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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-58 父と娘…そして母

パーシヴァル・プルト【個人情報】

トラ教団のトップである司教長を務める男。

教団の発生に関して明確な時期は不明であるものの、彼は創設からトップとして活躍しているとされる。

龍についての研究を行っているが、論文や寄稿といったことはしていない。

サクラメイト専修学院社会心理学科を卒業しており、人心掌握に長ける。

特に、相手の目を見ることで、その人物の心理状態を把握することを得意としており、その情報を元に話術で優位に立つ。


大龍哮砲と大蛇薙の連携は確かにプルトの体を飲み込んだ。

しかし、彼は全力で魔力を再生に回すことで死ぬことなく、耐えることができた。

弱まっていたとはいえ宝剣の呪詛を受けた傷を回復したその再生能力は非常識ともいえる破壊のエネルギーさえも上回ったのだ。

プルトはカインの腹部に突き立てた腕を引き抜き、パルと目を合わせる。

パルからすれば身をもってその強さを知るカインがあっさりと倒されたことに恐怖すら感じていた。

戦闘能力で優位に立つ彼女が感じる恐怖。

それは『底が見えない』というありきたりな表現では表しきれない何かが彼女の心を支配した。

「アイーシャ…終わったよ。ようやく…」

プルトは両手を広げ、敵対の意思がないことを示すようにして近づいてくる。

その柔らかい表情が、温和な目が本物か偽物か、今の彼女の心理状態では判断できない。

「く…来るな!私に近づくな!」

錯乱したパルは彼を拒絶しようとするが、下がるわけでも抵抗しようとするわけでもない。

「アイーシャ。終わったんだ。後はお前が私を殺せば全ては終わる。」

「やめろ…!私は…!違う!そんなこと…!」

なにを言うべきなのか。

どう否定すべきかわからないまま言葉にするパルにプルトは笑う。

「なにも違わない。お前は私という悪を討ち、英雄として『遺産』の守護者となる。」

プルトはパルを抱きしめる。

パルは自身の中から安堵感のようなものが溢れるのを感じ、さらに混乱する。

自分はルビリア・パルであり、彼の娘のダグラム・アイーシャではない。

そう断言し、否定してきた自分が、プルトを受け入れようとしている。

父である彼に抱きしめられ安堵している。

それは、彼女がどこかで、親子であることを信じ切れていなかったが故か。

だが、今、彼女の中にあるのはプルトが父であるという確信。

そして、その父が巨悪であると理解しながらも殺すことができない『優しさ』。

それらが彼女の心をかき乱し、混乱を深める。

「もういいではないか。お前はよくやった。1人になっても諦めることなく生きながらえてきた。私のせいで苦労をかけた。だから終わりにしよう。『遺産』がある限り、お前は誰からも狙われることはない。十分だろう。お前は良く戦った。これまでよく頑張った。だから、後は私の言う通りにすればいい。」

プルトの言葉を最初に拒絶したのは彼女の肉体だった。

振り払うようにして抱擁から抜け出すと、突き飛ばしながら下がる。

「私は…そういうんじゃない…」

「なぜ拒絶する。何のためにお前は戦う?」

「貴方の言葉は…私にとってとても心地よくて…言ってほしいことを言ってくれる…」

「それに身をゆだねればいい。簡単なことだ。」

パルは段々と自分の中にあった混乱が収まり、意思が輪郭を持ち始めるのを感じた。

そしてそれをそのままプルトにぶつける。

娘として。

「でも…貴方の言葉は詭弁でも言い訳でもない。貴方自身にとって都合のいい言葉を並べている…」

「そう感じるのはまだ、お前が素直になっていないだけだ。本心に問うてみろ。」

「違う…貴方こそ本音で語るべきだ。打算抜きの本音を…」

「それは変わらないさ。私の言葉に従えばいい。『遺産』を継承し、生きればいい。いつまでも失ったことを考えていても仕方ないだろう。」

プルトの言葉はパルの琴線に触れる。

彼女は他でもない、死んでいったものたちから受け継いできたものがある。

そして、それが今の彼女を。

ルビリア・パルを作っている。

それを否定することは誰にもできない。

「戯言を抜かすな。オレはパルだ。お前はやっぱりオレを利用したいだけだ。どんな高尚な理由を付けようとも本心は打算なんじゃねえか。」

「それは勘違いというものだ。」

「黙れよ。いい加減にしろ。そんな言葉でオレをまやかすなッ!」

パルの目に覚悟が再び宿る。

これまでとは性質の違うそれは殺意ではなく使命感に近いものがある。

ここまでの巨悪となった父を討つ。

それが娘としてやるべきことだ。と、そう結論付けた。

プルトを討ち、『遺産』を消滅させる。

それが過去から続く因縁への決着になる。

そう信じて。

パルは拳を固める。

「オレは…オレの進んできた道に…後悔なんてねえ!」

プルトとの距離を詰め、胸倉を掴むと、彼の頭を引き寄せるようにして下げさせる。

「ましてやオレの過去を否定する権利は誰にもありゃしねえ!失ってきたもんは数え切れねえ!それでも、オレにとって、そのすべては思い出なんだ!否定して、消して!忘れるなんてことができねえものなんだ!オレはそれを守るために戦う!オレがオレとして生き続けることが戦いなんだ!」

