3-4 そんなに小さい背中ですか?
サラ【個人情報(未確定)】
トラ教団の開発した第二世代天使の1人。
ルビリア・パルの血液データをベースに改良された第二世代の中でも特に彼女の要素が強い。
特に容姿は大戦争時代のルビリア・パルそのものといってもよく、戦場で相対した港の国のコオウ・ママー元帥はパル本人であると認識していた。
一方で戦闘能力は経験値の差からかパルのそれに大きく劣る。
しかし、あくまでも戦闘技能に関する知識、経験不足から来るものであり、肉体のスペックとしては彼女と同等と思われる。
詳細は不明ながら、トラ教団を裏切った一部の人間にパルと会うよう指示されている。
現在は龍の国の外れにある村で、タバコや食料品を定期的に買っているのを目撃されている。
王城を飛び出すようにして出たレイアはまっすぐに守護の森を進んでいく。
城を出る際に守衛に目撃されたが、何度かお忍びで城下を見回っていたために止められることはなかった。
彼らからすれば、あの状況で女王を呼び止めたほうが騒ぎになることを理解しているからでもあった。
レイアにとって二度目となる守護の森ではあるが、以前とは森の様子が異なっていた。
かつては道を譲り、導くように立っていた木々が今は、自分を拒むように配置されている。
自然を操る龍の力であることはすぐに察することができたが、その理由は思いつかなかった。
なぜ自分を拒絶するのか。
まるで自分の目的を理解しているかのような反応に、彼女の怒りはさらに大きくなる。
彼女がこの森を訪れたのはここに住む大地の龍にパルの動向を聞くためであった。
大地の名を冠する通り、龍であれば地上のどこに誰がいるのか把握することはたやすい。
かつてそうするのを見たことがある彼女ならではの発想であったが、躊躇っていた理由は龍の存在そのものにある。
歴史の陰に隠れて存在し続けることを選んだ龍を表の世界で生きる自分が訪れることは龍も望んでいないだろうと考えていた。
存在を秘匿していたい龍にとって来客など望むべくもない。
しかし、今回、行動に踏み切ったのはいつまでもパルを待つことができない。という感情半分、自分を頼ろうともしないパルへの怒り半分であった。
無論、彼女自身、パルの捜索を行わなかったわけではない。
しかし、積極的だったかと言われれば肯定しにくいものがある。
それはパルの真実を知る人間として彼女の心情に配慮すべきではないかという思いがあったからだ。
やっとの思いでレイアは森の最深部にある滝にたどり着く。
この滝の裏に隠された洞窟に大地の龍は潜んでいる。
レイアは大きく息を吐くと、洞窟へ入る。
咄嗟に出てきたため、灯りになるものを持ってこなかったことを後悔しながらゆっくりと奥へ進んでいくと壁に阻まれる。
この壁は彼女の記憶の通りだ。
あとはここを龍が開ければたどり着くことができる。
レイアは壁に触れ、声を張る。
「ドラゴ・レイアです!開けてください!話があります!」
返事も反応もない。
レイアは息を吸い込んでさらに声を張り上げる。
「開けてください!私一人なのはわかっているでしょう!」
やはり反応がない。
不在ということはない以上、居留守を使われている状況だ。
「開けなさいッ!いるのはわかってるんですよ!」
荒っぽく言ってみたが効果がない。
こういう時に軍人であればもっと怖く言えるのだろう。とレイアは思ったが、自分の語彙力では強く言えない。
レイアは拳を固める。
あまり使ったことはないが、今、身に着けている衣装には身体強化魔法が組み込まれている。
本来は非常時の逃走や身を守るためのものだが、これを使って壁を殴れば穴を開けることぐらいできるだろう。
レイアは半歩下がり、勢いをつけながら壁を殴りつけようとする。
「やめたほうがいい。」
背後から現れた少女が彼女の拳を止めた。
その声になんとなく聞き覚えがあることを感じながら少女の顔を見る。
