2-52 急襲
城の国【一般情報】
かつて存在した国。
龍の国の北に位置し、守護の森を挟むように存在した国。
瓦作りの建築物『カザワ城』を中心にいくつかの街で構成される。
他国に比べ、人口は非常に少なく、他国との交流も積極的では合ったものの、内紛が絶えず、トップが頻繁に交代。
敗残兵の山賊行為が問題視されていた。
大戦争の際、麦の国と龍の国の補給路を日常的にこの敗残兵が攻撃した。
この事態を重く見た龍の国は『インゴ隊』を投入。
城の国と忍の国は揃って解体を余儀なくされるレベルで攻撃され、敗残兵も残らず始末された。
剣王会筆頭、カヨを追い詰めたパル達。
殺害の是非による対立に割って入ったのはイーグルだった。
「頼む…銃を降ろしてくれ。」
パルとカヨの間に入ったイーグルは、自分の体で彼女の体を隠すように立つ。
パルはイーグルの目を見つめ、銃を降ろすことなく問う。
「そいつはお前にとってなんなんだ?イーグル。というか、お前には待機を命じてたはずだぜ?」
「命令違反したことについては悪かったと思う。その件で俺が処分されるのは構わない!だがこの人は」
「剣王会筆頭アラマサ・カヨ。所詮、城の国の敗残兵、アラマサ・ダーテンの娘だ。」
パルはイーグルの答えを遮る。
教団に与する組織、その中で戦闘能力の高さという意味で剣王会の重要度は高い。
それは剣術集団としての地力だけでなく、人殺しとしての技術を持った人間が大量に所属している。という意味合いが強い。
パルは事情を深く知らないであろうカインに説明するように続ける。
「剣王会の頂点は筆頭と呼ばれる。この女は先代であった首領・カラスからその地位を譲り受け、戦術集団剣王会の運営に大きく携わっている。頭を潰すチャンスは生かすべき。そう思わねえか?」
「小生に振るな。まず、イーグル殿の言い分を聞くべきであろうよ。」
カインは困惑しながら返すと、パルは笑う。
「全くその通りだよ。んで?オレは今、処分なんてどうでもいい。お前の悩みの種がその女だってのもわかった。じゃあ話を戻すぜ。お前にとってその女はなんだ?」
イーグルの顔を汗が伝う。
惚れたから見逃してくれ。それを言ってパルが許すとは思えなかった。
パルはそう言った不運に対して、仕方がない。或いは、運がない。と考えるタイプだ。
彼女の生い立ちにしても、世間を恨むのではなく、運がなかった。と割り切っている。
その後に施術を受けた後も、運が良かった。と考えている。
彼女が執着する過去はあくまでも自分の力不足や自分の存在を原因とする場合だ。
運命とは違うはっきりとした原因に対して強い嫌悪感を示す。
そんな運命に対して無頓着とも言える彼女に、敵だと知りながら惚れた。などと言っても考えを改める材料にはならない。
返答のできない彼をパルはさらに問い詰める。
「答えろ。答えらんねえなら退け。作戦に途中参加したくて出てきたってことにして、全部不問にしてやる。」
「彼女達に戦闘能力はない。敵だから殺すって話でもないだろ…!」
イーグルの苦しい言い訳にパルは落ち着いた声で返す。
「お互い、敵を殺して飯食ってんだろ。」
パルは大きく息を吐く。
苛立ちと呆れを感じさせるそれにイーグルの緊張感はより高まる。
「答えろ。」
「殺さないでほしい…それ以上のことを…今は言えない。」
イーグルは慎重に答える。
言葉が止まるたび引き金を引かれるのではないかという恐怖が襲った。
「パル…そいつがそこまでして守ろうとするんだ。やめてやれ。」
横からさらに割って入ったのはハウンドだ。
だが、パルはそんなことで止まることはしない。
「んだよ。どいつもこいつもお優しいことだな。え?『インゴ隊』の頃は殲滅前提だったろ?」
煽るように笑う彼女に、今度はハウンドが大きく息を吐く。
「俺はそういう意味で止めてるんじゃない。イザードがそこまでして守ろうとしているなら、俺もそれを守ろうって話だ。お前と戦うことになっても。」
イーグルの同期であるハウンドはカヨとの関係で思い悩む彼に対して力になれない歯痒さを感じていた。
2人の関係を知っているわけではない。
それでもイーグルの力になれるなら、それを優先したい。
それが彼の意思だ。
しばしの沈黙の後、パルは銃を降ろす。
「はいはい。男の友情ね。どうせオレは女ですよ…」
「んなことはない。お前にだって友情はある。仮にイーグルがお前でも同じようにした。」
「ホントかよ。」
「ホントだ。お前にはセッカの件で恩もあるしな。」
パルはこれ以上の会話が馬鹿らしく感じた。
「そっちじゃねえだろ…」
そうイーグルが溢すほど2人の関係が友情以上にあることは周知の事実となりつつある。
お互いに踏み込むことはしなかったが、本質は異なる。
パルは妻を失った彼に、これ以上、踏み込むことでの関係の崩壊や、自分自身の境遇を理由に奥手になっていた。
それに対してハウンドは、単純に好意に気づいていないのだ。
そんな他愛のない話が、先ほどまでの殺伐とした雰囲気をいくらか和ませた。
しかし、イーグルを含む4人とも光の球の存在に気づき戦闘体制に入る。
その光の奥にある見覚えのある顔に、パルは怒りが噴火のように炸裂したのを感じた。
パル達が光の球に気付いたのとほぼ同時に刃の国後方にも同じものが出現した。
