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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-43 D3

光魔法【一般情報】

元素魔法とは異なる魔法系統。

大気中に存在する光を魔力で固定することで形を作る。

本来、視認することのできない光は魔力と混ざることで半透明の物体として見ることが可能となる。

その色は術者の魔力に依存するのが特徴。

柔軟性に富むため、同一の術式であっても術者によってサイズや強度は異なる。

魔力をベースに自然現象を起こす元素魔法とは原理が異なるため、複合魔法とすることは非常に高難易度であり、龍の国のトータスなど、ごく一部の兵士が使用する程度にとどまっている。


地面に降り立ったドラはオルカを見つめる。

死んではいないようだ。

ただ、動けないだろう。

「まだ続けますか?お姉さん。」

「あぁ…そうさね。いい速さだ。見えなかったよ。」

オルカは瓦礫から這い出る。

眼には閃光が宿っている。

身体強化魔法を使い、無理矢理、体を動かしている。

オルカは、軍服の右袖を引きちぎる。

「想定しているラインだ。ようやく稼働試験ができそうだよ。」

顕わになった彼女の右腕にはブレスレットのような装飾品が装備されている。

「審判の日は…来ねえといいんだけどよ。アタシらには『首輪』を付ける義務がある。」

オルカは装飾品に魔力を込めると、それは淡い光を放つ。

「名は…D3(ディー・スリー)、『DoomsDayドゥームズデイDevaiceデバイス』」

オルカの言葉いのりは形を成す。

魔力の右腕だ。

ゴーレムのそれというべきか。

機械的で、巨大で、飾り気のない無骨さを持つ。

オルカは手を握ってみたり、肘を曲げてみたりする。

すると巨大な腕が追従する。

「問題なさそうだね。んじゃあ始めようか。今度はアタシも本気だ。」

ドラは当然、警戒する。

彼女が『本気』といって出してきたそれは右腕でしかない。

つまり、左側はカバーされていない。

未完成。

そう解釈することもできる。

オルカは強力な魔力を纏っている。

それがあの右腕だけによるものか、それ以上の『何か』を含んだものなのか。

ドラにはそれを判別できない。

ドラは刀を構える。

言葉にできない違和感がある。

だが、それでも、速度では自分に分がある。

ならばそれを活かすだけだ。

ドラは再び加速する。

オルカの目は追うことはしなかった。

腕をD3を動かすこともしなかった。

ただ、少しだけ腕を振った。

オルカは左腕を振った。

ドラにもそれは見えていた。

だが、なにも起こらない。

様子は十分。

ドラが距離を詰めようと踏み込んだ時、それは起こった。

違和感。

なぜかはわからない。

日差しが強かったのか、目の奥にわずかな痛みを感じる。

咄嗟に距離を取った。

オルカの眼はドラの姿を捕らえている。

最高速度での移動の最中であっても。

それをあの笑みが語っている。

身体強化魔法には視力を強化する作用も含まれる。

だが、その程度はこれまでまるで見えていなかったものが見えるようになるほどではない。

それがオルという龍の国でもトップクラスの兵士であったとしても。

試す必要がある。

ドラは再び加速する。

オルカから目を離さないようにする。

どんな些細な動作も。

瞬きなどしない。

狙いは右側。

巨大な腕を見せるという一種のハッタリ

それを確認する。

だが、再びの違和感。

オルカの視線を感じる。

いや、回り込んだ瞬間、確かに目が合った。

オルカの笑みが大きくなる。

距離を。

そう思い、羽ばたこうとする。

だが、背後が詰まる。

存在しなかったはずの壁。

オルカの光魔法だ。

巨大な腕はドラの腹部へ肘撃を入れる。

そして追撃の一発。

パイルバンカーとでもいうべきか。

肘から発射された杭は腹部を貫通し、壁にも穴を開ける。

オルカは杭を引き抜かない。

魔力でできた杭は彼女の意思1つで消えるからだ。

ずり落ちるドラの頭をD3で掴み、地面へ叩きつける。

オルカは再び、左手をふる。

ドラはバウンドしながらこの左手の意味を理解し始めていた。

仮に思っている通りであれば『光魔法』というものをここまで体現しているものはない。

そして、『過剰』だ。

ここまでのことをする必要性は存在しないだろう。

なにを想定しているのか。

おそらく人ではない。

だが、人を殺すには最適だ。