「ならばどうする?私を生かすか?」

「いいや…オレはあんたと違って小難しい理屈で殺す殺さないをしねえ。お前は敵だ。だから殺すんだ。」

パルの拳に魔力が宿る。

淡い輝きを放つそれがプルトの胸に当てられる。

「『遺産』を渡してもらおうか。もう一つの願いはかなえてやる。」

プルトは笑顔を崩さず、ズボンのポケットからネックレスを取り出して、パルの首にかける。

「大きくなった…本当に…」

「情に訴える気か?」

パルの言葉はプルトに届いていないようだった。

「私の知るお前は小さいままだった。しかし、もうここまで大きくなった。エメラルダ…君の言った通りだったよ。」

プルトの視線はパルの後方へ向く。

彼女はプルトの状態を察すると、胸倉を掴んでいた手を緩め、彼の言葉を最後まで続けさせる。

「あぁ…すぐに大きくなるから。買っておいて良かったよ。それによく似合っている。ジェインのやつは本当にこういうセンスがいい。髪と目の色は私だが顔立ちは君そっくりだ。鼻立ちと唇が似ているのか?お前を見ていると若い頃の君を思い出す。どうだ?写真でも撮らんか?ああ、アイーシャは恥ずかしいか。ふふ…お前ぐらいの歳ともなれば父親など鬱陶しいだけだろうな。」

そんなわけないよ。

「そうか?ん?彼氏?おいおい、エメラルダ、いくらこの子が大きくなったといってもまだ早いさ。ん?まあ確かに…変な男に引っかかるぐらいなら彼の方がいいかもしれんな。」

あいつとは、そんなんじゃないよ。

「む。そう考えると早いなどと言ってられんか…彼のようにしっかりした男は他にそうはおらんだろうしな。」

だから違うって。

「そうなのか?…わかっているエメラルダ。まあお前の人生はまだ長い。もっと出会いはあるだろう。」

そうかな。

「そうだとも。私のような男でもこんなに良い妻を得たのだ。そして立派な娘もな。」

私は軍人だよ。

「軍人でも立派な仕事だ。それに、お前が優しいことはよく知っている。大丈夫だ、龍はお前を見ている。よい行いをすれば龍がお前を導いてくれる。」

龍なんて、今更だよ。

「アイーシャもエメラルダも龍を信じていないのか?私の先祖は龍と…わかった!わかったエメラルダ。私ばかり話してもあれだ。君からも祝いの言葉を…」

ありがとう。お母さん。

「すまない…涙が…私は幸せだ。お前がこんなに大きく立派になって。」

背は小さいけどね。

「なにを言うか。背が伸びなかったからなんだ。人間として器の大きな人間になった。それにこうして大きな病気やけがもなく成長してくれた。」

ありがとう。

「礼を言うのはこちらだ。私もエメラルダも、お前がいるから。お前のおかげで親でいられるのだ。夫婦は2人でなることができる。しかし、親というものは子供がいて初めてなることができるのだ。アイーシャ、本当にありがとう。」

私もいつかそうなるかな。

「なれるとも。お前は立派に私たち夫婦を親にしてくれた。だからこそ、お前は良い親になれる。先輩である私たちを信じろ。」

うん。

「ん?そうだな。君の言うとおり私たちにとっては孫か。まあ焦ることはない。お前が決めることだ。」

まだ、よくわからないけどね。

「ふふ。そうか。まあ皆そうなのだ。気に病むことなどない。」

もう行かなきゃ。

「ん?そうか。また、帰ってくるといい。私たちはお前がどう変わろうとお前の親であり、お前の帰ってこれる場所なのだから。」

うん。

ありがとう。

お父さん。


カインが目覚めたのはノーチラスの医務室だった。

体を起こそうとするが、腹部の痛みがそれを許さない。

「ちょちょちょっと待っててくださいね!」

血まみれのエプロンをしたカレンが驚いた様子で部屋を出る。

その姿を見れば状況が芳しくないことはすぐに分かった。

だが、自分がなぜ負傷しているのか思い出せない。

はっきりとしない思考の中、ドクの声が聞こえてくる。

「戦闘は終わった。作戦は成功してパーシヴァル・プルトは死亡したよ。」

全身から力が抜ける。

終わったのか。

役に立てなかったように感じながらカインの思考は微睡むように鈍化していく。

「とりあえず休んでいるといい。生き残っただけで十分な戦果だよ。」

感謝を述べたかったが、声にならず、眠りに落ちた。

ドクが部屋を出ると、ハウンドが待機していた。

「彼なら心配ないよ。麻酔からの覚醒が早かっただけにカレンが驚いただけさ。」

そう告げると、ハウンドは胸を撫でおろす。

「君も傷が浅いとは言え、疲れただろう。しばらく休んだらいい。」

「艦長としての仕事はある。」

「それはマザーに任せればいい。それに通信障害も改善したのだろう?」

ハウンドは渋々、頷くと自室へ向かった。

大同盟軍の無線通信装置の不具合は戦闘終了とほぼ同時に復旧した。

正確にはパルが『プルトは死亡した。状況終了。』と本部にいれた通信が復旧したことを示した。

この無線不具合は人為的に引き起こされた妨害工作である可能性が高く、実際に工作の跡も確認された。

現在、それに関する調査は行われているものの、戦闘終了からそこまでの時間が立っていないこともあり、詳細は不明となっている。

大同盟側の死者32名、負傷者74名。

そして作戦中行方不明(MIA)1名。

教団側の死傷者は正確な数こそ確認できないものの、作戦に参加した大半が死亡したと思われる。

尤も、教団側は作戦参加者を正確に把握する気が無かったともいえるが。

通信状態の回復後、大同盟本部からの要請で風の国は降伏。

刃の国を含めた3者会談の場を持つことが決定した。

まだ、万事解決とするには時期尚早ではあるものの、多くの国を巻き込むこととなったトラ教団による一連の騒動は終わりを迎えつつあるのだった。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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