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1話 再会を果たしたければ 5章 31

 弥生にとって家族とは、同じ家に住んでいる人間のことだ。弥生は一人っ子なので、これまでは両親のことになる。

 両親は弥生のことをよく可愛がっていた。一人っ子だからなのか余分に甘やかされている実感はあったが、弥生はそれを一人娘の特権として受け入れた。

 成長につれて両親が自分に求めているものもなんとなくわかるようになってきた。いわゆる『愛らしい子供』のようなことをすると両親はよく喜んだので、弥生は積極的にそういったふるまいを重ねてきた。

 成長するにつれて、さまざまなことができるようになる。振り返ればただそれだけのことだったのだろうが、弥生はそれを自分が愛らしい子供だからだと信じた。

 一人でのおつかいを任される。

 寝る時間を少し遅くしてもいい。

 欲しいものを買ってもらえる。

 他愛もないことに、弥生はいつも達成感を覚えていた。クラスの他の子供より先んじていればより最高の気持ちになれた。

 望んだ振る舞いをすることは弥生にとって自然なことになっていて、あまり苦でもなくなっていた。唯一失敗だと思ったことは、両親には素を出すと不思議がられるようになったことだ。両親の中では弥生は既にこういう子供だというイメージができあがってしまっていた。自然とそういうふるまいをできるようになっても、時折窮屈に感じることはあった。

 それ以来、仲間内ではそうしたふるまいを少し抑えるようにした。自分が窮屈に感じない程度に我を出し、なるべく良い位置を手に入れていく。

 家族といると少し窮屈だが、望んだ振る舞いと引き換えに望んだものを与えてくれる。

 弥生にとって家族とはそういう存在だ。そういう意味ではショートカミングのギルドもこれに近いものがある。元の家族ほどではなくてもエンリケの望んだ振る舞いをして彼女として甘やかされ、リンダともうまくやっていこうとしている。

 言葉にすると当たり前のことだ。相手によって対応を変えて、過ごしやすい環境を手にしていく。意識の大小はあっても、誰だってやっていることだと弥生は思っている。

 トップに立ちたいなんて思わない。そんなものは面倒なだけだ。あくまで家族の庇護対象になって過ごしやすくすることが良い。不都合があれば変えさせるようにすればいいのだから。

 家族とは、お互いに得たいものを与え合うものだ。

 だからダイアナの話は飲み込めた。

 家族が必要なのは、誰だってそうだろう。転生してきた弥生のような人間にとって大きなハードルになるのも、なんとなく実感している。

 運がよかった、と思う。エンリケが言い逃れのしようのない犯罪に手を染めているというのは大きな不安要素だが、弥生の異世界での生活は出だしは好調といえたはずだ。


「転生者はほとんど全員どこかのギルドに入ります。そこでうまくやれているかはその人次第で、居心地の悪さを抱えている人も少なくありません」


 ダイアナの言葉に適当に耳を傾ける。


「まあ、転生者に限らずにギルドでうまくやっていけない人は珍しくないですけど。転生者はトーイロスのことを知らないせいなのか、ギルドになんとかしてしがみつく傾向もあります。別にギルドを出たって生きる方法はいくらでもありますが、転生者にそう言うのは酷でしょうね」

「そうですね」


 気のない相槌が漏れる。

 もし弥生がショートカミングを追い出されるようなことがあればたちまち途方に暮れてしまうだろう。だからこそそんな事態にならないように居心地をよくしようとしているのだが。


「ギルドによって転生者の扱いは様々です。私はなるべく理解のあるギルドを紹介するようにしていますが、うまくいけなくて苦労している転生者を多く見てきました。ギルドにあたるものがそちらの世界にはないと聞いているのでそのせいかもしれません」

「……どうでしょうね」


 やはり力のない相槌になってしまう。

 家族というほど大げさなものではなく、弥生はギルドを住み込みの職場ぐらいの意識でとらえている。働いたことはないしそういう経験はないが、寮生活はこういうものではないかとは思っている。ギルドという単語を弥生は知らなかったが、日本に似たようなものはいくらでもありそうな気がする。

