1-4 ノーチラス
白の部隊【閲覧_要申請(決定者_女王フレイル)、複写不可】
龍の国第11代元首、フレイル・ドライムの指揮で動く直属部隊。
メンバーは3名。
旗艦として戦艦ノーチラスを与えられる。
女王の私設部隊としての側面が強く、龍の国内、国外問わずその存在を知るものは非常に少ない。
ドラゴンことルビリア・パルの戦闘能力を筆頭に龍の国屈指の精鋭が集められている。
白の部隊の最初に与えられた任務は3ヶ月後の実戦参加に向けた準備だった。
とりあえずよろしくね。とフレイルは言っていたが、5年間幽閉されていたパルが3ヶ月で動けるようになるのかというのはハウンドにとって気になる部分だった。
資料をホムラで焼却した後、ハウンドとパルはドクの案内で王城地下の船着場にいた。
先頭を進むドクにハウンドは、
「貴方はドラゴン…パルと知り合いだったんですか?」
と聞いたところ、どうやらパルが実戦に参加していた頃に私生活の面倒を見ていたのがドクだったと回答が来た。
また、幽閉されていた期間も設備の点検や食料の持ち込みなどを行っていたらしい。
(出迎えにも着いてきてくれればよかったのに)
とハウンドが考えていると見透かしたようにドクは話す。
「パルの迎えに、ワシも同行したかったが調整が立て込んでおってな。」
3ヶ月の準備は、自分に与えられた時間でもある。と続けた。
「そういやお前、45なんだな?じゃあオレは15歳くらいか」
最後尾のパルが茶化すように言う。
よく、若く見られるハウンドは、アホか。と返し、年齢など気にしたこともないだろと続けた。
「それはデリカシーの欠片もないな」
とドクは笑いながら振り返る。
「こいつは昔からこうだよ」
パルも笑いながら返す。
ハウンドからするとパルはドラゴンだった頃から変わっていなかった。
そして今日初めて会った天才、ドクに対してもフランクで人間味のある、ありたいていに言えば、いい人だと思った。
ドク達の進む地下の廊下は戦艦の補給を行うエリアで左手に番号の書かれた大きな扉が非常に広い間隔で設置されている。造船所は王城の裏手にありそこで建造した船を水路からこちらに通し、出撃の準備を進めるのが龍の国における造船の流れだ。
もっとも軍縮の進む現在では造船所は稼働していない。
ドクは3と書かれた扉を背に立ち、向かいの壁に手をついた。
3番ドックじゃないのか。とハウンドが聞くと、こっちにもあるんだ。とドクは言う。
「マザー。ワシだ、開けてくれ」
ドクの言葉におどきを隠せない2人、パルが
「おいドク…天国への扉を開く気か?」
と心配そうに言う。
ハウンドも似たような思いだった。
やはり天才は変人なのか…彼の中でのドクの評価が揺れる。
「天国かどうかは」
ドクが手を離すとその場所を中心に壁が左右に開いていく。
「これから決まる…だろ?パル?」
存在しない6番目のドックが開かれた。
ハウンドはドクを変人ではないかと疑ったことを恥じた。
パルもまた、ついにボケたか。という本音が喉まで出かかったことを恥じた。
ドクに促され隠されていた6番ドックに入る2人、そこには目の前に黒い大きな箱のようなものが巨大なプールに浮き、そこから右の陸地へ橋のようなものが架けられている。
パルはその箱のようなものの巨大さに圧倒されこれがノーチラスだと気づくまで少しかかった。
「全長約65メートル、全幅約10メートル。ワシの発案した新型の大型魔力炉とAIを搭載した小型戦闘艇だ。」
ドクは嬉しそうに語る。
ノーチラスは扉に対して後方のエンジンブロックを見せるような形で鎮座していた。
資料の通りであれば高さが15メートルほどある。
ドク達は右手の橋のようなもの、ノーチラスの右舷から伸びる乗り込み用のタラップへと進む。
「こいつは5階層からなる。下3つは沈んでいて地上に出ているのは2つだ。」
各階層はタラップから続く物質搬入用の大型エレベーターが後方に、前方には人員移動用のエレベーター。中央に階段があり、各階層へ行き来を行える。
上から案内しようとドクは言い、物資搬入用のエレベーターに乗る。
壁のない作りで床だけが動くようになっている。
上から1階と呼ぶならここは最前方に指令と通信を兼ねたブリッジがある。
ドクはそこへ着くと再び、マザー。と呼びかけた。
「おかえりなさい。ドクトル。」
部屋のスピーカーから機械的な人の声がする。
「そしてはじめまして、ワタシはマザー。ノーチラスの対話型インターフェースです。」
ハウンドは、これがAIなのか。と呟くと、正確には違うがな。ドクは答えて続ける。
「AIは2階にあるワシのラボにある。マザーはAIが算出した答えをワシらに伝え、ワシらからの指示をAIに伝える。そしてAIから船の各機関へ指示が出る。」
