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1話 再会を果たしたければ 5章 40

 ぎゅっと目を瞑っても、閃光はまぶたを越えて目を激しく照らした。

 目を開けるが、ちかちかとしてぼやけた天井しか見えない。何度か瞬きをして、ようやく視界が安定してきた。

 上体を起こすと、床に倒れ伏している少女が見えた。ぴくりとも動かないが、死んだのだろうか。

 家に帰ってみると見知らぬ少女がいて、ベッドの下に隠しておいたノエルの剣を持っていた。一瞬地下室の誰かが逃げ出したのかと思ったが、すぐにそんなわけがないと判断した。

 なんなのかというのがまったくわからないまま、戦闘することになった。対人戦の経験に乏しいエンリケだが、訓練はしている。とはいえ自信を持てるほどの実力はないと自負してはいるが。


「なんとかなった、か……」


 もうじき逃げ出そうとしているのに、どうもそっとしておいてはくれないらしい。

 エンリケの真横に、先ほど使ったギフトタグが転がっている。しゅう、と赤くなりながら蒸気を上げているそれを一瞥して、立ち上がった。

 最初に地下室に入れた女のギフトタグだ。効果は単純な爆発。範囲が劇的に狭いことを除けば殺傷力の高いギフトタグだ。使わずに制することができればよかったが、結果として勝てたのだからいいだろう。

 範囲が狭いといっても、あの状態ではエンリケも巻き添えを食らう。そのために残しておいた防御用のギフトタグにあった最後の一回を使うことで防いだ

 そう、このギフトタグは爆発による衝撃と、同時に発生する熱で相手を焼く二重の攻撃を行う。

 通常の身体強化は単純に身体を頑丈にするもので、衝撃には強くなる。が、それだけでは刃物で切り付けたりエンリケが行ったような爆発による損傷は防げない。

 冒険者としての経験を重ねるとそれぞれの塩梅をもって対処できるようになってくるものだが、相手の力量はエンリケに近く――まあ難しいだろうと踏んだ。

 エンリケはそういったものに簡単に対処できるようになるギフトタグがやはり素晴らしいと思うが。

 咄嗟に防御ができたとしても、顔などは焼け崩れたかもしれないなと思うと、確認するのを躊躇う。

 死んでいれば処理しなければいけない。生きていても処理しなければいけないが……いや、どうせ逃亡するのだから放置してもいいか。

 そんな風に考えているエンリケの視界で、少女の指がぴくりと動いた。

 見間違いかと目を凝らす。今度はしっかりと少女の指が動いて、床を押した。

 少女が無事な顔を上げて、獰猛にエンリケを睨んだ。


☆☆☆


(死、ぬかと思った……っ)


 床に倒れ伏した琴倫は、内心で怨嗟の声を上げた。

 エンリケが投げたボールが光った瞬間、琴倫は身体強化をすべて防御に回した。爆発で吹き飛ばされ、追加の衝撃を味わい、壁に激突したが意識を手放さずにいられた。

 爆弾、のようなギフトタグだったのだろう。横たわった状態のまま、胸の下になっている琴倫のギフトタグが肌に食い込むのを感じる。

 琴倫のギフトタグは防御型で、受けるダメージをすべて打撃に転換する、というものだ。発動することで、たとえ斬られても焼かれても打撃を受けたのと同じダメージに差し変わる。

 効果を知ったときはだからなんだと思ったものだった。生産権として転換するダメージはいくらか減るのだが、追加で衝撃が来る形で転換されるため気色が悪いというのが本音だった。

