3-8 鉄の導き
ノーチラス改【軍事機密】
常設大同盟軍で運用される予定の多目的特務戦闘艦。
龍の国、白の部隊で運用されていたノーチラス号を大同盟出資で改修されている。
元のノーチラスが龍の国で独自に開発された故、兵装や魔力炉がゴーレムなどの技術を転用しており、やや見劣りする性能だった。
今回、大同盟軍所属となることで兵器分野で最大手であるヤタ重工が全面改修し、試作段階のものを含め武装の拡充が図られた。
一方で、多層魔力防壁による潜航や対話型インターフェース『マザー』の続投もあり、改修元同様に、少人数での鑑運用と高い防御、潜航性能を持つ。
世界最大の製造企業集合体『ヤタグループ』。
その始祖にして最大の生産企業『ヤタ重工』。
このヤタ重工の本社及び最も大きな生産工場が鉄の国に存在する。
鉄の国総国土の4割というあまりにも広大な敷地に造船や車両といった大型製品の工場が点在している。
造船区画一つとっても製造と改修で大きく分かれており、そこから戦艦や漁船、輸送船といったカテゴリーごとに区分けがされている。
ただ、そういった分類に含まれないものも存在している。
これはVIPの入国用に作られた港であり、外交上、通常の造船区画で担当できない、いわば闇の案件を扱うための秘密区画である。
その秘密区画で改修を受けているのが、大同盟常設軍が使用するための多目的特務戦闘艦『ノーチラス改』だ。
大同盟非加盟にしてあくまで中立の立場を維持したい鉄の国で大同盟の船を改修するということは、非加盟国を刺激しかねない。という鉄の国の事情と、龍の国独自の技術体系で作られたノーチラスを改修の名目で解析したい。というヤタ重工の利害が交錯した結果、この秘密区画で作業が行われていた。
この改修作業の目的は独自の技術で作成されたノーチラスをヤタ重工の技術で統合・整備することで今後の拡張性を確保するとともに、長期間の運用を視野にいれることが一つ。
そして、人員輸送の趣が強かったノーチラスの戦闘能力を向上させ、常設軍の戦力として活用することを目的としている。
ドックへ様子を見に来たヤタ重工の支店長シンゴはおおよその改修作業を終えたノーチラスを見上げる。
大きな長方形に4つの後部ブロックがエンジンとともに取り付けられている形状は改修前から変わらない。
しかし、後部ブロックは居住性の向上や格納庫スペースの整備が行われたことで内装面は大幅に向上。
当初の予定だった火力の向上も抜かりなく行われ、艦側面に配置された多目的弾頭投射ユニット『マスカラ』が装備された。
マスカラは文字通り、誘導弾をはじめとする様々な火器を発射可能な装置であり、拘束用冷凍弾頭や質量弾頭といったヤタ重工では正式に販売されていない試作段階の火器も運用可能になっている。
甲板部分には超大型魔力式投射砲塔(OverSizeManaLauncher)『エストレージャ』を装備。
魔力連装砲も龍の国製のものからヤタ重工製に変更。連射速度だけでなく、内臓式の魔力タンクにより、戦闘時の魔力ジェネレートを効率的にすることができた。
当然、これに伴って、魔力炉も最新型に変更。
加えて補助魔力炉を搭載したことで安定性も向上した。
他にも対艦戦闘を想定し、魔力式近接防空火器(Mana type-Close-InWeaponSystem)が装備されている。
一方で、対話型インターフェース『マザー』による艦運用補助を軸とした少人数かつ直感的な運用や、多重魔力防壁による潜航と、高い防御能力は元のノーチラスから続投している。
大元の開発コンセプトであった少人数での艦運用と安全かつ確実な人員輸送は改修前から完成されていたともいえる。
シンゴは目的の人物を見つけ、ノーチラス後方に設置されたタラップへと進む。
「いかがですか?ツスル事務局長?」
声をかけられたツスルは親指を立てる。
「ええ感じや。全て仕様通りかつ、これだけの短時間でようやってくれたわ!」
「マザーの同期作業もほぼ完了したと伺いました。予定よりかなり早いですが出しますか?」
シンゴの言葉にツスルの表情が険しくなる。
予定より早く出す必要が出たのは今朝の報道が原因だ。
「全く面倒なことしてくれるで。手を打たんわけにはいかんのが面倒や。」
「最短で今日の午後ってところです。」
「そんなら夜には天の国に入れそうやな。ほんじゃそれで頼むわ。」
「ただ心残りは実戦装備作業が天の国に入ってから…というところだけです。」
「まあ、しゃあないわ。大同盟非加盟の鉄の国でこれだけの戦艦作ったら相応の警戒はするやろ。」
「確かにそれはわかっています。しかし、それば逆に…」
シンゴを口をつぐむ。
「それもしゃあない。」
言い出せなかったシンゴの言葉をツスルが力強く否定する。
「せやから防壁はアクティブなんや。潜航用と言い張ってはみたが、要は追撃を振り切るためや。」
