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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-48 力の真相

第二世代天使リト【未確定情報】

トラ教団が第一世代天使の戦闘データと、ルビリア・パルの血液情報を加え、天使の再設計を行った第二世代天使の1体。

人格データに三大賢人の1人であるリトがインストールされている。

カタログスペック上は第一世代天使を圧倒する。

教団の戦力の一端を担う存在ではあったが、教団の方針に疑問を持ったラキエ、リエルと共に事実上、造反。

この造反劇にレイモンド・サイカーが関与しているとの仮説もあるが、詳細は不明。


刃の国の議場でジェスと対峙するハウンド。

これまでの話を総括すると、教団の狙いは刃の国を降伏させることにあることまでは理解できた。

「なぜ今まで降伏しなかったんですか?」

ハウンドの問いに、ジェスは一瞬、エルシィの方に目を向ける。

「刃の国は、降伏してえ…大同盟にくだるう。それはあ、これまで一緒に反大同盟の立場を取った風の国を裏切ることになるう。それはわかるね?」

ハウンドは頷く。

これまで明確に大同盟に対し対立姿勢を取ってきたのは刃と風の2国だけだ。

それは単純に大同盟と反目しあうトラ教団と関りが深いという意味だ。

ハウンドの思考は至極単純でシンプルな答えにたどり着く。

「風の国による宣戦布告…!」

「君は優秀だあ。その通りい。損耗した大同盟へ即座に宣戦布告と奇襲を行う。そのための大義名分と大同盟軍の消耗う…それが刃の国へ与えられた任務さあ。」

ハウンドは通信機に手を伸ばす。

この事実を伝えなくては。

「不要だよお。」

ジェスはそれを即座に遮った。

「なぜ止めるんです?」

「まだ交戦状態だからねえ。それに奇襲といっても数時間はかかるう。」

ジェスは机に散らばった資料を指さす。

彼の言う通り、大同盟は刃の国と交戦状態にある。

そこで敵のトップからもたらされた情報を真実として報告するのは正しいとは言い難い。

ハウンドがここまで気を許しているのはこの盤面の外から干渉してきているレイモンドの存在をジェスからも確認できたからだ。

ハウンドは、小隊員2人に銃を下ろすよう指示し、ジェスの指した資料を手に取る。

水や食料だけでなく弾薬や装甲板などの品目らしい。

「これは?」

「レイモンド・サイカーは未来でも見えてるかねえ。大同盟への手土産といえばいいのかなあ?ここを最前線ではなくう…前線基地にするう。それはあこちらが提供する物品だあ。」