 ノエルは『いいギフトタグだよ』と言ってくれた(他のメンバーも何か言っていたとは思うが覚えていない)。


『琴倫のギフトタグがあれば、防御に回す身体強化が単純なもので済むからね。生存率はぐっと上がるよ』


 ノエルが褒めてくれてからは、好きなギフトタグだ。現に、爆発に対して身体が焼けることなく済んでいる。

 それでも結構な衝撃だったのは事実だ。横たわったまま、身体の損傷具合を確認する。かなり痛むが、骨は折れていない……はず。

 耳に聞こえるのは蒸気の音だ。うるさい、とイライラしているうちに動けると確信した。

 床を掻いて、立ち上がるためのとっかかりを探す。ぐっと床を手で押して、どうにか顔を上げた。

 立ち上がっていたエンリケは、驚いたように琴倫を見下ろしていた。どうして生きているのかと、そう言っているかのようだった。


「ぶっ、殺してやる……」


 うめきながらよろよろと立ち上がる。威勢の良い言葉を吐きながらも、身体に入る力が弱弱しいのもわかっていた。

 エンリケもそれを見抜いたのか、急に余裕を取り戻したようだった。


「寝ていれば悪いようにしないよ。もうこんなところに用はないからね」

「……? わたしにはある。ノエルの、剣……どうやって盗んだの」


 部屋のどこかに転がっているはずの剣を目で探す。すぐに諦めて、エンリケに視線を戻してまなじりを深める。

 エンリケは思案気に顎を撫でて、なんてことないようにつぶやいた。


「盗んだわけじゃない。預かったようなものだ、本人からではないけどね」

「なに、言って……」


 まだ呼吸は整わない。話が続くのならいっそ好都合かもしれない。

 そんなことを考えていた琴倫の耳に、エンリケの言葉が無造作に届いた。


「ノエルは死んだそうだ。いわば遺品だな。ノエルからとったわけでもないから、盗んだと言われるのは心外だが……」

「は?」


 信じられない言葉に、脳が一瞬止まったように感じた。

 理性ではなく、感情でエンリケの言葉を否定する。


「嘘、ノエルが死ぬわけない」

「人は死ぬよ。ノエルだけが例外なわけじゃないだろ」

「死ぬわけない! でたらめ言わないで!」

「……信じるかは君の勝手だが」

「黙って!」


 これ以上喋らせていられない。床を蹴って、エンリケに突貫する。

 右拳を振りかぶった琴倫の顔面に、エンリケのカウンターの拳がぶつかった。

 構わずに前進し、押し倒すようにして拳を振り切る。エンリケの身体を押すように当たっただけだったが、勢いもあってもつれるように二人とも床に倒れこんだ。

 さきほどのように馬乗りになったわけでもなく、ただエンリケの上に身体が乗っかっているだけという状態だ。エンリケは琴倫をどかそうとぐっと押してきて、琴倫は抵抗してエンリケの顔面に手を伸ばす。

 床を転がっているうちに、背中がベッドに当たって止まった。そこを支えにして、エンリケの腹に思い切り足を突きだす。

 ごっ、とうめく声とともにエンリケが軽く吹き飛び、ドアにぶつかる。今だ、と立ち上がりながら駆け出し、もう一度蹴りを叩き込む。

 そのままがむしゃらに蹴りを続けると、足を掴まれて倒された。とっさに床に手だけはついたが、全身に来る衝撃に息が詰まった。

 よろよろと立ち上がるのは琴倫だけではなかった。エンリケも同じようにふらついている。その表情は怒りに染まっているが、知ったことではない。

 頭はふらつくが、痛みは感じない。ノエルが死んだなどというたわごとを言うやつをこれ以上喋らせてなんていられない。すぐに黙らせて、本当のことを吐かせてやる。 

 と、部屋のドアが勢いよく開いた。


「なにやってんだ……?」


 入ってきたのは若い男だった。困惑のまま、エンリケと琴倫を交互に見ている。


「コーエン、やれ!」


 エンリケの言葉に、向こうの仲間だと悟り咄嗟に窓に駆け出す。二対一はいくらなんでも無理だ。逃げるしかない。

 ほんの数歩の距離の間、ノエルの剣が転がっている。そんな場合ではないと思いながら、身体が勝手に動いて低い姿勢で剣を拾った。

 ちらりとエンリケたちのほうを見ると、入ってきた男――コーエン? が棒のようなものを突きだしていた。


(あれは……っ)


 心当たりに内心で驚愕する。

 瞬間、横合いからの衝撃を浴びて床を転がる。すぐに起き上がった琴倫の視界に、またも予想外の状況が飛び込んできた。

 エンリケの上着がぶわりと浮き上がり、ポケットからばらばらと何かが落ちていく。

 ギフトタグだ。あれもノエルが所持していた、「相手の武器あるいはギフトタグを強制的に外す」という能力のものだ。琴倫は自分のギフトタグによって打撃に変換されたが、エンリケは食らってしまったようだ。

 しかしなぜエンリケを? 味方ではないのだろうか。

 エンリケは驚き、コーエンを睨みつけた。明らかな不満は、エンリケにとっても意外なことが起こっていると知れる。

 何かを言おうとしたエンリケに、コーエンは行動で示した。

 反対側の手を突きだすと、そこから電撃が飛び出しエンリケを打ち据えた。エンリケはびくびくと痙攣し、床に倒れ伏した。


「な、にを……」


 うめくエンリケに、再度の電撃が撃ち込まれる。

 しん、となったのもつかの間、コーエンの笑い声が部屋に響く。


「はは、これでこのギルドは俺のものだ!」

「…………」


 仲間割れ、だろうか。

 状況はまったくわからないが、このままぼーっとしているわけにはいかない。どうにかして、まずは逃げ出さないと……

 コーエンがさっと、琴倫に手を突きだした。


「で、お前はなに?」

「……っ!」


 痛む身体を叱咤して、判断を実行する。

 逃げるより、こいつを倒してしまえばそれでいい。

 床を蹴って、コーエンを倒すべく距離を詰めた。


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