オルカ達も警戒していたが、その光に包まれた存在を認識すると、激戦の予感を感じた。
「なんで泣いてんだ?」
ちょうど向かい合うようにして出現したそれに対してオルカは呆れた声を出す。
「貴様らのためではない。」
光から現れたプルトはそう答えると涙を拭った。
「どうやら予定通り…といったところか。」
プルトは満足げに言い放つと腰の剣に触れる。
「そうは行くかい!」
ママが即座に彼の眼前まで距離を詰めている。
プルトは反応できていない。
ママの膝がプルトの顎を跳ね上げる。
一飛びで距離を詰める跳躍力で飛び込み、その跳躍力で膝蹴りを放つ。
それは投射機と言って差し支えないほどの瞬間加速をそのまま叩きこむ。
常人であれば首が文字通り抜ける威力だ。
プルトの首は抜けこそしなかったが、その体は数十センチ浮き上がる。
ママは重心を低くし、右腕に力を貯める。
「くたばっちまえッ!」
プルトの鳩尾と拳が直線で繋がる瞬間、暴力が解放される。
拳は骨の及ばない急所を的確に捉え、プルトの体を折り曲げる。
ママは続け様に左手へ力を込める。
その手は熊のような爪を持ち、腕はナマケモノを思わせる長いものに変化している。
それは自然界では絶対にあり得ない『穿ち殺す』という機能を有している。
ママは反時計回りに体を回し、反動をつけて爪をプルトへ向け飛ばす。
狙いは喉。
鎧や胸骨という外壁を柔軟な稼働のために持たない生物共通の柔らかい部分。
しかし、プルトの翠眼はその爪を捉えている。
プルトは着地していた右足を軸に回転。
突っ込んでくる腕に合わせるようにして、ママの突きをいなすと、回転の勢いをつけた右の裏拳を放つ。
それはママの頬を捉え、ぐらつかせる。
反射的に傾きを戻そうとするところへ合わせて放たれた左のフックは光の壁に阻まれる。
「合わせろ!元帥!」
「応ッ!」
プルトの追撃を阻み、声を上げたのはオルカだ。
ママもそれに応えた。
背後から振り下ろされるオルカの大槌、正面から再びの爪。
先ほどのように回転で爪をいなそうとすれば背後の大槌を避けることはできない。
逆に大槌を交わそうとすればママの腕か他の人間が追撃に来る。
回転の勢いを起こされ停止しているプルトにとってこの挟撃を防ぐ術は少ない。
彼の瞳が一瞬だけ紅く艶めかしい光を放つ。
俯瞰視点による状況把握。
風の国で見せたそれは集団を相手にする際、この上なく有効に発揮される。
プルトはママに突進する。
ママの爪が伸び切らなければ十分な威力を発揮しないこと。
そして、オルカの振り下ろす大槌はママに接近すれば巻き込むリスクを生み出す。
「舐めるんじゃないよ…!」
オルカは空振りするように大槌をプルトが先ほどいた場所に振り下ろす。
ママは状況を把握したのか、懐から魔術鎖を取り出すと、それを投げつける。
炸裂魔法の術式を内蔵したそれはプルトの眼前で光と共に破裂し、破片が散弾のように襲いかかる。
当然、プルトとほぼ同じ至近距離でそれを受けるママも無事では済まない。
それでも、視界を潰され、怯んだプルトに対してママは強靭な鱗の鎧で被害を抑えている。
一方のオルカは空振りした大槌の軸を挟むように光の壁を展開。
港の国でも見せたレールによる軌道修正でプルトの脇腹へ大槌を直撃させた。
オルカは大槌を振り抜き、プルトを弾き飛ばすと、彼の体は水切りの石のように何度か跳ね、転がる。
だが、オルカの手にはそれだけの勢いを与えたという手応えがない。
むしろ、回避されたとさえ思った。
プルトは当然のように立ち上がってみせる。
オルカの感じた手応えの通り、彼には大槌のダメージがない。
「一筋縄ではいかんな。流石は大同盟の中でも上位の2人だ。それに引き換え…」
プルトは後ろ回し蹴りを放ち、奇襲を狙っていた大同盟の兵士2人の首を刎ね飛ばす。
「雑多な連中はやはり雑多というべきか。お前達はどちらだろうな?」
プルトの目が手を出せずにいたバイソン達へ向く。
「悪いが、そんな脅しが通じるほど自信過剰じゃねえよ。」
バイソンが一歩前に出る。
それに合わせ、龍の国の魔法3兄弟、ナミ、タキ、サンも前に出る。
普段から圧倒的な力を持つ人間のそばにいるだけに、彼らは圧倒的な力を持つ相手に対してある意味での耐性があった。
「俺らも。」
「忘れるんやないぞ。」
天の国のオジマ、ヤマトもまた前に出る。
「そうさな。誰に喧嘩売ったのか。教えてやろうじゃないか。ええ?」
「なんだよ。みんなやる気じゃねえか。戦意喪失してんのかと思ったぜ。」
先ほどまで戦っていたオルカとママもさらに一歩前に出る。
それに促されるように他の兵士も皆、一歩前に出る。
敵将の単独奇襲は好機だ。
取れば終わる駒が目の前にある。
プルトは啖呵を切られ笑う。
「数の上では余の圧倒的不利か。いや、もう少し数を減らしたいものだ。」
プルトの目が紅く変わり、より強い光を放つ。
「そんなのありかよ…」
誰かがつぶやいた。
プルトの背中から龍の翼が出現したのだ。
その意味を理解できるもの半分。
もう半分は理解できなかった。
しかし、驚愕したという事実は共通していた。
「白き翼。プラマ・ブランカ…そう言うらしいな。」
プルトはそう言い放つと、魔法陣を出現させた。
次回は土曜日。
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