 そこを遮っても意味はないので、視線でダイアナに先を促す。


「これを説明するのはいつも難しいのですが……ギルドは血のつながらない家族のようなものです。対等な関係を築いているギルドもありますが、一人が支配しているようなギルドもあります。あんまりひどいとすぐに抜けられるので程度はありますが、ある程度は許容される傾向にあると私は思っています」

(ある程度……)


 口の中で繰り返す。

 ショートカミングは、対等な関係を築いているかは微妙なところな気がする。リーダーのエンリケがすべてを回しているのは間違いないが支配しているというほどでもない。エンリケはもう一人の冒険者には頭が上がらないようにも見えるし、リンダを従えられているかというと違う気がする。

 ダイアナはギルドを家族というが、ショートカミングにはもっとぴったりな言葉がある。

 共犯者だ。

 転生者の監禁を知りながら、通報することなく加担している。リンダは最近はよくそれについての文句を言うが、やめようなどとは言わない。

 リンダがどういう気持ちで加担しているのかは弥生にはわからない。弥生はただ、ショートカミングという居場所を悪くないと思っている。

 リーダーの恋人には実際の実権なんてものはない。それでも二人でいるときはエンリケは優しくて居心地も良い。そういう意味ではあたりを引いたと思っている。

 気にしてしまうのは、やっぱり地下室で監禁している少女たちのことだ。

 ダイアナが由流華を探していると知ってからは、余計に不安が大きくなっている。

 そうだ、と忘れかけていたことを思い出した。ここに来たのは、ダイアナが由流華を諦めるようにしたいからだった。


「あの……ギルドの話はわかりましたが、それが由流華って人と何か関係あるんですか?」


 口を挟むととダイアナはわずかに顔をしかめて黙ってしまった。何かを探すように視線を宙にやって、軽く頭を振った。


「すいません、少し熱が入ってしまって……そうですね、ユルカに居場所が見つかればいいってだけの話です」

「……そんなに気にすることですか」


 何を言えばいいのかを考える。エンリケのように頭は回らないし、リンダのような勢いの強さもない。弥生の処世術は、大体相手の望みに合わせることだ。そこから交換条件のように弥生がやりやすいようにしていくのが常だ。

 ダイアナは由流華を探している。その望みはかなえられない。

 けれどこのままにしておくわけにはいかない。


「ここを出たのなら本人がどうにかしていくべきですし、由流華……さん? もそのつもりなはずです。そのあとでどうなっても本人の責任じゃないですか?」

「それは……そうですね」

「ほかの街に移っただけかもしれませんし」

「おそらくそれはないですね」

「どうしてですか?」

「……ノエルのことがありますから」


 ノエル? と聞き返しそうになり、どうにか思い出した。

 ノエルは由流華と一緒に行動していたはずだ。弥生はエンリケの指示でショートカミングのメンバーの振りをして由流華と接していた。

 頭がかすかに疼く。忘れていたはずの由流華の表情がいきなり思い出された。顔すらぼんやりとしか浮かばなかったはずなのに。

 由流華はとても傷ついた顔をしていた。あそこまで悲痛な表情は今まで見たこともない。

 それを見て、弥生は確かにこう思った。

 こっち側で良かった。

 転生された先で居場所も掴めずに辛い思いをするなんて絶対に嫌だ。

 帰れないのだから、できるだけここで良い生活を送らないと……


(……あれ?)


 思考に違和感を覚えて、眉をしかめる。


「ノエル……」

「はい、由流華と同行していた冒険者です」

「そうじゃない」


 ダイアナの言葉を否定する。ダイアナが何を言っていたのかは聞いていなかった。弥生の頭の中はそれどころではないと混乱していた。

 次の言葉は、ほとんど無意識に零れ落ちた。


「ノエルは……どうして死んだんだっけ」


 自分が発した言葉の意味は、ダイアナの信じられないものを見た表情を見てもまだ理解できなかった。


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