見えないという『原理』。

そして、これを操るオルカの『異常性』。

光が目を。

目が光を。

故にこの兵器デバイスは成立する。

理解した瞬間にわかることがある。

あれは日差しでは無かった。

あの痛みこそがこの兵器デバイスの真価だ。

巨腕の拳がドラを潰す。

オルカはそれを確認すると満足げに頷き、タバコに火をつけた。

審判の日。

かつてホエールに言われたそれへの対策。

十分な効果を確認できた。

ただ、『アレ』に通用するかは未知数だ。

オルカは、『その日』を避けたいはずなのに、そのことを考え、こんなものを生み出した自分を嫌悪した。

人に向けるものではない。

少なくとも、『アレ』が『人』である場合には。

オルカはその場に座り込む。

予想以上にダメージを受けた。

油断とも言えるが、それ以上に老いを感じる。

大戦争の頃であればこの程度は傷にも入らなかっただろう。

通信機に触れると、すぐにトータスが反応した。

『大丈夫か?』

「あぁ。片付いたよ。ただ、これ以上は足を引っ張りそうだ。ちょっと休ましてもらうよ。」

半ば強引に剣王会迎撃を買って出ただけに、ここでの離脱は後ろめたいものがあった。

トータスも少し呆れた様子だったが、自分にも思い当たる部分があったらしく、珍しく同情的だ。

『お互い、若くねえんだ。後は若手に任せな。』

「年寄り扱いにもなれた方がいいかね?」

トータスの大声が耳元で響き、反射的にオルカは通信を切った。

自分の耳と反射神経はまだ老いていない。

オルカは自嘲気味に笑い、新しいタバコに火をつけた。


この時点で援軍として現れた5人の剣王会のうち、風羅のガイ、毒劇のダンそして、幻想のドラ3名が死亡。

大同盟の迎撃側のうち、消耗がほとんどないパルとは対照的に、オルカとバイソンはすぐさま制圧隊に合流できる状態ではない。

トータスはオルカからの通信を受け、剣王会迎撃組の合流は困難と判断。

制圧部隊を刃の国首都へ侵攻させる。

ジェスはそれを受け、制圧部隊との戦闘を防衛隊へ通達。

戦力差はおよそ3倍。

ただ、どれだけの数を積んでも無傷で勝てる保証などない。

強力な個人を剣王会が抑える形になっており、流れは刃の国にあるように見える。

ただ、トータスも無策で制圧部隊を送り込んだわけではない。

もとより、制圧部隊だけで事足りるようになっている。

そこにパルやオルカといった別動隊が合流できればより、確実になる。

それだけだ。

だが、ジェスは全く別の方向に思考を巡らせていた。

風羅のガイがもたらした1つの事実。

刃の国、政府高官の事実上トップである議長。

その議長以外が殺害されたという。

それはパーシヴァル・プルトの次の一手を示すものだ。

たが、ジェスにはその一手に対して何かできるわけではない。

教団と大同盟という2つの巨大な流れがぶつかってできる渦。

それは今ではない。

果たして自分はどこまでついていけるのか。

ジェスはそんなことを考えながら外の騒音に耳を傾けた。


剣王会の生き残り2人。

そのうちの1人居合のザイチは退治するママと睨みあったままだった。

殺気を孕んでいないそれは、戦場に似つかわしくない。

2人にあるのは巡り巡った因果の先で敵対することになった事実。

それを悲しむだけだった。

「なぜ、私を選んだ。」

最初に口を開いたのはザイチだった。

ザイチを除く4人は若手であり、ママと面識はない。

その中で敢えて、縁のある自分を選んだ。

その真意。

「関係ないさ。アンタの手の内はわかっている。与しやすい相手を選んだまでのこと。」

「なにを迷っている。」

ザイチの言葉にママは目を細める。

「さあな。その悩みは私じゃなくコルネオ・ギガトという人間のモノだろうよ。」

「罪悪感か?」

「かもな。」

「自分が逃げ出し、今、祖国である風の国と敵対しているという事実にか?」

「そうなんだろうな…!」

他人事のように答えるママ。

だが、自分の胸中を言い当てられ、語気が強くなってしまった。

風の国の兵士、コルネオ・ギガト。

風の国が誇る最強のキメラ。

それが今、風の国と敵対する立場にいる。

彼の友人はザイチに限った話ではない。

逃亡者とはいえ、20年近く前の話だ。

今、戻れば受け入れてくれる人もいるかもしれない。

だが、本当に正しいものとは何なのか。

ママの思いは言葉になっていく。

「私たちが『正義のために』、『平和のために』と声を上げて戦っていた時、その裏で、孤児に人体実験をするようなことが起きていた!しかもそれを兵器として運用したんだぞ!」

