しつつ、戦力の強化を図っていった。
「そう。それが、僕の知るプルトのすべてだ。」
レイモンドはカップの中身を飲み干し、立ち上がる。
「意外と長くなったね。一息入れよう。」
パルは笑顔で頷くと、レイモンドは彼女のカップを受け取り、給湯スペースへ向かう。
ああ、それと。レイモンドは足を止め、振り返る。
「ここ禁煙だからね。」
タバコを咥えていたパルはあっけにとられる。
心理学を専攻していた。というのは間違いないらしい。
パルは頭を掻き、面倒くさそうに部屋を出るのだった。
鉄の国は龍の国や天の国のあるサンヨウ大陸とは異なり、その東側に位置するキョウラク大陸に存在する。
そのため、ノーチラス改を受領したツスルとドクは海路で天の国を目指している。
潜航して海中を移動する船内にけたたましい警報が鳴り響く。
「なんや!」
客室で待機していたツスルがあわててブリッジに駆け込む。
『敵襲です。小型戦闘艇3隻。所属不明ですが、デザインベイビー艦ではなさそうです。』
マザーが手短に状況を報告すると、ツスルは胸を撫でおろす。
「そんなら向こうは手え出さへんやないか。」
『いえ、海中機雷を投下しています。起爆がはじまると』
ツスルの認識を正そうとしたマザーの言葉を遮るように衝撃が艦内を襲う。
「マザー!魔力防壁の7番を展開!対艦戦闘用意!」
後から入ってきたドクがマザーに指示を出す。
『魔力防壁7番起動。しかし、戦闘用装備のほとんどが使用できません。』
「装弾作業だけやろ!終わっとらへんのは!」
『いえ、魔力連装砲、近接防御火器兵装(CIWS)への魔力補充がロックされています。天の国で装弾作業の際に解除される予定です。』
多数の火器を内蔵しているが故に、政治的な事情で装弾作業ができず、魔力炉の出力も制限されたままの出航となったが、それは弾頭系の装備だけにとどまらず、魔力炉から魔力供給を受け、使用される火器にいたるまでロックされていることはツスルも想定していなかった。
そもそも極秘裏に改修作業を行い、数時間前に出航することを決定したはずの船に対して、ここまで的確に襲撃できることが不自然なのだ。
「魔力防壁はどこまで持つんや?!」
『計算上、敵船に搭載されている予想積載量のすべてを投下された場合、現状の制限出力では魔力防壁を突破されます。その場合、』
「船が圧壊する…!この深度では!」
ノーチラスは積載量を多く確保するため、装甲に耐圧性を与えられておらず、潜航時は多層展開した魔力防壁を用いることを前提としてる。
そのため、潜航中の戦闘は不得手としている上、各兵装への魔力供給ができないだけに魔力炉の出力が制限されている現状では魔力防壁の強度も戦闘に耐えるレベルではない。
「マザー!振り切れへんのか!」
『エンジン出力が低すぎます。戦闘用魔力防壁の展開を解除しても逃げきれません。ただ…』
「なんや!」
マザーは正面のモニターにノーチラスの兵装状況を表示する。
そのほとんどが使用不能を表す赤い表示がなされているが、甲板部の一部だけが、使用可能の緑の点滅をしている。
『エストレージャが使用可能です。これのみ、魔力供給がロックされておらず、充填も完了しています。』
その説明を聞き、疑問を返したかったが、ツスルは迎撃を優先すべく、声を張り上げる。
「エストレージャ展開!目標!敵艦!」
『了解。エストレージャ投射プロセス開始。緊急時につき、安全点検項目A項からG項を省略。180度回頭。上部甲板展開。カレン、照準をお願いします。』
ツスルの指示から艦内の制御と砲撃の準備を一気に行う。
本来であれば艦長としての指示をもとに各担当が行うのだが、ツスル1人の指示でそのすべてを賄うことができるのが、マザーの、そしてノーチラスの強みである。
また、マザーの子機であるカレンはマザーの持たない視覚部分を補うことを目的としており、今回の改修に伴って、照準系統の管理を行えるようアップデートされた。
『マザー、照準よしです。ただ、バックデータが不足しています。照準補正効きません。船の振動もあるので、命中率は67.888888888888…』
カレンの報告にしびれを切らしたツスルは再び声を荒げる。
「かまわん!連中はワシらが攻撃できへんと思うとる!一発かませば逃げられるわ!」
『了解。』
マザーとカレンは同時に答えると掛け合うようにして発射の最終準備を進める。
『出力20%で固定。』
『砲塔固定。』
『最終安全装置解除。』
『トリガーをカレンへ。』
『I HAVE CONTROL…エストレージャ投射ッ!』
機雷による衝撃とは異なる大きな、押さえつけられるような衝撃がツスルとドクにのしかかる。
その時、海中から伸びた魔力の柱は密集していた3隻を飲み込み、雲の壁に穴を開け、そして消えていった。
『敵艦隊消滅。照射データをバックログに格納。砲身冷却開始。』
「消滅…?!」
脅しのはずの一撃が敵船を消し去ったことにドクは驚きを隠せない。
そしてそんな危険な兵装だけがなぜか使用可能になっている事実にも。
「仕様通りやな。マザー、砲塔の冷却状況は?」
落ち着きを取り戻したツスルは淡々と戦闘後の処理を進めていく。
「なにと…戦うつもりだね…?」
ドクは思わず疑問を口にする。
それほどまでに時代に似つかわしくない火力だ。
しかもそれはこの船の一部でしかない。
「そら。パルちゃんや。」
味方であるはずの彼女の名前を冗談とも言い難いトーンで答えられ、ドクは返答に困ったまま固まる。
数分後、ノーチラスは再び進路へ戻り、進みだした。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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