薄暗い洞窟の中なのではっきりとは見えないが、その姿はパルのものに近い。
若いころ、というより幼いころの彼女がこういう姿だっただろうと言い切れる程に似ている。
「あ…貴女は…」
困惑するレイアを無視するように少女は壁に触れる。
なるほど。とつぶやくと、少女も拳を固める。
「ちょ…ちょっと、貴女なら大丈夫だっていうの!?」
聞きたいことはたくさんあったが、目の前で先ほど自分の拳を止めた少女が今度は拳を握っている。
「そうだ。離れていろ。」
淡々と話す少女にレイアの混乱はさらに深まる。
少女の拳はレイアの目に映ることなく壁を粉砕することで更に混乱した。
「貴女はいったい…」
「サラちゃんさあ…」
レイアの声は奥から響くため息のような声にかき消された。
サラと呼ばれた少女についていくように壁の奥に足を踏み入れる。
先ほどまでの狭い洞窟からは想像もつかないほど巨大な空間には記憶の通り、巨大な体躯を持つ龍が鎮座する。
「ここまで来たということは知り合いだろう?」
サラの言葉を受け、観念したように龍は顔をレイアの目線に合わせる。
「要件はわかっている…パルだな。」
レイアは頷くが、視線は先ほどの少女、サラに向いていた。
サラは買い物袋をおろすと、なれた手つきで焚火に火をつける。
やわらかい光に照らされたサラの顔はパルのそれとしか思えないほどに酷似している。
「彼女がパルですか…?」
自分でも突飛すぎた結論だったが、パルが何らかの要因で幼くなったとしか考えられなかった。
そういう結論が出るほど混乱しているとも言えた。
「サラはサラ、パルはパルだ。」
少しずつ冷静さを取り戻しつつあったレイアは龍に疑問をぶつける。
「パルはどこにいますか?あなたなら何か知っているはずです!」
「知っている。しかし、いくらお前であっても教えるわけにはいかん。」
さんざん苦労して会いに来たのに教えないとはどういうことか。
頂点に達し続けていた怒りがさらに振り切れる。
「教えないとはどういうことですかッ!さんざん人に迷惑かけておいてえッ!」
レイアの怒りに龍は気圧されたが、諭すように返す。
「あれは今、迷っている。連れ戻すつもりだろうがそれは…」
「教えなさい。」
龍の言葉を遮るレイア。
その目は怒りに満ちているが、それがパルにすべて向けられている訳ではないことを龍は感じた。
「あってどうする。」
「頼らせます。相談させます。帰りたくないならそれでいい。でも、勝手にいなくなるなんて許さない!」
龍は大きくため息を吐く。
しばらく、思考を巡らせた後、翼をあげる。
そこには翼に隠れるようにしてうずくまっているパルがいた。
「お前には帰る場所がある。それで今は十分じゃないか?」
龍の言葉に、パルは首を振って拒否する。
「むりだよ。」
レイアは弱弱しいパルの姿に困惑していた。
先ほどまでの怒りが消えているのがわかるほど、彼女の姿は痛々しい。
常に、自分の前を守るようにして歩いてくれた彼女とは思えない。
かける言葉に迷っていたレイアに、サラが耳打ちする。
「パルはずっとあんな様子だ。私も詳しくは知らないが、どうもプルトを自分の手で殺したのが辛いらしい。」
「そう…でしょうね。」
「帰るなら案内する。いつでも言ってくれ。」
「いえ、大丈夫。少し面食らっただけだから。」
小声でサラの提案を断ったレイアは、胸を張って堂々とパルへ向けて歩き出す。
いつも彼女がそうしていたように。
「姫…私は…もう…帰れない…」
泣き出しそうなパルの声が頭に響く。
その悲痛な眼差しに自分も泣いてしまいそうになる。
彼女の苦しみはわからない。
親と碌に会うことなく育ち、いつの間にか失っていた自分に、パルの気持ちはわからない。
それでも、自分の胸に来るものがあるのは、彼女への感情移入というより、ここまで弱った彼女に対する悲しみに近いものがあった。
「帰りましょう。貴女の居場所は私の隣、それではダメ?」
「私に…その権利は、ないんです。」
