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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-6 動き出す世界

『風の国跡地に新国家建国!』【一面記事】

トラ教団との癒着が発覚し、解体となった風の国だが、跡地問題について進展が見られそうだ。

この跡地には豊富な鉱脈が今尚、存在しており、一度はそれを大同盟が管理するために新国家建国の話があった。

ただ、規制や配分問題もあって一度流れていたのだが、この場所に歌と花の国が新国家を建国しようという動きがあることが関係者への取材で判明した。

事実であれば大同盟に対する明確な対抗勢力たり得る上、加盟国の離脱も懸念される。

新設された常設大同盟軍の動向含め、この跡地は目が離せない最前線となるだろう。


鉄の国、21番作業ドックでは、外に通じる扉が力なく開かれた。

夜明けの光をツスルは眩しそうに眺める。

「朝やんけ…」

「いやあすまんねえ。長話をしてしまったようだ。」

彼の背後から老人が声をかける。

原因はこの老人だ。

冗談じょーだんやないでドクさん!何がすぐ終わるや!何が見ていってもいいや!長々話おってえ!」

ツスルは流石に罵声を浴びせる。

老人は細胞・血液学の権威であり、優秀な外科医かつ、戦艦運用に耐えうる人工知能(AI)の開発者、ドクトル・シュナイダーだ。

彼は申し訳なさそうに笑う。

「いやーすまない。まさか君がマザーとあんなに会話できるとは…おかげで会話パターンの学習も進んだよ。」

「そりゃあよかったわな!」

ツスルは声を荒げる。

マザーとは、戦艦運用補助のためにドクが開発した対話型インターフェースになる。

補助といっても実在には指示に従って実際に艦の操縦を行うため、仕事量としては指示を出す人間の方が補助しているようにも見える。

極端な話、マザーに移動先の地点を伝えれば後は寝ていても到着する。

標的を伝えればそこを効率良く砲撃する。

効果的な運用には指示を出す人間に相応の知識が必要にはなるが、仮にツスルのような軍事的な知識に乏しい人間でも最低限の運用は可能だ。

「対話型とはいえマザーがあそこまで柔軟に会話できるとは思ってなかったよ。君の話の引き出しも凄まじいものがあったが。」

「ワシが暇な人みたいに扱うんのやめてくれんか…?」

昨日、このマザーを船に搭載し、調整を行うことになっていたドクに興味本位で付いてきたツスルだったが、調整作業中、マザーと意気投合。

矢継ぎ早にかつ、絶えることのない話題の提供にツスルも全力で応え続けた。

結果として予定していたドクの作業は早々に終了したものの、ツスルが喋り続けていただけに、後日予定してた他の作業まで終了してしまった。

具体的には航行可能なレベルにする予定だったが、今のマザーは指示さえ受ければ本格的な戦闘行動が可能なレベルで調整されている。

「邪魔しちゃまずいかと思ってね。」

「不味いわけあるかいな!途中からおらんかったくせにい!」

「すまない。あんまり楽しそうだったし、会話パターンの学習もさせたかったから先に休ませてもらったよ。」

「学習が目的やろがい!」

マザーは船に搭載されているAIと密接にリンクしており、指示をAIに伝え、AIからの返答を人間側に伝える。

だが、人の言葉というのは複雑であり、人それぞれでもある。

そのため、マザーはおこなった会話を蓄積、学習することでその精度や速度を上げていく。

マザーはかつて龍の国の戦艦に搭載されており、そのころに学習したデータがそのまま引き継がれているため会話をスムーズに行うことができている。

しかし、ツスルのように独特の言語体系との会話は非常に有用な学習となった。

「しかし本当に構想通りに行くのかね?アレは…」

ドクは話題を変える。

アレとはツスルが進めてきた常設大同盟軍だ。

「当然や。この船はそのためのもんや。全てはフレイル女王から始まっとるんや。それにリスペクトを持って返す。ワシなりのやり方でな。」

ツスルの口調からいつものふざけたものが抜けている。

それだけ彼はフレイルに感銘を受けていた。

彼女は龍の国の前女王であり、トラ教団に暗殺されたものの、教団が嫌っていたパルの解放と行動力を補強しただけでなく政治面でも自身の後釜に娘を据えることを想定していた。