ざっと目を通した限りではあるが、残存する部隊が一旦、風の国からの侵攻部隊を迎撃することが可能だろう。

ここまで用意周到に準備していたこととこれまでの抵抗具合は矛盾する。

それはジェス以外、彼の副官であるエルシィ含め、レイモンドの存在を知らなかったことになる。

「これで良かったんですか?」

「よくはないさあ。言い訳もしないよお。それに私は降伏宣言の後で死ぬう。それだけさあ。それは君達の戦果として報告するといい。」

ジェスの言葉から伝わってくる怒り。

政治に振り回された結果だが、『幸運のジェス』と呼ばれた名将の最後がこのような形でいいのか。ハウンドはそう考えていた。

確かに、彼によってハウンドの同僚は何人も死亡している。

ハウンドに限らず、大同盟には彼に苦渋を飲まされたものがいる。

それでも、おそらくその大半が、ハウンドと同じことを思っただろう。

罪を償わせるという意味では無く、軍人として、力と力のぶつかり合いの果てで『殺す』ことを望むはずだ。

それは軍属としての流儀に近い。

同僚も戦闘で死んだ。

だからその仇は戦闘で取りたい。

負の連鎖ともいわれるが、現場にいる人間からすればずっと前から、いや最初から続いてきた伝統のようなものだ。

ハウンドは思考を走らせる。

刃の国は崩壊する。

だから捕虜にするということはできない。

「考えてるねえ。なんとなくわかるがあ…私はあ…もう終わりにしたんだよお。」

ハウンドは答えない。

思考がまとまってきた。

「楽しみにしていろ。」

ハウンドはそう言うと、口角を上げた。


突如現れたサラと交戦していたママとザイチは少しずつ押されていた。

ママが何とか持ち直したことで少しばかり旗色が良くなったものの、彼女の戦闘能力の高さは『よく似た存在である』パルと同等クラスだ。

ザイチは舌打ちしながら、一気に加速する。

ママはそれに合わせ、サラの足を止めるために殴りかかる。

ゴリラの腕で拳を固め、彼女の顔面へ向け放つ。

「何度やっても同じだ。」

サラは、その拳を片手で受け止め、勢いを殺す。

その上で、自身の足元へ引き込み、頭を下げたところを迎えるように膝蹴りを放つ。

「ぐっ…!」

ママは空を見上げながら滑り込むようにして倒れる。

サラは手を離し、首筋を蹴り抜ける。

そして、その勢いのまま反転し、目を走らせる。

音と殺気からザイチが背後でタイミングを測っていることはわかっていた。

ザイチは彼女に気取られる前に仕掛けた。

サラの右を抜けるようにして背後に回り、反転して背後からの居合で仕留めようとする。

たが、彼女の目は通り抜けるザイチの姿を完璧に捕らえていた。

当然、反転して突っ込んでくるというのも彼女には筒抜けだ。

「南無三ッ!」

ザイチの祈るような言葉は彼の刀と共に無残に砕けた。

サラの払いのけるような裏拳に迎撃される。

追撃の貫手。

狙いは心臓だ。

最早これまで。

ザイチが二度目の死を覚悟したとき、背後から何かが飛び出してきた。

それはサラを蹴とばすと、ザイチの前に立つ。

「剣王会…?まあいい、引っ込んでな。オレの客だ。」

「パルちゃん…」

ママは体を起こし、飛び出してきた彼女の名を呟いた。

そして、サラとパルを交互に見る。

当然だ。

明らかに似ている。

それは姉妹や親子というものではない。

そういう意味では『似すぎている』。

「ママはここだったか。悪い。完全にオレのミスだ。」

「私を見ろ!」

サラから視線を外していたパルに対し、彼女の蹴りが飛ぶ。

パルはそれをガードすると、そのまま、サラの首を掴み、締め上げる。

「抵抗するなら容赦しないと言ったはずだ。このまま死ね。」

不可解な光景だ。

パルがパルを。

サラがサラを。

同じ顔をした2人が殺そうとしている。

そういう風にみえる。

だが、2人は別人であり、その実力差もかなりある。

小さくうめき声を上げるサラ。

締め上げるパルは表情を一切変えず、迷いなく力を込める。

「パルちゃん…!これはどういうことだ…?」

「どうもこうも…こいつは教団の第二世代天使、オレのクローンとでもいえばいいのかな。」

ママの方を向き、答えるパル。

サラはパルの腕を振り払おうと抵抗するが、力が入らない。

いや、力が抜けていく。

視界もまた、端から闇に飲まれ始めている。

殺される。

死ぬ。

このまま。

サラがそう直感した瞬間、急に彼女の体は地面に落ち、呼吸が楽になる。

咳き込みながら顔を上げるとパルが頭を抑え苦しんでいる。

「パルちゃん!」

ママが駆け寄るが、パルはそれを制する。

「気にすんな…たまになるんだよ…」

「お前…は…」

サラも反射的にパルを心配する。

パルはふらつきながら立ち上がるが、頭痛がまだあるのか右手で抑えたままだ。

「サラ、お前はどうなるかはわからんが…」

その口ぶりは彼女に残された時間の長さをわずかに感じさせる。

龍の血がそれを引き起こしているのか。

最前線で戦場を駆けまわった代償か。

或いは孤児であった頃に原因があるのか。

それは幼い頃から彼女の検査を行ってきたドクでさえ検討も付かないものであった。

念のため定期的な検査を行い、状態を見守るしかなかった。

それでも少しずつ、彼女の体は異変を持ち始めていた。

天の国でカインと戦闘した際も、視界が霞む中であったとはいえ、動くカインの様子を認識できなかったこともあった。

「なぜそこまでして…」

サラの問いにパルは静かに笑う。

「言葉にしにくいが…まあ、忘れないためだ。」

彼女の言葉の真意がわからず、サラは首をかしげる。

「お前にもそのうちわかる。オレでなくても誰かが教えてくれる。」

パルは頭を抑えていた手を下ろす。

先ほどまでの苦しさは消えていた。

「『死にたくない』以外の生きる理由って奴をな。」


風の国の古城での戦闘も佳境を迎えていた。

龍の加護を解放したプルトを前に、次第に天使たちは追い込まれていく。

ラキエは苛立つ。

プルトは軍属でもなければ、リエルのような傭兵崩れでもない。

単なる市民だ。

それが、軍隊と渡り合うために作られた自分たちを圧倒している。

レイモンド・サイカーはこの時間稼ぎの意味を大同盟の立て直しとプルトの消耗のためと言っていた。

それは間違いないだろう。

