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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-51 稲妻を突き抜けていく

TCST-44型【平均顧客評価★★★★☆】

ヤタ重工広報部です!

今回は長年ご愛顧いただいているTCST(タクティクス・コミュニケーション・サポート・ツール)シリーズから44型をご紹介!

本部と現場との低遅延無線通信を可能とした40型シリーズではありますが、これまでお客様から『重い』『邪魔』『脆い』とのご意見が多数寄せられました。

それを改善したのが44型です!

最大の特徴はヤタ・コミュニケーションズ開発の新型通信形態『ヤタ・トーク』を採用による大幅な小型化、軽量化にあり、TCSTシリーズ最小を実現!

片耳に装備するインカムタイプとなったことで周囲の音を聞きつつ通信を行うことが可能となりました。

ヤタプレミアム御会員様には、80回線同時接続可能な中継機をプレゼント!

詳細な仕様を含むお問い合わせはお近くのヤタ重工の支店へ!


風の国の宣戦布告によって始まった大同盟と教団の決戦。

それは刃の国防衛戦ともいうべきものであり、大同盟の迎撃部隊としてパル、ハウンド、カインの3名が突出しており、彼女達を突破してきたものを天虎士の2部隊が迎撃、最終的防衛線にはオルカ、バイソン、ママがそれぞれ率いる3部隊が構える。

