2-42 先輩のように
複合魔法【一般情報】
元素魔法と呼ばれる、炎、風、氷(水)、土の4つの内、2つ、或いはそれ以上を複合させる魔法。
高度な魔力コントロールとそれぞれの魔法作用を理解していなければならず、一般的には使い魔との連携を基本とする。
龍の国のハウンドは複合魔法の名手であり、4属性の使い魔を連携させることで多種多様な複合魔法を操る。
「貴様…なんのつもりだ?」
乱入気味に参戦した剣王会の5人、そのうちの一人、毒劇のダンはバイソンをにらみつける。
「なんのことだ?戦場で相手は選べない。基本だ。軍人擬き。」
バイソンはしらを切りながら煽る。
「つまらんな!天使に負けたという噂、風の国まで響いて来たわ!」
「痛いとこ突いてくるな…まあ、事実ではあるが。でも、俺を無視するのはどうなんだよ。」
5人が5人、それぞれ相手を見極め解散したはずだったが、カインには2人ついていったのだった。
バイソンは、その2人のうちの1人であったダンを蹴り飛ばし、強引に自分と戦わせることにした。
「知ったことか!貴様をつぶしてから、剣聖カインもつぶせばいい!」
ダンはそう言い放つと、刀を抜き、斬りかかる。
バイソンも細剣を抜くと、それを受け流す。
「軟弱な剣だな!」
受け流されたことを意に介さず、切り上げるダン。
バイソンは半歩引いてそれを回避すると、素早くカウンターの刺突を放つ。
「傷にもならんわ!」
刺された傷を笑い飛ばし、傷つけられた右腕で、殴りつける。
その一撃はバイソンの顔面をとらえ、吹き飛ばす。
「軟弱!虚弱!鍛え方が足りんぞ!我が終生の好敵手ジルがいれば、ともに笑ってくれただろう!」
「前もあったな。こういうパターン…」
バイソンは、口の中の血を捨てる。
「鍛え方が足りねえってのは認める。俺はまだまだだ。だから、鍛えてんだよ。背中に届くように…!」
「心がけはよし!だが、戦場でそんな弱音を吐くなど!言語道断!」
ダンは雄たけびとともに剣の頭を押し込む。
「来い!毒牙のトリス!」
ダンの剣が光を放つと、巨大なサンショウウオの使い魔が出現する。
「毒撃の真価、堪能してもらおう!」
重なる不利にバイソンは自分の才能が嫌になる。
凡庸な兵士。
それは彼自身、よくわかっていた。
虚勢のような正義感で固めたプライドはハリボテというにふさわしい。
入隊前に路上で築いた自信はすぐに砕かれた。
そして、砕かれた自信は憧れという光とコンプレックスという影を生み出した。
先輩のようにたくさんの魔力があれば。
先輩のようにたくさんの使い魔を使いこなせれば。
先輩のようにたくさんの魔法を使いこなせれば。
先輩のように絶対の防御ができれば。
先輩のように。
先輩のように。
そう考え続けていた。
だが、どうやっても近づけない。
世界は広い。
強い人間は先輩たちだけではなかった。
だが、彼女と作った力が、今の彼にはあった。
追いつくということは模倣の果てにはない。
だから、自分らしく進んで追いつけばいい。
自信なさげだが、力強くそういってくれた彼女。
バイソンは立ち上がる。
彼女と作り上げた力だけは嘘にしたくない。
「かかって…こいやあ!」
彼の目に力がこもる。
先ほどより強い。
負けん気ともいうべきそれは、今までの彼になったものだ。
先輩という光が作り出した諦めに似た感情は彼の負けん気に蓋をしていた。
だが、今、その蓋が空いた。
バイソンは雄たけびをあげながらとびかかる。
「それでこそ倒しがいのあるというもの!」
ダンは嬉しそうに叫び返し、迎撃の斬り上げを放つ。
バイソンはしなる刀剣ではなく、固定された鍔近くでそれを受ける。
鍔競り合いになるが、すぐさま、サンショウウオが横やりを入れる。
バイソンは舌打ちをしながら、距離をとると、着地しながら小石を蹴り上げる。
「貫石弾!」
飛び上がった小石は弾丸のようにサンショウウオに飛んでいく。
サンショウウオは口から泥団子のような塊を吐き、小石にぶつける。
焼けるような音とともに小石が消滅した。
「毒?!」
バイソンは思わず口に出す。
使い魔は基本的に元素魔法のいずれかを持っている。
だが、まれに特殊な性質を持つ使い魔が存在する。
バイソンが知る限りでは、パルの持つ龍閃の6番と名づけられたものだけだ。
あれは魔力や衝撃を吸収、保管する性質を持つ小龍。
「ふむ、トリスの力がバレてしまったか…だが、問題ない!」
サンショウウオの使い魔、トリスは答えるように低い鳴き声で返す。
バイソンはいったん冷静になって考えなおす。
厄介な能力を持つ使い魔と単独でも一線級の強さを持つ本体。
そして、その連携練度は言うまでもない。
この状況をどう突破すべきか。
だが、その思考が結論にいたるまで状況は待ってくれない。
ダンは叫び声をあげながら突進突きを放つ。
回避すれば、その先にトリスの毒団が放たれるだろう。
バイソンはとっさに、土の壁を作り、突きを受け止める。
三日月状に展開された壁はダンとトリスの視界を塞ぐに十分だった。
だが、これだけでは状況の解決にはならない。
ダンは壁を突破するだろう。
壁から体を出せばトリスが攻撃してくるだろう。
バイソンは、手早く細剣で地面に魔法陣を描く。
実戦で使うのは初めてだったが、一年間反復練習を繰り返した成果は十分だった。
