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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-44 脱皮 -Muda de piel-

不定期連載コラム『プロジェクトY~改善者たち~』第21回(前編(全3回))

ヤタ重工の製品は百発百中とは行きません。

時代の流れによる需要ニーズの変化に対応できず、お客様からご意見を頂戴することもしばしばあります。

このコラムではそんなお客様の声を受け、商品を改善していく開発部の汗と涙の記録をご紹介いたします。

今回はヤタ重工製『魔力鎖』。

鎖の輪に魔法の術式を組み込むことで柔軟かつ連続しての魔法使用を補助する商品です。

まずはお客様の声を振り返ってみましょう。

「納品が遅い癖に術式が古い。アタシが直接やった方が早い(龍の国60代女性)」

「自分が旧式魔法でやった方が早い(龍の国40代男性)」

「重い。邪魔。オレがやった方が早い(龍の国30代女性)」

いずれも軍人のお客様から寄せられた意見であり、どれも、ご自身の能力を活用したほうが早いという内容でした。

次回はこの結果を踏まえ、プロジェクトリーダーがどのように計画を立てたのかをご紹介します。


キメラ兵士。

遺伝子を調整することで戦闘に特化し、誕生させるデザイン・ベイビーと異なり、後天的に亜人のような身体能力を付与された兵士。

成功率は大戦争末期であっても7割ほどであり、戦闘能力が元の兵士に大きく依存することからすでに廃れた技術と言われる。

その成功例の一つ。

最初の成功例であり、その優位性を戦場で示した男。

そして唯一、『完成したキメラ』と呼ばれた男。

コルネオ・ギガト。

彼の力は亜人としての脚力や聴力ではない。

合成獣キメラ』の本懐。

それは亜人の亜種という枠にはない。

『複数』の動物の能力を『同時に』使用できるということ。

それは亜人でも純人間でもない。

人外バケモノ


ザイチと対峙していたママは小さく息を吐く。

目を疑いたくなる光景だ。

彼の目は猛禽類を思わせる鋭い目になったかと思えば猫のように瞳孔が細くなり、ヤギのようにも変わる。

彼の脚はカンガルーのようなそれから馬のものに変わり、チーターを思わせる物に変容する。

彼の腕はゴリラのように太く毛深くなったかと思えばナマケモノのように長く爪を備えたものに変身する。

更に時折、尾のようなものが発現する。

蠍のようなものから爬虫類のような鱗を纏ったものまで多種多様。

「サーカスなら花形トップ・スターになれるだろうよ…」

ザイチは呟く。

味方として助けられ、頼って来た彼の力。

それが今、自分に向けられる。

ザイチは構える。

身体強化魔法を使った最大速度。

そこからもう一段階アクセルを踏み込む。

知覚可能なギリギリのライン。

当たれば良し。当たらなければ良しの超高速戦闘。

その動き出しは地面をえぐった。

ママの目は黒く大きな瞳へ変化した。

ハヤブサの目だ。

広い視野と運動視覚を兼ね備える。

ママは、拳銃を構える。

全盛期のであれば高速戦闘も可能だったが、ドラゴンとの戦闘でその能力は大きく落ちている。

精神的なものが影響しているが、それでも戦場に出てきている以上、言い訳することはできない。

逆に言えば、風の国からの逃走後、キメラの力を使う機会が無かったとも言える。

静と動。

対照的な2人。

何もかもが対極。

だからこそ、負けたくはない。

ザイチの最大速度に対し、ママは目でギリギリ追うことが精一杯だ。

視覚だけでなく、コヨーテの尖った耳による収音も行っているが、雑音がひどく、位置までは判断できない。

銃声が三度響く。

だが、それがザイチを捉えることはなく、彼の斬撃が新たな傷を増やす。