シンゴはツスルの理解に、ありがとうございます。と感謝を述べ、踵を返して歩き出す。
「ヤタ的にはどっちが『遺産』握った方がええんか?」
ツスルがシンゴの背中に声を投げると、シンゴは即答する。
「大同盟でしょうね。」
「その心は?」
「戦いたくないからですよ。特にこの船の連中とはね。」
シンゴはそう言ってノーチラスを指差すと、ツスルは声を上げて笑う。
「そりゃワシも嫌やわ!」
港の国、コオウ・ママー元帥は引き継ぎの資料を投げ出す。
分厚いファイルが数冊積まれているが、それは精査されていないだけで実際にはもう少し少ない物量になる。
「やめだやめだ!めんどくせえ!」
「ダメよママ♡ちゃんとお仕事しなきゃ♡」
そう言って、対面に座る補佐のジンスケは笑う。
港の国は海軍の下に陸軍がある組織構造上、ママが事実上、軍部の長、ジンスケは実質的な2番目となるが、とてもそうは見えない態度と格好をしている。
彼らの顔には敵を威嚇するためとも言われる女性の化粧が施されている。
しかも、傷を隠しきるほどでありながら決して厚すぎる訳ではない。
それだけにとどまらず、使われる化粧品はトレンドを抑えられており、技術も申し分ない。
職人技ともいうべきレベルではあるものの、彼らの体躯は屈強という他なく、軍服の上からでも鍛え上げられた筋肉の胎動を感じられる。
それでいて、2人の間には軍人らしい規律ある上下関係などない。
部下であるジンスケは、上官であるママを尊敬しているようには見えず、まるで友人のように接し、ママもまた、上司としての威厳を感じさせない
彼らの奇行ともいうべきそれの原点は脱走兵の集団である『サーベル・タイガー』。
現在はただのオカマバーとなっているが、もとは港の国の非正規武装集団だった。
ただ、彼らはあくまでも自衛のために武装しており、事実、彼らの日常には脱走兵を始末するための刺客たちとの戦闘が絶えなかった。
はじめはたった3人から始まった寄合組織だったが、次第に数が増えていくなかで、誰かが、正体を隠すために偽名と化粧をすることを提案した。
その後、トラ教団による港の国でのテロ未遂事件を契機として、サーベル・タイガーの幹部は港の国の軍部へ登用されこととなる。
これは、港の国の軍幹部に教団の人間が入り込んでいたという特殊な事情故だ。
ただ、そういった事情があったにもかかわらず、偽名を使用し続けている。
それは彼らなりの過去との決着なのだろう。
今日は、大同盟軍への編入となったママが業務引継ぎを行うためにジンスケを呼び出した。
しかし、引き継ぎの資料は補佐役であるジンスケが用意したものであり、形だけのものだ。
ママはそういった形だけの仕事を嫌う性分なだけに、短時間で済むはずのこの引き継ぎは想定の何倍も時間がかかっていた。
「いい加減観念したら?サイン書くだけじゃない!」
「何枚あるとおもってんだ…?もう何十枚と書いたんだぞ…」
「書いてないわよ!3枚!3!枚!しか!書いてないの!」
「嘘を吐くなあッ!」
「手間かけるなッ!」
2人は怒鳴りあうこの時間の無益さを痛感し、ママはしぶしぶ残りの書類にサインする。
といっても2枚だが。
そんな引継ぎを終えたママは官舎を出る。
昼過ぎのこの時間は昼食をとるのにちょうどいい。
ママは大きく伸びをしながら歩き出すと、何かにぶつかる。
どうやら脇から飛び出してきた少女にぶつかったらしい。
「っと!すまない!よそ見をしていたッ!」
尻もちを付いた少女に声をかける。
「うん。大丈夫。私こそ飛び出したりして、ごめんなさい。」
「けがはないかな。タフなレディ?」
泣き出したらどうしようかと不安になっていたママは、安堵して少女に手を差し伸べる。
少女は彼の手をとり、立ち上がるが、そのあとも手を離さない。
それどころか両手で確かめるように手を揉む。
「あー…どうかしたかな。私の手だが…」
ママが声をかけると、少女は彼の手に視線を落したまま、答える。
「ゴツゴツでボロボロ…でもあったかい手。」
「照れるな。だがこんなおじさんナンパしても何の意味もないだろうよ。」
「そうかな。」
軽くあしらうつもりだったママは、少女と目が合った瞬間、心を何かにつかまれるような感覚を覚える。
その目は深い水面のようで、わずかに宿る光は蛍のように優しく淡い。
「仮面かしら?」
ママの顔を見て首をかしげる少女。
「まあ。そういう風にも…みえる…かな…?」
まるで自然に少女の問いに答えてしまう。
導かれるように。
「うん。またね。優しいおじさん。」
あっけにとられたまま少女を見送るママ。
また会えるだろうという予感と、なにかとてつもなく大きな存在を見たという恐怖心が彼の心を駆け巡るのだった。
次回は水曜日。
活動報告更新してます。
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