1話 再会を果たしたければ 5章 38
ショートカミングは、リーダーのエンリケを含めて4名のメンバーで成り立っている。
ギルドの人数としては小規模だが、そんなものと言えばそんなものではある。琴倫が所属するリヴァイブはそれよりは多いが。
冒険者登録をしているのは2名。ということは残り2人は事務員といったところだろう。冒険者ギルドでは一般的なかたちだ。稼ぐ担当の冒険者と、それ以外を担当する事務員。
リヴァイブにも事務員が数人いる。冒険者を気兼ねなくやれているのは事務員がこまごまとした仕事をやってくれているからだ。リヴァイブでは方針として一応の作業はできるように指導され、琴倫もギルドに入った時は事務作業漬けになっていた。おかげで今でも一通りのことはできるが、当時は嫌で嫌で仕方なかった。
事務が嫌いとまでは言わないが、ノエルと一緒にいられなくなるのが嫌だったのだ。
今もそうだ。しばらくノエルと会えていないストレスが琴倫を蝕んでいる。
琴倫はノエルが好きだ。周囲からは崇拝しているレベルだとからかわれることもあるが、自分でもあまり間違っていない表現だと思う。
この異世界の中で、ノエルが琴倫の指針だ。ノエルがいるから頑張れるし、生きていこうと思える。ノエルと一緒にいたいから迷わずに冒険者になることを選択したし、隣に並べるように努力を続けている。
琴倫が転生して、見つけた神様がノエルだ。彼女のすべてが琴倫を魅了して、憧れた。
ノエルの悪癖(と琴倫は思っている)として、すぐに転生者を拾ってくるというものがある。リヴァイブは転生者限定のギルドなので新人を増やすにはそうするしかないが、拾ってくるとノエルが面倒を見るため琴倫がノエルといられる時間も減ってしまう。ノエルと一緒に新人育成しようとしたこともあるが、リーダーに止められてしまった。
だからというか、琴倫はリヴァイブの新人に良い印象を持っていない。ノエルも新人も悪くないのはわかっているのだが、ノエルをとってしまう存在として認識してしまうのだ。同じように由流華も、会ったこともないのに嫌な人ぐらいに思っている。
本音を言えば由流華のピアスなんてどうでもいい。ノエルと一緒にいたのに盗まれでもしたのなら、本人のミスだ。知ったことではない。
けれどもし仮に、エンリケが由流華のピアスを盗んだとしたら、ノエルはそれを防げなかったと気にしているかもしれない。
ここで琴倫が取り返してみせれば、ノエルはきっと琴倫を評価してくれるだろう。ダイアナを手伝うと言った時は暇つぶしぐらいの気持ちだったが、こう考えると琴倫にもメリットのある行動になってくる。
ダイアナにはエンリケに手を出すのはやめるように忠告された。ごくごく当たり前のこととして、証拠を得られなかったら琴倫が他ギルドの人間を襲っただけの話になってしまう。そうなると琴倫が逮捕されるだけではなくギルドに迷惑がかかってしまう。ノエルも良い気持ちはしないだろう。
でも、ノエルに褒められるチャンスかもしれないと思うと放っておくこともできない。
ダイアナには適当に返事をして、ショートカミングのギルドハウスを監視していた。数時間が経ったが、何かが起こる様子はない。
すでに夜も深くなってきている。眠気を感じる頭を適当に叩いて、何か起こらないかと注視しなおす。
外から眺めていたって意味がないかもしれない。
要は、エンリケが盗んだという証拠があればいい。証拠は、由流華のピアスが見つかればそれで済む。
ギルドハウスに入って、現物を見つけることができれば……
「……こっそり入って、探して、出る」
ぽつりとつぶやきながら、脳内でシミュレーションする。
言うまでもなく不法侵入だが、向こうが犯罪者だとわかればどうにでもなるだろう。絶域を攻略した経験は幾度もあるが、ギルドハウスに侵入なんてさすがにしたことがないので不安にはなってしまう。
やったことがないことを、正確にシミュレーションできるわけがない。要は、やってみるしかないということだ。
それなら、と注視する先を少し変える。真っすぐに入っていけばすぐに見つかってしまう。なんとか、こっそり侵入できるところがあれば……
「あ」
いきなりギルドハウスの玄関が開いた。急ぎ足ですたすたと歩き去っていったのは、
