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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-2 2人の少女

常設大同盟軍(仮称)【一般情報】

トラ教団との戦闘を経て結成された大同盟に所属する部隊。

現状を鑑み、ハウンドを筆頭にカインと移動用にノーチラスとカレン、軍医兼メカニックとしてドクトル・シュナイダーが所属している。

今後、大規模な軍事行動の際はこの常設部隊と臨時で結成された大同盟軍が共闘する形式をとっており、これはなし崩し的に常設部隊の戦力が過剰になることを避けるための措置でもある。

部隊名に関しては現在、検討中であるが、これについては提唱者であるソラウ・ツスルに何か考えがあり、あえて公表を控えている模様。


風の国でトラ教団が本拠地としていた古城の調査に赴いたハウンドとカインは、謎の少女、リンに導かれるようにして奥へ進んでいった。

そこにはいくつかのカプセルが鎮座しており、その中身は空であることが一目でわかる。

そして床には表現しがたい液体が散乱していた。

ハウンドは床に散乱した荷物に気づくと、しゃがんで、新聞を手にする。

何度か読み返したのか皺がついており、開きにくい。

「ちょっと古いな、刃の国侵攻が決まった時のものだ。それに軍用のレーション…」

ハウンドに追いついたカインが、これらの納められていたであろう鞄を手に取る。

「中にまだレーションが入っているようです。同じもの…でしょうか?」

そう言ってハウンドにレーションを渡す。

彼はそれを受け取ると、散乱しているものと同じであることを確認する。

「見ろ。日付が違う。」

そう言って、ハウンドはレーションの包み紙に印字してある賞味期限を指す。

それぞれ日付が異なっており、最も新しいものと古いものでは2年の開きがある。

「レーションってのはかなり日持ちする。年単位でずれがあったとしても新聞の日付から考えれば問題なく食えたはずだ。」

カインは納得したように頷くと、ハウンドはさらに続ける。

「レーションの日付にここまで開きがあるってことはまとめて調達したものじゃない。誰かがここにいた人間のために急いでかき集めたんだろう。店で買ったわけでもないから…おそらく教団か風の国が保管していた物資の横流し品…」

「それに…新しいほうから食している…?」

カインの疑問にハウンドも気づいていた。

「つまり、こいつを食った奴は字が読めない。切羽詰まって手当たり次第…って割には数が多すぎる。」

「文字が読めないのに新聞を読んでいたなんておかしな話。」

2人の推測を聞いていたリンが口を挟む。

ハウンドはこれまでの推理を頭の中で反芻すると、立ち上がる。

「リン、君はなかなか賢い子だ。君の言う通り、おそらくここにいた人間は字が読めた。でなきゃ新聞がこんなにボロボロにならない。レーションのほうは単に知らなかったんだろう。」