戦艦の運用には多くの人員が必要となる。
一方で白の部隊にそれだけの人員はない。
正確には引き抜くだけの余裕が海軍にはない。
そこでノーチラスに用いられたのが機械制御による航行技術だ。
人からの指示が対話型なのは複雑なシステムに人が合わせるよりもこれまで通り人に指示を出すのと同じように運用でき、移行後も簡単に運用できる。
かつて、龍の国の海軍で、機械制御の戦艦を建造する計画があった。
機器を船に乗せることで通信による遅延を抑え、スタンドアローンでの運用、アップデートが可能であることも有用であったが、今度は機器搭載のスペースとメンテナンスに係る部分の専門性が問題となった。
特に、搭載スペースはかなりのスペースを必要とし、哨戒程度にしか運用はできないとの結論から頓挫していた。
加えて、海上から敵国へ侵攻し、兵を送り出すという作戦ではこれまでの人による運用に軍配が上がった。
白の部隊に与えられたのはこの問題点を解除しうる陸上戦力であるパルと、高度な専門知識を持つ専門家であるドクを有するからである。
「マザーは今、最低限の会話ができる状態でな。AIの育成にまだ少しかかるんだ。」
そういうと、ドクはパルとハウンドにインカムを手渡す。
これは?というパルの疑問にドクは通信機だよ。と子供に教えるように言う。
「これを通じてマザーと会話する。会話からマザーは言葉を学び蓄積する。」
へー。とパルは遊び方のわからないおもちゃを渡されたように振ったり、ひっくり返したりしていた。
「起動すると所有者の魔力データを登録する。それ以降は所有者以外では使用できなくなる。紛失や盗難対策だな。」
パルはまだ使い方が分からない様子だった。
ハウンドが、
「耳につけるんだよお嬢さん。」
と言って右耳に装備した様子を見せると、おぉ!とパルは目を輝かせた。
ドクはバツの悪そうに、左耳用なんだ。と指摘する。
「ばーか。」
パルの声にハウンドは死にたくなった。
そんな彼を無視して説明を続ける。
「機器側面に指で触れて呼びかけるといい」
話を聞いたパルが、マザー、聞こえてるか?と問いかける。
「はい。感度良好です。ドラゴン。」
少し間を置いて、先ほどの音声が流れる。
ドクの言う育成はこのような日常的な受け答えの速度を上げることでもある。
そのためにはどうしても人との対話が必要になる。とまとめた。
「そういえばドクトル、貴方はインカムを付けないのですか。」
とハウンドが聞いた。
確かにドクの耳にそう言った装置はない。
ワシのはこれだ。と言って掌より少し大きい懐中時計を見せる。
魔力量の少ない彼は外付けの魔力量タンクを内蔵したものを使用せざるを得ず、パル達のインカムと比較して大きな機器にする必要があるとのことだった。
その後、ブリッジを出て右手側に2部屋がハウンドとパルの私室。左手側、2部屋が客室になっており、すでにベッドなどの最低限の家具があると言う。
一番上の階層の説明を終えたのち、パルとハウンドは引き続きドクから階層の説明を案内されながら受ける。
上から、ドクの研究室と設備室を兼ねた私室とマザーのためのサーバーなどが設置されている第2層。
3層目は、格納庫と武器庫で、船体後部側の格納庫には魔力駆動の大型二輪車が2台と4人乗りのジープがすであった。
これらは龍の国でも採用されている一般的な軍用車両だ。
前方側の武器庫は偽装用のスーツケースやボストンバッグがあるが肝心の装備はこれからだと言う。
その下である4層目は巨大な船倉となっており、すでにおよそ4ヶ月分の食糧品や消耗品が木箱に収められ、搬入されていた。
大型の浄水装置も前方側にあり、海水から真水を作ることが可能だと言う。
最下層は船の動力となる魔力炉のある機械室とと医務室、ランドリースペースが設けられている。
一通りの説明を受けた後、ハウンドの提案で3人はブリッジに戻った。
ハウンドから、とりあえず、と前置きして
「俺は一度、家に戻って私物を持ち込みたい。ドクトルも必要なものが有ればこのタイミングで持ち込んで頂きたい。」
と指示が出る。
パルは、じゃあメシ食ってくるかな、といい、ドクは、
「荷物はないからパルと食事してくるよ。それとワシに対してはもっと砕けた感じで構わんよ。部隊長は君だからね。」
と言い、握手を求めるように右手を差し出す。
ハウンドは歳上の部下にあたる彼との距離感を図り兼ねていたが故に、その申し出はありがたかった。
「ありがとう、ドク。こちらこそよろしく頼む」
と、握手に応じた。
3時間後にブリッジに集合してほしい。と続けたハウンド。
静かに、しかし確実に白の部隊は動き出したのだった。
次回は1月11日の予定。