「エンリケ……だ」
転生者施設ですれ違った人物だ、たぶん。
もうすっかり夜なのに、やけに慌てているように見えた。なにかトラブルでもあったのだろうか。
どうにも怪しい気がするけど、エンリケを追いかけるべきだろうか。
少し迷っている間に、エンリケの姿がすぐに見えなくなってしまった。今から追いかけても、見つかるかどうかもわからない。
失敗したかな、と後悔している琴倫の視界で、またギルドハウスの扉が開く。
今度は女性だった。さっと周囲を見回し、琴倫がいるところも視線を向けてきた。びくっとしたが怪しまれないように完全に身体を隠す。
そーっと覗くと、女性はエンリケが歩いて行った方向を走っていくのが見えた。琴倫の存在を気にしたわけではなさそうで、そっと胸をなでおろす。
よくわからないが、これはチャンスではないだろうか。4名のギルドメンバーのうち2名が外に出て行った。
こっそり入って見て、人がいるようなら逃げる。
(大丈夫、それぐらいできる……)
自分に言い聞かせるようにして、ショートカミングのギルドハウスに近づいていく。
扉に手をかける前にエンリケたちが戻ってきていないかを確認して、ゆっくりと扉を開ける。
隙間に頭を入れて中を覗く。共有スペースと思しきシンプルな空間に、人影はない。
よし、と完全にギルドハウスに入る。心臓がドキドキするのを感じながら、後ろ手にドアを閉めた。
足音を消しながら進む。正面方向、奥に見える扉には「キッチン」と記されていた。
左にあった階段を昇る前に、立ち止まって耳を澄ませる。人の気配は感じない。うまいこと無人の可能性も出てきた。
そっと階段を昇っていく。ざっと見たところ一階は共有スペースだったので、個人の部屋は二階にあるだろうと推測した。
二階に上り、最初に見える部屋に、よし、と無言でうなずく。「ヤヨイ」というネームプレートがかかっていた。入らなくてもエンリケの部屋はわかるだろう。
一つずつ確認していく。一番奥の部屋がエンリケの部屋だった。念のため扉に耳につけて、人がいないかどうかを確かめる。これで確実にわかるというわけでもないが、一応の確認にはなる。
緊張を感じながら扉を開ける。なんだかだんだん楽しくすら思えてきた。こういうのが向いているかもしれない。
エンリケの部屋は一階の共有スペースと同じくシンプルなものだった。棚には何かを飾るためと思える台のようなものがあったが、今は何も置かれていなかった。
由流華のピアスがあるならどこかに仕舞っているかと考えて棚を適当に開けてみる。が、目当てのものは見つからない。あとは――
と、足音が聞こえた。
ぴたりと動きを止める。気のせいではない。確かな足音が、近づいてきている。
(まずっ……!)
ぶわっと汗が噴き出た。エンリケが戻ってきたのかもしれない。
どこか身を隠すか、それとも窓から脱出するか。隠れるといってもそんな都合の良い場所なんてない。強いていえばベッドの下か。
ギルドハウスから出てしまえば、同じようなチャンスが巡ってくるとは限らない。しかしベッドの下に潜めたとして、そこからどうする?
考えている間にも足音が近づいてくる。ゆっくり考え事をしているような余裕はもうなかった。
ベッドの下に入ろうとして、覗きこむ。隙間はあるが、物が入っていたら琴倫が入り込むことができない。
覗き込んだ姿勢で、琴倫は衝撃に固まった。
そこには一つだけ、物が無造作に置かれていた。見間違えるわけがない、ひどく馴染みのある物が転がっていた。
掴んでベッドの下から出す。同じタイミングで、部屋のドアが開いた。
「誰だ!?」
誰何の声に振り返る。転生者施設で見たエンリケだ。
エンリケは琴倫の顔と、手に持っているものを見て顔をしかめた。
「……これ、ノエルの剣」
エンリケのベッドの下に転がっていたのは、ノエルが持っていた剣だ。冒険に出る時は欠かすことなく手にしていた剣が、こんなところにあるわけがない。
どういうこと、と正面のエンリケを睨みつける。
エンリケは舌打ちして、部屋に入って扉を閉めた。
「不法侵入だ。おとなしくしてもらおうか」
「そっちは泥棒だよね。捕まえてやる」
敵意を交わして、互いに一歩を踏み出した。