結果的にトラ教団という存在が表立つ契機となっただけでなく、大同盟結成にもつながっただけに、ツスルの尊敬も決してオーバーな表現ではない。

2人は示し合わせたように振り返り、船を見上げる。

「ノーチラスメオラ…新しい時代を進むためのきりふだや。」

ツスルの言葉は生まれ変わったノーチラスに対する祝詞にも、新たな力への期待とも取れるものだった。


滝の国を訪れているハウンドとリョーマ。

2人は観光客向けのホテルに滞在していた。

カフェテリアでコーヒーを楽しんでいたリョーマだったが、ハウンドは対照的に落ち着かない様子だ。

「イカれてやがる…!」

ハウンドは苛立ちを隠さず、乱雑に新聞をリョーマに投げ渡す。

首を傾げながら新聞を受け取るリョーマ。

記事に目を落とすと、目立つ文字で『風の国跡地に新国家建国!』の見出しが踊っていた。

この見出しそのものに大きな意味はない。

解体された風の国の跡地利用に関しては様々な方面で検討が進められてきたが、新たな国家を置くこともその一つだった。

交易の要所というわけではないものの土地柄的に鉱脈が広がっており、大戦争時代に風の国躍進の起爆剤となった一方で未だに採掘され尽くしていない手付かずのエリアも多い。

そこに大同盟が新国家を置くことで鉱脈からの資源をある程度公平に分配し、コントロールしようとする思惑があったのだ。

リョーマもそういった経緯をハウンドも理解していることはわかっている。

何故彼が苛立つのかは記事の中身にあった。

内容を要約すると、大同盟非加盟の花の国と歌の国が風の国跡地に新国家を建国しようとする動きがあるというものだ。

記事を読み終えたリョーマは新聞をハウンドに返す。

「おいにはそこまでのこととは思えんかが?」

リョーマの認識は少々甘いと言わざるを得ない。

「いいか?風の国ってのは鉱山資源で発展してきた国だ。つまり、その跡地にはまだ相当な資源が眠っている。そこを花や歌みたいな大同盟非加盟国が抑えたとなればどうなる?」

「そいは大同盟の建国と変わらんがか?結局のところ、流量制限をして、資金を得る。そいが国の産業だぎゃ?」

「問題は…だ。流量規制そのものがどの程度適用されるかだ。」

リョーマは首をかしげるが、ハウンドは核心の部分へ話を進める。

「歌や花…特に花は刃の国侵攻作戦の契機となった会談を主導した。つまり、花の国は大同盟に今更、加盟することはできない。逆に言えば、大同盟とは別の方向で進むしかない。その結果、跡地に作られた国が採掘した資源は流量規制と関税の名目で法外な金額に釣り上げられて大同盟に出荷される。花や歌のような国には格安で提供されるにもかかわらずな。」

リョーマはまだ理解できていない様子だ。

それは彼が単に無知であるというわけではない。

大同盟みうちに有利な交易はやっているがか?そいとなにが違うがか?」

「変わらんように見えるだけだ。大同盟という国家同盟の存在がある中でもう一つの同盟体系が生まれることが問題なんだ。」

リョーマここにきてようやく状況を理解した。

規制や関税は主要因とはならない。

もう一つの国家同盟体系の確立。

その前提のもとに規制と関税は真価を発揮する。

風の国跡地にある鉱脈からもたらされる資源は簡単に代替できる分量ではない。

事実、これまで龍の国や天の国は風の国と反目しながらも、戦時中以外は高額な資源を購入していた。

その一方で刃の国のように非常に格安で資源の購入ができていたし、反目するわけでも友好的でもない国はごく一般的なレートで取引していた。

また、その現状に不満があれば政治的な動きや戦争によって解決を試みることになる。

あくまで国家間でのやり取りではあるが、それが国家同盟という規模になれば大きく変わってくる。

それぞれ事情の異なる国々の寄合である以上、ひとたび反目する関係となればその影響は大同盟の加盟国すべてに影響を及ぼす。

今回のように鉱脈資源を例にとれば、大同盟に対する関税と規制はその資源を加工することで利益を生む国やその加工品を運用する国に多大な影響を及ぼすことになる。

ハウンドはその前提のもとに話を進める。

「仮に国家同盟組織同士の対立が武力衝突になればどうなる?国家間のそれ以上の規模で戦争になる。国民の命は相手への報復度合いを決めるための基準になり、討ったから討ち返す戦争の始まりだ。一国家の体力と同盟規模の体力は比べるべくもない。つまりだ。お互いが死ぬまで続く殺し合いが始まったにもかかわらず、お互いが死なないんだ。そしてそのしわ寄せは常に市民に向く。それが今の時代の戦争なんだ。」

リョーマは真剣な様子でハウンドの話を聞いていた。

ことの重大さは獣の国という閉塞的な環境で生きてきた彼に新たな視点をもたらす。

「故に大同盟が必要なんがか?」

「そこまで前提を遡るなら俺に答える権利はないな。ただ、完璧な国家間の取り決めなんてない。それは国の事情云々ではなく、ルールを作れば皆、それをすり抜けようとするからな。」

ハウンドは息を入れる。

規則の不完全さは何も国家に限った話ではない。

家庭内のルールという最小単位でのルールさえそれは変わらない。

そうするほうが楽だからであり、そうするほうが利益を追及できるからだ。

「けどな、大同盟は必要なんだよ。国を一つにまとめることで世界の安定を図る。その後に続く問題はイタチごっこしながら解決する。そうするしかないんだ。まずは全員を会議の席に着かせる。それが大同盟なんだ。」

リョーマは頷く一方で、何か反論しようとしたが、遮るように彼らを迎えに来たハウンドの娘が到着する。

「難しい話はここまでにしよう。」

リョーマは笑顔で頷き立ち上がる。

世界の動きは少しづつ動き出している。

故に、平穏な時間を大切にする。

大戦争という狂乱の時代を生き抜いた軍人であるハウンドは理屈ではなく、本能で理解し、それを実行していた。


次回は水曜日。



Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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