「つまりここにいたのは軍人ではない人間だった?」

ハウンドは頷くと、リンの方を向く。

「君のものじゃないのかい?」

彼の問いにリンは首を振って否定する。

「それは知らないわ。私が気づいた時にはもうあったもの。」

それを聞いたハウンドはこの場にいた人物について考え出す。

「おそらく第二世代天使…行方知れずのリトたち…」

「彼らの拠点だったと?」

「いや、それにしては数が少ないし、連中が教団と敵対していた事実はさすがにプルトに察知されていたはず…タイミング的にリトたちがずっとここにいたとは考えにくい…」

ハウンドは、しばし言葉を止め、思考を巡らせる。

「そうか。リトたちは何かを求めてここに来た。そしてそれはまだ、この世界にいる…!」

カインは反射的に警戒心を強める。

それを察知したハウンドもまた、リンを守るように立つ。

「であれば、ここにまだいると?」

「どうだろうな。この子が出入りできるぐらいだ、すでに出ていると考えたいね。」

2人は目を走らせる。

周囲に、物陰に、お互いの死角に。

「待て、ツムジが何か見つけた。」

ハウンドはそう言って、さらに奥を指差す。

先行していた彼の猟犬たちは彼ら以外の存在を探知していない。

「動くのですか?」

「大丈夫なんじゃねえかな。空気の流れを探知できるツムジとホムラが何にも反応してない。」

少し不安げなカインの言葉に、ハウンドも同じようなトーンで返す。

カインはその言葉を信頼するように歩き出す。

ハウンドは彼と距離を少しおいて、リンを先に進ませる。

常に2人を視界に入れつつ、咄嗟にリンを守れるようにするためだ。

少し進むと、ツムジの姿が見える。

どうやら先ほどと同じようなカプセルを見つけたようだ。

問題は、先ほど見たものが空だったのに対し、これには中身があることだ。

長い黒髪の少女が謎の液体の充填されたカプセルに浮かんでいる。

「第二世代…天使…」

カインはそれの名をつぶやく。

ハウンドも同じ感想を持っていた。

報告で聞いたそれに近い。いや、イメージ通りといってもいい。

近くにはこれを管理している装置らしきものと分厚いマニュアルがおかれている。

「『アマテ』…」

カプセルを観察していたカインがつぶやく。

それがこの黒髪の少女の個体名なのだろう。

ハウンドは装置に近づくと、恐る恐るマニュアルを開く。

びっしりと文字の羅列されたそれはこういった形式の書類を読みなれてなければ判読に時間がかかる。

それに、専門用語と思われる単語の羅列がさらにその読みにくさを増幅させている。

「これは…?」

ハウンドはあるページに付箋が貼られていることに気づく。

そこを開くと、先ほどのページより読みやすい形式で図を交えながら記載されている。

「ユーザーガイドみたいなもんか…?というか、これ…カプセルの解放?」

「彼女を助けてくれるの?」

リンの言葉で我に帰るハウンド。

好奇心に負けて操作を実行しそうになっていた自分を律する。

「助ける…が、今じゃない。さすがに俺の独断でできる範疇じゃない。」

「とはいえ、この少女をこのまま大同盟に任せていいのでしょうか。」

カインの発言の意図は大同盟に対する不信感から来るものではない。

大同盟に報告をあげれば医学に明るい者たちを中心とした調査隊が組織され、これを調査するだろう。

しかし、それは同時に、人間扱いされる保証もできないということでもある。

「学者先生たちからすりゃ貴重な生体サンプルってわけか。」

「ドクトル殿に話しますか?」

ハウンドは反射的に通信機に触れようとしたが、思いとどまる。

「通信はできない。一応、公的な記録として通信内容は記録される。」

「ならば、解放していただきたい。」

カインの言葉をハウンドは疑う。

確かに現場にいる人間として解放してやりたいという思いはある。

しかし、カインはそれをいきなり決定した。

権限や指揮系統以前に何かの決意を感じる。

「どういう意味だ?」

カインは首をかしげる。

「小生が面倒を見ます。思えばわが師も孤児であった小生を育ててくださった。その恩は小生が真似ることで果たしたい。」

「簡単じゃねえぞ?」

ハウンドは咄嗟に経験者のように忠告したが、彼は父親ではあるものの碌に子育てなどしていないことに気づく。

「解剖よりマシです。」

そんなハウンドとは対照的にカインの決意は固く、カプセルを見上げる彼の目はすでに父親のそれだった。

ハウンドはカインに声をかけるわけでもなく、マニュアルにしたがって機械を操作していく。

一通りの操作を終え、カプセルが動き出したのを確認すると彼は通信機に触れる。

「こちらハウンド。孤児を1名発見。受け入れの準備をしておいてくれ。ああ。これから合流地点に向かう。」

ハウンドの通信で公式上、この『アマテ』という少女は孤児として扱われる。

当然、カインが彼女を引き取るとしても、第二世代天使を引き取るのと孤児とでは手続きを含む種々の問題は大きく異なる。

「感謝します。」

カインは深く頭を下げる。

ハウンドは照れくさそうに頷くと、別の事実に気づく。

「リンがいない…?」

風のように消えたもう1人の少女。

カインもハウンドも狐につままれたような感覚に陥る。

「さすがに夜盗の心配はないだろうが…」

「また、ふらっと現れるように感じます。」

カインの感想は奇しくもハウンドが感じているものと同じだった。

確証はないし、彼女のことは名前くらいしか知らない。

それでもなんとなく、そういう風に感じた。


ハウンドとカインによる調査から2日後、2人は報告のために天の国の事務局長にして、常設大同盟軍の部隊長を務めるソラウ・ツスルのもとを訪れていた。

「以上が、風の国地下の探索結果となります。」

一通りの報告を終えたハウンドは一礼して半歩下がる。

「防衛戦力は大型ゴーレム1体だけか…まあ脅威度いう意味では無視できへんラインやな。ご苦労さん。とりあえずあとは調査隊だけで何とかなるやろ。」

ツスルは書類を置くと悪戯っぽい笑みを浮かべカインを見る。

「にしても剣聖カインが子育てとはのう…!まったく、どういう心境の変化なんや?」

「孤児であった小生を育ててくださった師への恩返し…そういう風に思っています。」

カインは口角をあげたまま頷く。

「ま、ええんちゃう?実際、カドゥの爺さんも同じようなこと言うてたし。」

「師も孤児だったのですか?」

「いや、そういう訳やない。ただ、貧乏だったらしくてな。剣の先生に読み書きとかも教わっとったらしいわ。」

恩義の連鎖。

誰に求められた訳でもないそれの一部に自分が自然と入っていけたことにカインは感慨深いものを感じた。

「次回の作戦は?」

ハウンドは2人の会話の余韻を断つように発言する。

以前からツスルは一度脱線すると無理矢理にでも戻さないと戻ってこない。

それゆえ、ハウンドはあえて、余韻を断ったのだ。

ツスルもそれで気分を害するタイプではなく、むしろそうして軌道修正してくれる人間を好む。

「忘れるとこやったわ。といってもお仕事らしいお仕事ないしなあ…しばらく休息…いや、ハウンド君には滝の国に行ってもらおか。」

「滝の国になにか?」

ハウンドは半歩前に出て、ツスルに詰め寄る。

「ああ。そんな身構えんでええよ。リョーマのやつがほかの国も見たい言いよるんや。それに同行してくれや。あくまでも大同盟としてのおもてなしやな。」

亜人の国である獣の国、そこから対教団のために協力体制をとった大同盟。

その協力の一環として派遣された2人の獣人であるヴァンとリョーマ。

このうち、ヴァンは刃の国侵攻作戦に参加したのち、業務の関係で即座に帰国することとなったが、リョーマは現在のサンヨウ大陸の文化を見て回るために天の国に残っていた。

その彼に滝の国を案内する。

だが、それは建前に近い。

「娘さん、滝の国におるんやろ?暇なときぐらい顔見せたればええねん。」

ハウンドはツスルの真意を聞き、落ち着きを取り戻すと、笑顔を見せる。

「配慮いただき恐縮です。」

「気にせんでええよ。というかそろそろ娘さんも進路のこと、考えないかん時期やろ?傍におってやったらええ。必要が出てきたらそん時は連絡するわ。」

ハウンドとカインは一礼して部屋を出る。

ハウンドは、自分の娘であるセッカがそういう時期に来ていることに時間の流れの速さを感じる。

父親としての時間はそうでなかった頃よりまだ短いが、それでも父親としてできることをしたい。

ハウンドは軽い足取りで廊下を歩いて行った。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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