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1話 再会を果たしたければ 5章 35

 琴倫はダイアナとエンリケを訝しそうに見つめて、小さく疑問した。


「邪魔なら、帰りますけど……?」

「ううん、なんでもないから」


 大きな声で答える。琴倫ははぁ、と気のない返事とともに施設に入ってきた。

 エンリケは気の抜けた表情で琴倫を見ていた。不意にダイアナに向き直ると、静かに笑みを見せる。


「また来ます。その時はゆっくり話しましょう」


 ダイアナだけに聞こえるように囁いて、エンリケは施設を出ていった。

 ドアが閉められると、力が抜けて崩れ落ちた。実際に何をされたというわけでもないが、気疲れのようなものだ。


「なんですかあいつ。転生者じゃないですよね」


 カウンターからダイアナを見下ろす形で琴倫が言ってくる。見上げて目を合わせるとすっとカウンターを乗り越えて助け起こしてくれた。

 琴倫はエンリケが去ったドアを見て、嫌そうにうめいた。


「なんかキモかったですね」

「そう……?」

「はい、なんか私の胸をじっと見てました」

「え?」


 つい疑問の声が漏れる。こう言ってはなんだが、琴倫の胸は慎ましいものだ。そもそも17だったはずの琴倫の胸をじっと見るようなタイプだろうか。いや、ショートカミングにいる弥生も同じような年齢のはずだ。もしかすると、エンリケの趣味なのかもしれない。

 琴倫は細めた目をダイアナに向けて、


「私の胸なんか見ないと思ってませんか?」

「……そんなことないけど」

「口説かれてたんですか?」

「え?」

「あいつ、ダイアナさんを口説いてたとか?」


 唐突に変わった話題に少し戸惑いながらも、明確に首を振る。


「違うよ。ちょっと転生者絡みでね。それより、コトリこそどうしたの?」

「はい、リーダーが帰ってくる日取りがわかったので一応伝えに来ました。明後日だそうです」

「明後日……」


 日取りがわかったのはいいが、微妙な日だった。

 エンリケの様子にはなんらかの強引な手段に出かねない雰囲気があった。今だって琴倫が来なければどうなっていたかわからない。

 もはやシンを待っていられる状況ではないのかもしれない。


「なんか揉めてるんですか?」

「そこまではいってないけど……」

「手を貸しましょうか?」

「コトリが?」


 つい聞き返すと、琴倫は不機嫌そうに唇を尖らせた。


「私じゃ力不足とか言いますか?」

「そんなことない、けど」

「リーダーに用があるのもそこら辺の話じゃないんですか? ダイアナさんには転生したての時にお世話になりましたし力になりますよ」

「コトリ……」


 意外さに胸を打たれる。施設に来たばかりの琴倫はふさぎこんで泣いているばかりだったし、リヴァイブに引き取られてからはノエルにくっついてばかりの依存のような状態だったとも聞いている。冒険者としての才能は十分とも聞いてはいたが、依頼をしていないのに力になるとまで言ってくれるとは思っていなかった。

 こんなことを言われると施設で働いててよかったと実感してしまう。が、今は浸っている場合でもない。

 とはいえ、琴倫がノエルのことを知ったらどう反応するかはわからない。安易に手を借りていいものかどうか……


「どうせノエルが帰ってくるまでは暇ですし」

「……ノエルから連絡は?」

「まだです……早く帰ってきて欲しいんだけど」


 後半の台詞はぼそっとしたものだったが、耳には届いた。


「いつまで由流華とかいう子の面倒見てるんでしょうね。まったくもう……」

「……今来てたやつさ、エンリケっていうんだけど、ユルカがつけてた耳飾り持ってたんだ」

「はい?」


 琴倫が大きく首をかしげる。

 胸によぎる迷いを握りつぶして、続ける。


「ユルカは友達の形見の耳飾りをつけてたんだけど、それをエンリケがつけてるの見たんだよ」

「由流華から盗んだってことですか? てか、そんなのつけてました?」

「今はしてない。一度それで詰め寄ったから警戒されたのかも」

「不用心なことしますね」


 耳が痛いことを言われて、苦みが顔に出る。今思えば本当にその通りだ。


「見間違いじゃないんですか? それとも同じものとか」

「見間違いはない。同じものなのかは……わかんないけど、違うと思う」

「どうしてです?」

「勘」

「勘って……」


 やや呆れたような琴倫に、慌てて話を付け足す。


「エンリケのギルドには転生者が一人いるんだけど」

「はい」

「ユルカのことと耳飾りについて話したらすごく動揺してたんだよね。だから怪しいかなって思ってる」


 ダイアナの返答に、琴倫は不思議そうに目をぱちくりとさせた。


「それなら黒じゃないですか? ……でも、なんか変」

「なにが?」

「どんな耳飾りですか、それ」

「あ、えっとね……」


 話題の転換に面食らいながらも形状を説明すると、琴倫はふむ、と顎に手を当てた。


「男の人がつけるかは微妙なデザインかも……そんなこともないのかな。んー、ってことはさっきはこれ見てたのかな」


 琴倫は自身のネックレスを手に取った。全体は黒く、胸元のところに丸い装飾があるだけのシンプルなものだ。


「コトリのギフトタグ?」

「胸じゃなくて、こっちを見てたのかなって。アクセサリーオタク的な? まあ、盗んだアクセサリーをつけて歩くって相当アホな気もしますけど。売るならわかりますが。あとはギフトタグか」

「由流華の友達が元の世界から持ち込んだものだからそれはないみたい」

「そうですか……」


 琴倫はネックレスをいじくりながら考え込んでいるようだった。

 たっぷり1分ほど経ってから琴倫はうーんとうなって、


「ノエルと由流華が戻ってくれば話が早いんですけど」

「そうなんだけどね……」

「もっと話を早くするなら、エンリケをぶっ飛ばしちゃえばいいんですけどね」

「は?」

「それで吐かせれば全部済みませんか?」


 ごくごく当たり前のように言う琴倫に、ダイアナは「えっと……」と頬を引きつらせることしかできなかった。


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