舌打ちをしながら傷口を抑える。

致命傷ではないが、失血は無視できない量に達しつつある。

「勝負だ…!」

ママは苛立ちながら銃を捨て、拳を構える。

半ば投げやりのようなそれは確かに無謀に見える。

だが、彼の性格を知るザイチからすれば勝負を仕掛けて来る以上、十分な勝算があると感じた。

ママの周りを不規則に飛び回りながら、ザイチは照準を定める。

この速度での突きは間違いなく致命傷になる。

問題はこの速度で突きをいかに命中させるか。

ママにカンガルー・ジャンプがある以上、安易な攻めに転じるのは悪手だ。

敵は無警戒に見える。

敵は厳重警戒にも見える。

ザイチは静かに、ゆっくりと、親指で鍔を押し上げる。

策は見えた。

ママの右腕はゴリラのように逞しく、蓄えられた力は解放の時を待っている。

それが狙っているのはあくまでも突き。

自分の突きを動体視力で捕捉、迎撃する。

なら単純に薙げば良い。

堂々と正面から。

刀のリーチを生かし、ママの射程外から一撃加え、突きを放てば良い。

だからこそ。

ザイチは思い切り踏み込む。

敵の射程は十分に把握している。

抜刀の刹那、ママの目がこちらを捉えているのが見えた。

反応が遅れたのか解放の時は来ていない。

ザイチは力強く振り抜くと確かな手応えを感じる。

そしてその拳が届かないことも。

だが、ママの目は死んでない。

それだけの信念と強靭な意志を持つ男。

敬服する。

ザイチは刃を返す。

故にここで殺しておく。

次にここまで追い詰められる保証はない。

殺せば再戦リマッチはない。

だからこそ、この渾身の突きで終わらせる。

ザイチは大きく踏み込む。

無論、踏み込んだことでママの射程距離に入ることになる。

だが、一撃を加えた今、反撃よりも先にザイチの突きが届く。

もし仮に、ママとザイチが旧知の仲でなければ気付いたかもしれない。

罠とも思える勝負に乗らなかったかもしれない。

だが、可能性など空論でしかない。

彼は自分自身で選び、見落とした。

ザイチの腕が伸びきる前に切っ先が砕ける。

解放の時、来たる。

ママの拳はグローブのように強固な骨に覆われ、刀を粉砕しながら迫ってきている。

ザイチの刃はママの肉体に傷を付けてはいない。

射程外から走ったはずの刃は爬虫類のような鱗に阻まれている。

最初からこの展開を見据えていたのか。

視界を覆う拳にザイチの思考は止まることはしなかった。

それはある意味での諦めでもあった。

死を覚悟した瞬間、引き伸ばされる思考時間。

それはまるで拳が止まっているかのようだった。


風の国の古城。

現在はトラ教団の本拠地として運用されている。

それは、トップや幹部の仕事場という意味に加え、天使やディプタドを始めとする教団の生体研究所としての意味も持つ。

今、教団のこうした研究の原点とも言うべき存在が解放された。

男はカプセルから吐き出されると咳き込む。

段々と視界が彩りと輪郭を捉え始める。

目の前には細身の男が立っている。

「お前は誰だ?」

自分ではない。

目の前の男がそう言った。

「私は…サーペント…龍の国の…」

言葉を遮るような蹴りが男を襲った。

なぜだ。

自分はサーペントのはずだ。

なぜそれを否定される。

「お前は誰だ?」

細身の男は髪を掴んで顔を上げさせる。

嘲笑の奥に怒りが見える。

私は。

私はサーペントだ。

龍の国のデザインベイビー。

そのはずだ。


ザイチは目を閉じていた。

ママの拳に対する防御ではない。

ママの策に嵌ったことによる諦めだ。

しかし、本来届くはずの拳も痛みも意識を攫う闇さえ来ない。

「な…なんだ…お前は…?」

ママの声が震えている。

ザイチが目を開くと動揺を隠せないママが見える。

先ほどの信念を宿した瞳とは思えないほどその光は揺れ動いている。