脳裏にあの時の動揺が蘇る。

銀髪と真紅の目を持つ少女。

それが、当時最強と言われた自分を圧倒した。

それだけならばまだいい。

だが、彼女の目は戦争など望んでいなかった。

正義など無かった。

大義など考えていなかっただろう。

時代という理不尽を前に全てを諦めたような目。

それが彼の正義を揺るがした。

「私たちの正義とはなんだ!大義とはなんだ!答えてみろザイチ!私たちの戦争の意味を!」

「戦争の意味など政治家の決めることだ!それに殺し合いに意味を見出そうなどと、お前はいつから哲学者になった?」

剣王会という傭兵の言う正義。

軍人の言う正義。

立場の違いと結論付けるにはいささか乱暴だ。

故に戦う。

2人は構える。

勝者の正義が正しい訳ではない。

だが、戦場で対立する正義が向かい合うとき、それは殺しあう以外にない。

それが戦争の本質なのだ。

ママは懐から拳銃を抜く。

ザイチも合わせるように構える。

抜刀と斬撃を同時に行う抜刀術はその一撃一撃が必殺となる。

ママはそれを理解した上で、銃を両手で握り、鎖骨のあたりで斜めに構える。

接近戦を前提とした構えだ。

静寂の生み出す緊張感の中、ママは無意識にグリップを握りなおす。

小指から順に握りなおす最中、ザイチは動く。

視界から逃れるように横に飛ぶと、ママは反射的に引き金を引く。

わずかに煙を伸ばしながら薬莢が飛ぶ。

炸裂によって加速した弾丸はザイチの影を捕らえることは無かった。

ママは舌打ちしながら視線を走らせるが、ザイチを捕らえられない。

体を反転させ、後方を確認した瞬間、背中に一筋の痛みを感じる。

熱を帯びたそれを生暖かい血がなぞることで、初めて、切創だと気づく。

ママは痛みに顔を歪める。

足を半歩前に出し、踏ん張ることで、倒れることだけは防いだが、依然としてザイチの位置は把握できない。

身体強化魔法による加速と一撃必殺、或いは一撃離脱を旨とするザイチの剣術は近接戦闘を得意とするママと相性が悪い。

特に、相手の位置を把握できていない以上、攻撃も防御もできない。

振り返り、ザイチの影を探すが、視界には入らない。

背中の傷は大事に至るほどではない。

ママはすぐさま、状況を把握すると、懐から鎖を取り出す。

ヤタ重工が販売している魔法鎖まほうさ

あらかじめ術式を指定して、発注することで、鎖の輪、一つ一つにその術式を記入して納品される。

ママの持つそれには炸裂魔法の術式が記載されており、線での爆破が可能になっている。

高速で移動する相手に範囲攻撃で対抗することは基本となる。

セオリー通りの対処にザイチがどう動くのか。

ママはそれを狙っている。

左手に魔力鎖、右手に拳銃を携えたママは、目を閉じ、自身の聴覚に意識を集中する。

それは単純な『神経を研ぎ澄ます』というものではない。

彼の耳は馬のそれに変わり、せわしなく、動き始める。

ザイチはそれの示す意味を理解しているのか、更に加速していく。

だが、無秩序に動いていたママの耳は段々と規則性を持ち始める。

まるで音を追いかけるように。

ママは得心したように目を開くと、左に1発、後方に1発、と続けざまに発砲する。

それがザイチを捕らえた訳ではない。

だが、ママは発砲をやめない。

弾倉を空にしてもなお、素早くリロードを行い、発砲を続ける。

ザイチは追い詰められているという認識は無かった。

確かにママの耳と弾丸は自分を追いかけて来ている。

だが、それは踏み出した後に着弾している。

ワンテンポ、ママの対応が遅いのだ。

ザイチはこの速度域に対応できないと判断し、仕掛ける。

親指で鍔を押し、飛び込みながら刀を抜こうとする。

だが、彼の視界の先にはママはおらず、抜け殻のように残された鎖を断ち切るだけだった。

ザイチはここで初めて足を止めた。

予想外。

いや、想定外というべきか。

彼の後方で、金属の跳ねる音がした。

振り返るとママが弾倉を交換している。

彼の足は飛びながら移動するカンガルーのようにつま先にかけて細くなっている。

合成獣キメラ…」

ザイチは刀を鞘に納めながら、忌々し気に呟く。

ママは否定せず、首を横に倒し、関節を鳴らす。

「久々なもんで時間がかかった。準備運動ウォーミングアップは終わりだ。行くぞ。」

ママは上着を投げ捨て、上半身を顕わにする。

その肉体にはいくつもの手術痕があり、彼が得た力の代償を物語る。

それは皮肉にも、彼が己の正義を疑うきっかけとなった彼女の姿に重なるのだった。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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