「あるでしょ。私の龍なのだから。」
「私が人でなくても?」
「貴女はパルです。強くて優しくて、誰よりも他人のために動くことができる私のあこがれの人。」
パルの目にわずかに光が宿る。
レイアはあえてパルを見下ろしたまま続ける。
「私は貴女を尊敬します。大切に思っています。ずっとそばに居てほしい。貴女にとって私はどうですか?」
「それは…」
「もちろん、私はこんな岩の壁一つ壊すことのできないほど非力で、自分ひとりじゃ国を回すことなんてできない弱い女です。それでもここまでやってこられたのは貴女をはじめとするみんながいたからです。」
レイアはパルに立ち上がってほしかった。
そうでなければ彼女の中にある問題は解決しないと思っているからだ。
無理矢理、連れて帰ることに意味はない…
それは最初から考えていたことでもあった。
「私は弱い。とても…だけど、一緒に背負うことはできる。貴女の背負っているものを私は知っています。貴女が教えてくれました。それは、貴女が私にも背負ってほしかったからじゃないんですか?」
「姫はわかってないんです。オレが持っている『遺産』の鍵、これは世界を変えかねない程強力なものなんです…」
オレ。
パルが義姉であるアリアンナを真似て使うようになった。そうアリアンナの姉であるオルカから聞いていた。
それはつまり、今のパルは軍人として、いつもの彼女に戻りつつあるということでもある。
「貴女はなにか勘違いしてます。私は龍の国の女王。つまり今後起こりうる各国の『遺産』争奪戦にいやでも参加しなくてはならない。」
パルは図星を突かれ、目を伏せる。
「それに、そうなった時に安全に『遺産』を処分する必要がある。その時、私は貴女にそれを任せたい。そうすることで貴女が過去との決着をつけられると思うから。」
レイアはパルの足に力が入るのを感じる。
彼女は自分のために力を発揮するタイプではない。
だが、もし、自分にとって身近な人のために働くとなればその圧倒的な力を惜しげもなく投入する。
レイアは、その身近な人に自分が含まれていることを感じる。
もう少し…
「貴女の背負うものを代わりに背負える程、うぬぼれてはいません。ただ、私は貴女の背負うものを一緒に背負うことができる。」
「でも…」
パルは反論しようとしたが言葉に詰まる。
それは、背中を押してほしい。と思っているともいえる。
「私の背中はそんなに小さいですか?」
パルは大きく首を振って否定する。
「そんなことはありません…オレなんかより姫はしっかりしている。」
「じゃあ、頼ってください。任せてください。貴女の世界は私の世界でもある。自分だけですべてを背負うなんて誰にもできません。」
「敵わねえなあ…いつの間にか姫は強くなられた…」
パルは笑顔を見せると立ち上がろうとする。
だが、ずっと座ったままだったためかふらつき、倒れそうになる。
「ちょっ…!」
レイアは反射的に受け止めようとしたが、パルに押しつぶされそうになる。
斜めになる2人の体をサラが支えた。
申し訳なさそうに笑うレイアとパルにサラは呆れる。
「お前ら漫才でもやってるのか?」
冷ややかなサラの視線に笑ってごまかす2人。
先ほどまでの悲劇的な雰囲気はすでに消えていた。
「サラ…オレは…」
「今の話を聞けばさすがに私でも察する。行けばいい。」
あまり表情を出さなかったサラも、雰囲気に乗せられたのか笑顔を見せる。
「貴女はどうするの?来てもいいけど?」
レイアの提案をサラは一瞬検討したが、首を振って断る。
「いや、同じような顔した奴が同時に出るのは面倒だろう。適当なタイミングで私はパルの家にでも住まわせてもらう。」
「悪い。お前には…」
パルの謝罪をサラは手を挙げて制する。
「気にするな。時間はあるはずだ。」
次回は水曜日。
活動報告更新してます。
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