「そんなに私が面白いか?ルビリア・パルはどこだ?」

ザイチも聞き覚えのある声が背後から聞こえてくると、反射的に振り返った。

その声は忘れるはずもない。

長い銀髪と真紅の瞳。

記憶と異なるのはその目に理不尽に対する怒りが宿っていることだけだ。

「馬鹿な…」

「『ドラゴン』…!」

ザイチとママは現実を受け入れられない。

大戦争という狂宴が生み出した異物。

「私を…あの女と一緒にするなあ!」

サラは叫び、2人にとびかかる。

「コルネオッ…!」

ザイチに弾き飛ばされるママ。

飛びかかりながらの攻撃は何とか回避した。

「なぜ…おまえが…」

ママは動揺したまま、持ち直すことができない。

そんな格好の餌をサラが見逃すはずもなかった。

彼女は視界に彼を捕らえると、一直線に駆け出した。


剣聖カインは、目の前の人物に問いかける。

「貴様も脱走兵か?」

「なんのこと?」

「その恰好は脱走兵がするものではないのか?」

カインの問いかけに剣王会、鉈のヤナギは首をかしげる。

「アンタは脱走兵が皆、オカマだと思ってるの?」

「違うのか?」

「馬鹿にしてる?」

「いや。」

カインの中では女装した兵士は脱走兵であるという図式があった。

それは彼がサーベルタイガーのオカマ達を見てきたからに他ならない。

なにか世間から身を隠す必要がある故。

そう考えていた。

だが、このヤナギは違うという。

カインは自身の知識との乖離に混乱する。

「ならばなぜ、そのような恰好を…?」

「趣味よ!」

痺れを切らしたヤナギは鉈を両手に構え、突っ込んでくる。

カインはそれを飛び越えるようにして回避する。

着地して振り返り、再びヤナギを視界に入れる。

ヤナギも素早く反転し、再度、突撃を仕掛ける。

カインは宝剣を構えない。

ヤナギの獲物である鉈は手斧ともいうべきサイズで、至近距離での戦闘用だ。

宝剣のような大型の獲物ではいくらかの不利を背負うことになる。

それは彼自身のヤナギに対する混乱と身体強化を踏まえたヤナギの戦闘速度に自分がついていけないことからも、素手での戦闘を選択した。

「舐めるんじゃないわよ!」

左の拳を構えたカインにヤナギは声を荒げる。

当然、カインにはヤナギを低く見ているということはない。

ヤナギはさらに加速するように重心を低くしていく。

カインはヤナギの側頭部目掛け、回し蹴りを放つが、ヤナギは更に頭を低くして回避する。

ヤナギは体勢の崩れたカインの胴へ、交差するように鉈で斬りつけようとする。

だが、その軌道に異物が挟まるようにして交差を止める。

カインのマントだ。

鉈の手元、刃のついていない部分で噛んでしまった上、防刃機能を持つそれを巻き込んでいる。

とはいえ、状態は五分。

蹴りを外したカインはマントを巻き込まれたことですぐに反撃できない。

ヤナギは素早くマントを外そうとするが、側頭部に蹴りを貰い、首が弾ける。

直撃の瞬間、ヤナギの眼球は攻撃の正体を見定めていた。

カインは蹴りを外した後、軸足の力で空振りの勢いを殺し、その軌道をなぞるように足を振り返すようにしたのだ。

その威力はわずかに絡まっていたマントを引きちぎる。

ヤナギは膝を付いたが、爪先に力を込め、勢いをつけて立ちあがろうとする。

だが、その視界をカインの拳が塞ぐ。

寸頸ワンインチ・パンチ

足を動かさず、重心を動かさず。

ただ腰の回転ひねりから放つ。

右の回し蹴りによる往復から流れるような左の寸頸。

振り抜かない。

それ故、その衝撃は着弾点に衝撃の全てを与える。

敵わない。

ヤナギの思考はその結論をすぐさま出すと、完全に止まった。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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