しかし、これほど差があることをあの男は想定していたのだろうか。

あの説明は建前に過ぎないのではないか。

疑念がよぎるも、戦闘に意識を戻す。

リトが、プルトの背後から斬りかかるが、その速度は当初のそれよりはるかに遅く、プルトの目を欺く策もない攻撃だ。

そんなものは通用しない。

そう言いたげにプルトは反転しながら剣で受け止める。

一瞬だが、動きが止まる。

リエルが、すぐさまプルトへ飛び蹴りを放つが、プルトはリトの腕を掴み、リエルへ投げつける。

ラキエはこのタイミングで2人を飛び越えるように飛び出し、プルトの顔面を蹴りぬこうとするが、ほんの数センチ届かない。

「まだわからんようだな。」

プルトはラキエの足を掴むと、鍬を振るようにして、彼の体を地面にたたきつける。

「さて、仕置きは十分であろう。今一度、ここで余に忠誠を誓うがいい。そうすれば此度の件は不問としよう。」

プルトと自分たちの実力差は圧倒的だ。

しかし、レイモンド・サイカーはこの状況すら予見していた。

降伏を迫るのは殺しきれるだけの力がない。

故に、拒否すれば時間稼ぎは十分。

大同盟の準備ができれば離脱すればいい。

レイモンドの言葉が呼び起こされる。

その通りであれば。

「冗談がうまい。それは…我々を殺しきれないということを白状したも同然…!」

ラキエは自信をもって胸を張る。

単にレイモンドの言葉があったからではない。

プルトは天使の生産のために検体を提供してはいたものの龍の加護を得た以外にキメラ兵士のような特殊な手術を受けてはいない。

それは、パルやママのような人外の域になく。

また、混血の獣人もないため、戦闘能力の限界が今この状態である。という理屈に基づく確信もあってのことだった。

「お前たちは…勘違いしている。」

プルトの表情が変わる。

怒りでも自信でもない。

何かを懐かしむ様な。

それでいて呆れているような複雑さを感じる。

「あり…え…ない…!」

リトは恐怖した。

いや、対峙するリエルもラキエも同様だった。

プルトの背中。

左肩から悪魔を思わせる片翼が現出する。

「レイモンド・サイカーが希望を語る時は、相手を使い捨てる時だ。あの男は希望など信じていない。希望は見るべき真実を隠し、都合の良い方向へと思考を誘導する『悪魔の囁き』だからな。」

その姿は彼の娘であるルビリア・パルと鏡合わせのようだった。

プルトは剣を納める。

信じがたい話ではある。

このプルトは今の今まで力を隠していた。

獣の国で剣聖カインと戦った際も。

花の国の会談でレイアに戦力が足りないと煽られた時も。

何のことはない。

刃の国への宣戦布告など。

そのタイミングが遅れ、大同盟と正面から戦闘を行うことになろうと。

問題ないのだ。

それほどにプルという一個人の持つ力は強力で、凶悪だ。

事実を飲み込めず、硬直するリエルとラキエをよそに、リトが仕掛ける。

プルトの正面へ全速力のステップインからの切り上げ。

しかし、プルトはその切り上げよりも早く、リトの首を捕らえ、片手で持ち上げる。

遠慮のない握力がリトの細い首を締め上げる。

「疑問に思うべきであったろう?」

ラキエは彼の背後に回るが、それは彼に見られていた。

回し蹴りの要領で鳩尾に足を突き立てられる。

呼吸が止まる。

プルトは素早く蹴り足を引くと、軸足で一歩後ろに下がり、空中で折れ曲がったラキエの頭を踏みぬくように下ろす。

「なぜ、天使には再生能力が備わっているのか。」

リエルは動けなかった。

絶対的な強者と対峙したときに感じる無力感。

抵抗も逃走も無意味であるということがわかる。

「なぜ、天使が戦闘用魔力のリミッターを解除すると羽が出現するのか。」

「リエル!行ってください!この情報を…!大同盟に!」

静かに語り続けるプルトの声を遮るようにラキエは叫ぶ。

だが、リエルは動けない。

「なぜ、余をベースに開発された天使が、大地の龍の血を持つルビリア・パルと似た特性を持つのか。」

プルトの顔が跳ね上げられる。

リトが捕まった状態から顎を蹴り上げたのだ。

「おしゃべりな野郎だな!」

リエルを守るようにしてプルトとの間に立つリト。

それは、リトもまた、リエルを逃がすことに賛成であることを示す。

だが、プルトは意に介さない。

「なぜ、第二世代天使の開発にパルの血が役立ったのか。」

プルトはリトの頬を蹴り飛ばす。

先ほどリトがステップインした時より距離があったにも関わらず、それを一瞬で詰めている。

「なぜ、第四の龍が完成しつつあるのか!」

吹き飛ぶリトの頭を空中で掴み、滑り込みながら地面で削る。

「まだだ!」

ラキエは背後から蹴りを放つが、プルトの姿はない。

左の貫手がラキエの背後から貫通して出てくる。

「それは余が、天の龍の加護を受け、海の龍を信奉した『龍の一族の末裔』であるからだ。」

プルトはラキエの体が灰になって消えるのを確認する。

リトは体を起こすが、再生が追いついていないのか、削られた顔は戻っていない。

「そういうことか…龍の一族の末裔…だから貴様は天の龍の存在も知ることができた…まさか…お前の目的とは…」

リトは言葉を最後まで残せないまま灰にりながら崩れ落ちる。

「余にとって大地の龍の力だけが持ちえないピースだった。故にパルと使いそれを手に入れようとしただけのこと。いや、そういう意味ではパルである必要も無かったがな。」

どうやらリエルは逃げたようだ。

だが、戦場に出れば大同盟も知ることになる事実。

それをいくらか早く知り得たとして果たして何の意味があるのか。

プルトが龍の加護を持っているのはすでに知られている。

その戦闘能力がパルのそれに近いという情報は大した価値を持たない。

レイモンドは単に第三勢力という不確定因子を排除するためにこの場を設けただけだ。

いや、ハウンドに事情を説明する。という補助的な目標を達するための時間を稼ぐという意味では有意義でもあったが。

「楽しませてくれる。我が友よ。」

彼は自然に笑っていた。

次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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