正面から雪崩れ込むように攻め込む風の国はこれまで教団の集めた非正規軍人や風の国の軍隊からなる大規模なものであり、数の上では大同盟のそれを圧倒する。

この数による人海戦術でパル達を足止めし、プルトや天使が刃の国に攻め込むための道を切り開く。それが教団の策である。

だが、現実問題として、道を開くための彼らにとっては大義も正義もないまま死にに行くだけに思えるのだった。


『犬の化け物をなんとかしろ!』

『女に近づくな!獲物はショットガンだ、距離を』

『なんなんだよあの犬』

『犬が!犬がくる!』

『ふざけんな!どっから炎が』

『死んだやつの肉に足を取られるなよ!』

『話が!話が違う時ねえかよお!』

彼の耳に入ってくる騒音こえ

断末魔ともいうべきそれは聞くに耐えず、通信機を壊したくなる。

彼の目の前では3つの首を振り、仲間を吹き飛ばす犬の化け物。

左から聞こえてくる銃声は、悲鳴に彩を加える合いの手のように響く。

右は原理不明の黒い炎。

話が違う。

相手は確かに正規の軍人で手練れだ。そう言われた。

しかし、こんな化け物めいた連中だとは聞いていない。

ブリーフィングにいた若い娘は無事だろうか。

かわいそうに。

あんなに若いのにこんな無理難題の相手をさせられ死ぬのだから。

『犬が…犬が!』

彼が騒音の中から拾った声に促されるまま顔を上げる。

燃えている犬の正面にガラスのようなものが見える。

その姿が記憶の底に眠る恐怖と合致する。

大戦争のおり、今は亡き祖国を焼いた化け物の切り札。

「伏せろッ!」

通信機にそう叫んだが、増え続ける断末魔の流れに飲まれる。

飛び込むように伏せた彼の脇を熱線が走り抜ける。

肉と血の焦げる独特の匂い。

光を集めて熱線として放つそれは記憶の通りだ。

つま先から這い登ってくる恐怖を舌打ちで誤魔化し、立ち上がる。

話が違う。

怒りで恐怖を塞ぐ。

「大丈夫か!」

援護に駆けつけた声の主はブリーフィングにいた若い娘だ。

まだ生きていたらしい。

「逃げろ!こんなところで死んでいいのか!」

彼は咄嗟に娘に返す。

「屍は礎となる!」

娘はそう言って銃声のする方に向けて走り出した。

彼は追いかけようとしたが、飛んできた死体に阻まれる。

爪痕のようなものが深く刻まれている。

彼は再び舌打ちをして走り出す。

娘の向かった方へ。

助けたい。だとか、かわいそう。だとか、そういう感情ではない。

放ってはおけない。という感覚だ。

それがどこから来たのかはわからない。

『犬が増えたぞ!』

『獣人だ!打ちころ』

『犬がまた!なんだよ!なんなんだよアレは!』

『増援を!相手が悪い!』

通信機から入る騒音が彼に告げる。

そんな場合か。

他人を気遣う余裕などあるのか。と。

娘に追いついた時、彼女は血を吐き、膝をついていた。


「数で囲んでそのザマか?オイ!」

パルはショットガンの引き金を続け様に引く。

統率もなくただ集まってくるだけの相手は的でしかなかった。

当然、煽る余裕も出てくる。

挑発で敵を引きつけ、後方の負担を減らす。

そう言った戦術的な効果は副次的なものに過ぎない。

煽り、怒らせれば動きは直線になる。

顔見知りが、昔馴染みが、戦友が。

目の前で死ねばその仇を取ろうとする。

彼らの不運は死ぬ直前まで闘志が萎えないことだった。

他人の悲鳴を惰弱と切り捨て、『自分だけは大丈夫』という空想めいた思想が力の差を見えなくしている。

散弾により弾け飛ぶように命が散る。

数を引きつけ、彼女の得意とする一対多の状況を作り続ける。

囲めば射線は交錯し、同士討ちのリスクがつきまとう。

ならば。とナイフに持ち替え、拳を振おうとすれば、異常なレベルまで強化された彼女の得意とする距離に自ら踏み込むも同然だ。

そしてまた1人、刀を構え、彼女の独壇場に踏み込む。

パルの背後から飛び出してきたそれに反応が少し遅れる。

押し出されたか。パルはそう思っていた。

そうであるならば一度、肩で受けて、左のショットガンで撃ち抜けばいい。

そう考えていた。

しかし、相手は明確な殺意を持って飛び出して来ている。

視界の端でそれが見えた瞬間、彼女は右手のショットガンで反射的に防御しようとする。

「白の襲撃者ストライカー!もらった!」

振り下ろされるそれはショットガンを両断し、右手にはグリップから数センチ先しか残っていない。

斬撃はこの戦闘で初めてパルに傷を与えた。

しかし、彼女の魔力は傷を塞ぎ、命の燃料である血の喪失を即座に回避する。

飛び出してきたのは女だった。

パルがそれを把握するのと同時に右手に残った残骸を投げつけ、距離を取る。

女はそれを刀で弾き、突進する。

パルは悪い笑顔を浮かべる。

奇襲の成否は五分。

ここで相手が人混みに紛れる方が面倒だった。

空いた右手でアーミーナイフを抜き、女の突きを右へ流す。

火花を散らしながら、ナイフが刀の鍔にかち合う。

腕も伸ばせないほどの至近距離。

女はこの距離であれば力勝負でナイフを押し込みながら首を切れると思っていた。

幸いにも相手は子供程のサイズ。

速度で戦えても力では戦えない。

そういう体躯だ。

だが、パルからしてみればこの距離で剣聖の寸頸ワンインチ・パンチのような技がないこの女は絶好のカモだった。

力勝負で勝とうなどと考えるその思考が自分優位で甘い。とさえ思う。

非力な人間がソード・オフのショットガンを両手に携え、それを振り回し、反動を御せるものだろうか。

それ以上に、突きを片手で流せるものだろうか。

その疑問が出ない時点で、この女がまともな戦術教育を受けておらず、実践経験も浅いことがわかる。

故に、空いている左手に意識が向かない。

ショットガンを捨てていることに気付けない。

パルの左手が女の腹部に触れる。

「龍頸…!」

小さくはなった言葉いのりは衝撃となって女を襲う。

パルは一瞥することもなく、左手で持っていたショットガンを蹴り上げる。

ショットガンが舞い、何人かの視界を奪う。

パルは素早く回転しながら炸裂ナイフを投擲。

右手でアギトを引き抜き、発報。

左手でショットガンを掴み、トリガーに指をかける頃には、爆発と発砲で空いたスペースに飛び込んでいた。

悲鳴と銃声の歌声カンターレは再び、血と肉を飛散させた。


『筆頭がやられた!』

『みんなやられてんだよ!』

『女はマズイ!逃げ』

力なく座り込む娘を前に彼は立ちすくんでいた。

ほんの数十秒だが、目の前の光景を理解できなかった。

追いつくまでに1分と経っていない。

そのわずかな時間で倒された。

それは、止まない騒音が示す通り、当然と言えば当然だ。

『誰か!誰か増援を!』

その声で反射的に動き出す。

娘に肩を貸すようにして立ち上がらせ、銃声から遠ざかるように走り出す。

「お…降ろせ…」

娘の声が耳元でしたが、彼は無視して走る。

決して早いわけではないが、方ってはおけない。

だが、眼前を何かが通り過ぎ、足を止める。

外套を纏った大男が立っている。

手には不釣り合いなほど可憐で細身の刀剣が握られている。

男の周りには死体が転がるだけだ。

そのほとんど全てが装備を焼かれている。

いくら彼らのような傭兵でも簡単に焼かれ、斬られるような装備はしていない。

「全て殺せ。そう言われたわけではない。」

男と目が合った。

それだけではない。

声をかけられた。

見逃すと言っている。

多分そうだ。

しかし、動けない。

怒りで蓋をしたはずの恐怖が呼び起こされている。

「おいおい。生きてたのかそれ?」

背後から女の声がする。

銃声も止んでいる。

それほど静かになっている。

騒音も止んでいる。

振り返ることもできない。

それでも先ほどまで鳴り響いていた銃声はこの女から出ていたことはすぐにわかった。

挟まれた。

背後からの殺気がその事実をはっきりと示す。

いや、男の方は見逃すと言った。

殺す気でいるのは女の方だ。

「殺してなんになる。」

「何にもならんさ。ただ、オレの龍頸喰らって生きてんだ。殺しといた方が安心ってもんだ。」

女の殺気と男の殺気がぶつかる。

その中心地にいる彼にはどうすることもできない。

彼女たちを納得させるだけの情報など持ち合わせていない。

稲妻が落ちるまでのほんのわずかな時間。

音と稲妻の恐怖に怯えるだけの時間。

いつ、稲妻は落ちる。

「待ってくれ!」

別の誰かが風に乗って現れた。

稲妻を突き抜けように。


「では行くか。」

「よかったのですか?剣王会の筆頭まで向かわせることはなかったはず。」

大同盟に啖呵を切った後、事態を静観していたプルトと第一天使エルカは風の国の城門に立っていた。

「この戦いを終わらせるために必要な犠牲だ。前線に華があれば捨て石とは気づくまい。」

エルカの疑問にプルトは笑顔で返す。

簡単そうに数百人単位を切り捨てるこの男にラキエは恐怖を覚える。

明日は我が身。

そう感じさせられる。

「お前は予定通り、あの男を前線に投入し撤収しろ。余の方も予定通り動く。」

ラキエはその指示に頷くと光に飲まれ姿を消す。

プルトもまた手に握っていた魔法石に魔力を込めると、刻まれた転移魔法が発動する。

光に飲まれながらプルトは自分が涙を流していることに気づいた。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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