3-7 龍の国幹部定例会
龍の国幹部定例会【一般情報】
龍の国で毎朝行われる連絡会。
国内にいる軍幹部や内政の幹部が出席し、女王へ情報共有などを行う。
基本的にそこまで長いものではなく、報告事項は幹部クラスの人事や外交関係、国内行事に関する話題が多い。
性質的には幹部間の風通しをよくするためのもので、不参加でも罰則などがあるわけではないフランクなものだが、基本的に幹部不在時は代理が伝統的に出席する。
王政を敷く国家にしては珍しいものではあるが、これは議会制に加え、女王の発言力が強いものの、これに参加する幹部たちが承認しなければ施策を実行できないというやや特殊な国営方法に起因している。
「よお。」
朝を迎えた龍の国では、定例の幹部会に予想外のメンバーが追加されていた。
追加というよりは本来の出席者が復帰したというべきだが、事前に連絡のなかっただけに、驚きが場内を包んでいた。
陸軍の総括にして約3ヵ月間、行方不明となっていたパルが復帰したのだ。
「よお!じゃねえぞ不良娘が…心配かけやがって。」
「ほんとさね…後でハグしてやる。」
さも当然のように席に座るパルの頭を叩きながらトータスとオルカが席に着く。
「まあ、とりあえず帰ってきてくれてよかったよ。」
2人の後ろから入ってきたレイモンドは珍しく悪態を吐くことなく本音をこぼす。
その後も続々と官僚幹部や軍関係者が入室してき、定刻となる前に全員がそろっていた。
女王のレイアはそろった幹部を見回してから開会を宣言する。
「では、本日の定例を始めましょうか。まず、私から、陸軍総括のルビリア・パルの復帰を報告します。遺産の処遇については今後、大同盟全体と協議して進めるとし、彼女には別の仕事を与えます。」
レイアの言葉を受け、軍部長のトータスが立ち上がる。
「パル。お前には天の国へ向かってもらう。そこでハウンドと合流だ。」
パルは首を傾げる。
「ハウンドは何やってんだ?」
「お前知らんのか?今、あいつは常設の大同盟軍としてツスルのもとで仕事をしている。資料を後で送っておくから読んでおけ。」
「まてまて、ハウンドがそっちに行ってんならオレまで行く必要はねえだろ。」
「バカ言え。軍縮が進んでる中でお前みたいなのが一国の軍隊に所属しておけるわけねえだろ。常設軍を作って戦力を共有したり、国そのものが抱えると動きにくくなる仕事をするんだよ。」
パルは、ふーん。と興味なさげに頷くと、トータスはさらに続ける。
「予定より大きく遅れることとなったが、明日付で陸軍総括にはホエールが入る。前々から決まっていた話だし、問題はねえだろ。ほかに、この関連で報告があるやるいるか?」
トータスの呼びかけに海軍総括のオルカが手を挙げる。
「トータス軍部長様が忘れてやがるからアタシから海軍の人事を改めて報告させてもらう。まず、国内の体制は総括にアタシ、オルカが入る。第一艦隊は艦長をシモンが担当、第二艦隊は今のところはドルフィンだが、ドルフィンは4か月間常設大同盟軍の監獄島担当になってる。不在中は第二艦隊が空になるが、しばらくは改修中の小型戦艦を自由に使っていいらしいからアタシが担当する。改修後に正式に穴を埋める予定だがどうするかは検討中だ。」
「確か、バイソンの船は龍の国に貸与ということになったんでしたか?」
オルカの報告にレイアが口を挟む。
「そうです。元々は監獄島の供託金で作られたものですが、常設大同面軍が監獄島の業務を担当することに伴い、メンテナンスをうちで担当する条件で貸与になりました。あれも結構な老朽艦ですからね。」
オルカの補足を聞きながらレイアは以前に説明されていた内容を思い出す。
各国が自国内に収容しておくのを嫌う重犯罪者を1か所に集約し、収容することを目的とした監獄島。
そこで囚人の移送や脱走者の処刑のために運用されていた小型戦艦が存在しており、艦名を監獄島の長である監獄長の名を貰って運用されていた。
近年はバイソンが監獄長になっていたが、あくまでも各国の善意による運用が続いており、運用資金は供託だったものの、そこの職員はよほど強い希望がなければ各国の窓際軍人が担当している。
幸い、バイソンはその正義感から監獄長として勤め上げていたが、大同盟の設立を契機として、大同盟軍による運用にシフトすることとなった。
これは、監獄島に限った話ではなく、世界各国の貴重な資料を保管しつつも、天の国を中心とした一部国家の善意で運用され、各国の学者らが活用してきた大書堂も同じく大同盟による運用へと変わった。
ただ、監獄島はその性質から武器類の持ち込みは奪われるリスクから控えることとなっていることもあって、軍人が担当することが望ましい。
そのため、常設大同盟軍を設立するとともに、監獄島の仕事を担当させることとなった。
小型戦艦については整備のための施設を大同盟が保有していないうえ、長年運用されてきたために老朽化が激しかった。
一方で大規模な改修を行うほど、監獄島を離れるわけにもいない上、新たに艦を製造しようとすれば先に小型戦艦の方がダメになるだろうとの見立てがあった。
そのため、自国で造船所を持ち、監獄長のバイソンを派遣していた龍の国がこの小型戦艦を引き取り、少しづつ改修を進めながら運用を継続することになった。