顔をあげると壁にひびが入っていた。
バイソンはすぐさま、後方へ退避し、剣を構える。
ダンが壁を突破すると、バイソンは改めて位置を確認する。
「崩牙石弾!」
バイソンの言葉に反応して飛び散った破片が軌道を変える。
ダンはとっさに停止し、防御の構えをとる。
だが、破片はダンを素通りして、トリスへ向かう。
目の前の破片が自分を無視して進んでいくことが予想外だっただけに、彼の目は破片を追いかける。
想定通り。
バイソンは、言葉を重ねる。
「砂よ水よ!奈落となれ!睡蓮よ!底果てより芽吹け!」
ダンは足元の魔法陣が光ったことで自分が罠に嵌められたことに気づく。
トリスもまた、破片が作り出したドーム状の壁に捕らわれた。
脚を捕られる。
旧式の複合魔法。
若い世代のバイソンは知識として知っているだけだろうと勝手に判断していた。
いや、龍の国のイーグルならまだしも、旧式魔法を戦場で戦う兵士が使うものではないと仮定していた。
無意識の予測。
それが外れた時、人間の思考は停止する。
ダンは、自分の状況を理解できていなかった。
脚が、沈んでいる。
持ち上がらない。
上がるはずの脚が上がらない。
両足だ。
太もものあたりまで沈んだ段階でようやく足元に何があるか理解した。
沼だ。
砂と水の混ざったそれは水より纏わりつき、砂より重い。
トリスの壁も同じだ。
沼は毒では溶かし切れない。
溶かしたそばから次が流れ落ちる。
その流れは毒を地面まで流し、無為に消費させる。
ダンは最後の抵抗に刀をバイソンに投げつけようと振り上げる。
だが、腕が蔦のようなものに捕まる。
円形の特徴的な葉を持つそれは睡蓮だ。
沼の泥でできた睡蓮だった。
「その睡蓮はお前の魔力を吸い上げながら成長する。お前はそのまま沈むから花は見れんだろうがな。」
ただ。そうつないで、バイソンは距離を詰める。
「愚者は失敗から学ぶ。ってわけだ。」
「一歩進むだけ人としては十分だろうよ。」
バイソンの意図を察したダンは笑う。
敵意のないそれに、バイソンも笑顔で答え、素早く細剣でダンの喉を切り裂いた。
沼に血が流れていく。
そして、ダンの遺体が沈んだあと、大輪の睡蓮が花開いた。
15分ほどで消える献花だが、ダンとの戦いで学んだこと、身についた自信は彼の中で生き続けるだろう。
バイソンは天龍事変の際に港の国で第五天使フィエルに敗北、ドルフィンの援護に加え、オルカとホエールの救援がなければ死亡していた。
その事実を受け、自分を1から鍛えなおすことを考えた。
しかし、自分の力を最大限に生かす方向性に悩むことになった。
その際、復帰したイーグルが、彼の魔法センスに目をつけた。
土魔法以外のコントロールは実戦レベルではなかったが、土魔法と、水魔法を組み合わせた泥と沼の複合魔法という結論をともに見つけ出した。
水魔法の修練は、同じく天使に対応できなかったドルフィンも参加。
その過程で2人は親交を深めていった。
結果としてドルフィンは水魔法の柔軟さと氷魔法を実戦レベルまで習得。
バイソンも、大幅にレベルアップした。
旧式魔法はイーグルの指導方針として、旧式を学んだうえで最新の方式を学ぶべきというものがあった。
事実、ダンとの戦闘で見せた罠の設置に生かされることとなった。
オルカは上空で起こっている巨大な爆発を眺める。
咥えたタバコは灰が垂れ、彼女と戦っていた幻想のドラは倒れ伏している。
「まだやるか?坊や。」
オルカはドラに視線を戻す。
激痛をこらえながら、ドラは何とか立ち上がる。
「まだ…終わってない…です…」
「んまあ決めるのはアタシじゃない。ただ、お前がなんか隠してんのが気になってるだけだ。」
オルカの言葉にドラは笑う。
隠し玉がある。
それは、正解だ。
だが、気乗りはしない。
いや、そんなことを気にしている場合ではない。
左の胸に手を置く。
心臓の鼓動が強く『変わる』。
ほう。オルカはドラの変化に驚く。
ドラの姿は大きく変化する。
背中に大きな羽。
嘴。
人ではない。
その姿は人と鷲の中間。
「鳥人、しかも鷲人って奴か。確かに幻想ってのは間違いじゃなさそうだね。」
獣人の中でもとりわけ少ないと言われる鷲人。
その希少性から絶滅したとも、存在そのものが架空だとも言われている。
ドラはその鷲人の混血だ。
「では本気で行きます。」
「おうよ。」
ドラの姿が消える。
オルカは気配さえ見失う。
殺気も感じられない。
風を切る鋭い飛行音だけが頼りだ。
オルカは手に光魔法の大槌を展開する。
一撃で決める。
否応なく手に力が入る。
音が大きく、近くなる。
そして、音が緩んだ。
オルカは自分の右側へ、大槌を振り下ろす。
「捕らえ」
オルカは言葉を止めた。
残像だ。
背後から衝撃が来る。
踏ん張り前のめりになったところに斬撃。
反射的に展開した壁がそれを阻む。
だが、ほぼ同時に左の頬に衝撃。
蹴られたのか、殴られたのかも判別できない。
右の脇腹への衝撃。
肋骨が軋む。
オルカは顔を歪めながら飛ばされる。
彼女の体はそのまま建物の壁に飲まれるように沈んでいった。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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