改修には時間がそれなりに必要になる部分も多く、結果としてあまり効果的な施策ではなかったものの、こういった調整を得意とするホエールが一計を案じた。
それがドルフィンとバイソンの派遣である。
デザインベイビーであり、単独での大型戦艦の運用能力を有するドルフィンを移送役としてバイソンとともに派遣し、その期間、小型戦艦を自軍の戦力とする。
これは、改修にかかる予算が大同盟の供託金から出ることと、龍の国主導で新技術の試験運用や自分の国で使いやすいように改造することもできる。
ドルフィンの不在という問題も、常設大同盟軍の存在もあって表面化しにくく、軍縮を避けつつ、国際社会での発言権も確保することとなった。
そういった部分も含め少しづつではあるが世界は大同盟を中心に動き始めていた。
それはトラ教団という世界を脅かしていた存在が消え、余裕が出てきたともいえる。
だが、新たな懸念事項もあった。
「次の報告に移る。報道を見たものも多いだろうが花の国、歌の国が旧風の国跡地に新国家の建国する動きがある。これについては天の国のソラ国王から連絡が届いている。」
トータスはそう言って魔法石に魔力を込める。
音声と映像を双方向に配信する機能を持つもので、大同盟の中心国へ迅速な情報共有のために使用される。
天の国は親書ではなく、これを用いる程の重大性を孕んでいると判断したのだ。
トータスが魔法石を机に置くと、卓上に映像が投射され、録画されている天の国国王ソラウ・ソラのメッセージが再生される。
『この魔法石を持つ、大同盟加盟の方々に連絡します。報道に出ている通り、花の国、歌の国が連名で風の国跡地に新国家を建国しようとする動きがあります。あの場所の運用については未だ検討中ではあるものの、大同盟非加盟国がこの動きに追従する可能性もあります。各国は本件に関し、冷静な判断を求めるとともに、大同盟軍の派遣の可能性もあることを頭に入れておいていただきたい。簡単ながらこれで失礼します。今後の動きに変更はありません。以上、ソラウ・ソラ。』
水を打ったように鎮まる議場で口を開いたのはパルだった。
「花が動くのはおおむね想定通りだろ。問題は鉄の国や獣の国みてえな地力のある国がどう動くかだ。特に鉄は大同盟軍の派遣にもかかわってくる。」
彼女の発言に同調するようにレイモンドも口を開く。
「鉄の国にはヤタ重工があるからね。それだけに前もっての戦力補強は急務かもしれない。」
「それは難しいな。各国は常設軍の設立に合わせて軍縮を再開しようと考えている。」
レイモンドの言葉にトータスが口を挟む。
堰を切ったように皆、口々に口を開いていく。
「しかし、あの国…先手を打つべきでは?」
「バカ言え、大戦争とは訳が違う。簡単に戦争を起こすわけにはいかないさ。」
「いずれにせよ状況は変わりつつある。大同盟が花と歌の2国を教団と同じように処理するつもりなら答えは出ていよう?」
「けどそうなったら難民の受け入れ態勢はどうなる?風の解体時はある程度の選択権を与えたが、今回はそうはいかんだろう?」
「花の国はこんな火種をふりまいて平和的解決を考えているのか?」
「かもな?姫のいう通り、愚鈍の国だしな。」
「愚の国ってか?変なセンスだけはあるなお前。」
やや脱線しつつある議論をレイアが手を叩いて制する。
「そこまでです。皆、思うことはあるでしょうがまだ実現段階にはない。後手に回るというよりは相手の先手をつぶすような動きになるでしょう。」
「女王の言う通りだね。おそらく、隣国である刃の国での軍事演習や式典を行って牽制していくんだろう。パル、天の国に行けばツスルさんと話すはずだ。彼は今、常設軍の監督役をしている。つまり数少ない大同盟の仕事をメインにしている人物だ。彼の見解を共有してもらえると助かる。」
レイモンドの話にパルは、あいよ。と返す。
その後、話題は変わり、先のトラ教団との戦闘による負傷者がおおむね退院できる見込みが立ったことや、国へ入ってきた新たな商店に関する情報共有がなされ、解散となった。
会議後、宣言通り、オルカに力強く抱きしめられていたパルに、レイモンドが声をかける。
「パル、すぐには出発しないだろ?」
「あ…あぁ。明日の昼に…出発する。」
レイモンドの様子など気にせず、抱きしめ続けるオルカにつぶされながらパルは答える。
「なら…プルトの最後について、教えてくれ。後ででいい。」
真剣な様子の彼の言葉に、パルの胸は締め付けられる。
パルにとっては実父にあたるパーシヴァル・プルトだが、レイモンドにとっては学生時代から交流のあった友人でもある。
プルトの最後は決して正常とは言い難い精神状態だったが、それを隠しても意味がないことはパルも理解している。
そして、その最後を思い出すだけで目頭が熱くなった。
パルはそれを隠すように、そのさみしさを紛らわせるように、オルカの胸に顔を埋め、力強く抱き返すのだった。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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