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1話 再会を果たしたければ 5章 10

「あ、見て見て!」


 歓声に目を向けると、由流華は目を見開いて驚いた。

 小春の顔の高さのところに、ほんの一粒の水が浮いている。

 小春は力み切った表情で両手をかざしていたが、やがて水がぽちょんとコップに落ちると一気に脱力させた。


「難しいよー」

「いや、十分すごいよ……」


 いっそ呆れるような心地でうめく。本当にできたのだろうかと、訝しい気持ちすら抱いてしまう。

 魔法の練習を始めて二時間ほど、小春が属性魔法を発動できるようになっていた。


「は? どうやったんだよ」

「んってやってぐいーんと持ち上げる感じ?」

「そんなんでわかるかよ……」


 頭を振る幸恵が、細めた目を由流華に向ける。

 ぐっと握った拳を解き、ぷらぷらと振ってため息交じりにつぶやく。


「全然できる気がしないんだけど、やり方あってるか?」

「あたしの時はそうやったんだけど……」


 答えながらも、ノエルとの訓練の内容を必死に思い出す。

 魔法を教えるにあたり気にしたのは見張りの男のことだったが、実際にこちらを目視で見張っている様子もないのでそのまま進めることにした。寝室を使えば確実に見られないが、二人はなぜだかあまり気が進まないようだった。

 まずは身体強化を教えようと思い(まずはというか由流華がそれしかできないのだが)進めようとしたところ、小春は属性魔法の方に興味を示した。

 由流華は使えないと言ったのだが、やり方もわからないのとねだるように言われてしまい折れた。いや、でも、と渋る由流華に業を煮やした幸恵がいいだろ両方やればと圧をかけてきたのも原因だが。

 幸恵は身体強化、小春は属性魔法ということで練習を始めた。小春には水を入れたコップを渡して、水を持ち上げてみるように言った。

 二人にはノエルに言われたままの発動のコツを伝えた。うんうんうなりながら発動させようとする二人を見ている以外のことはできることもなく、由流華も自分の練習を行うことにした。

 身体強化は、筋トレと同じようなものだとノエルは言っていた。要は使えば伸びていき、使わなければ衰えていく。

 全体強化から、身体の各所に集中させる。機能や部位ごとの切り替えを繰り返すのが訓練に良いと言われていたのだが、やり方としてこれでいいのかという不安はあった。実際にしてきた訓練はノエルとの鬼ごっこなどの実戦形式のものだったからだ。

 ギフトタグを失ったことで、一からやり直しをしているかのようだった。発動は感じてももともと少ない出力は更に少なくなっていて、心許ないどころではない。

 こんなことをしていても強くなれるのはいつになるかわかったものではない。かといってやらないままというのも落ち着かず、由流華は由流華で続けていた。

 その矢先に、小春が属性魔法を成功させてみせたのだった。

 正直ショックを受けている内心を自覚して、そんなことを思うのが自分でも意外だった。由流華は三日ほど属性魔法の練習をしてついに習得できなかったのだが。

 一方で、幸恵は身体強化の習得に苦戦していた。由流華が発動させた時のことを思い出し色々とアドバイスしてみたものの、すればするほど混乱していくのが見て取れた。むしろ由流華のせいでわかりづらくなっているようだった。

 どうすればいいのだろうかと頭を悩ませていると、


「なにしてるの?」


 不意に声をかけてきたのは――玲香、だった。

 小春はにへらとした微笑みを向けて答える。


「魔法を教えてもらってるんだ」

「魔法? ああ――言ってたやつ」


 玲香は由流華たちを見回して、やがてその視線を由流華に固定した。


「できるんだっけ。どんなの?」

「……どんなのって」

「なにしにきたんだよ」


 幸恵が噛みつくようにつぶやく。

 玲香はそちらをちらりと見て、嘲笑を隠さずに答えた。


「新入りと交友しに来たんだけど。あんたとは話してないよ」

「あ?」

「ちょっとちょっと」


 小春がとりなすように両手を広げて二人の間に入った。


「玲香も魔法やってみる?」

「魔法で何ができるの?」


 玲香の視線は由流華に固定されていた。自分が答えるべきだろうと、ええとと口を開く。


「力を強くしたり、足を早くしたり……」

「ビームとか出せないの?」

「ビームは……ちょっと無理だと思う」

「ふうん、地味なもんだね」

「あ、でも、見てよ」


 小春がそう言って、属性魔法を発動させる。必死にコップを凝視して、小さな水の粒を浮かべる。

 ふわふわ浮かぶそれを玲香はきょとんと指さした。


「魔法って、これ?」

「うん」


 属性魔法を解いて疲れたように頷く小春に、玲香は腹を抱えてうずくまった。


「これが、魔法……あははは、ちょっと待って笑い殺す気?」

「うるせえな、茶々入れに来たんなら黙っとけよ」


 幸恵の文句は完全に無視して、玲香は由流華に笑いかけた。


「異世界って面白いね。こんなこと真面目にやってるの?」

「……練習すれば、もっと色々できるようになるよ」


 さすがに面白くないものを感じて言い返す。

 玲香は興味なさそうに手をひらひらと振った。


「あっそ、じゃあ極めたら教えて」

「いい加減にしろよお前」


 幸恵が立ち上がって玲香に手を伸ばす。玲香はさっと躱して、馬鹿にするような眼差しを幸恵に向ける。

 それで更に沸騰して、幸恵が苛立たしげに吐き捨てた。


「さっさと未那のところにでも行けよ」

「なに、混ざりたいの?」


 玲香の返しに、まずいと思った。よくはわからないが、とにかく幸恵の忍耐が完全に切れたのがわかったからだ。

 手を伸ばして幸恵の腕を掴む。ぎゅっと力を込めると、幸恵が鋭く睨みつけてきた。心が怯みつつも、止まってと願いをこめて必死に腕を掴んで制止する。

 少しずつ、幸恵の表情から険がとれていく。というより、嫌そうに顔をしかめていった。


「痛いって、わかったから」

「あ、ご、ごめん」


 慌ててぱっと手を離す。幸恵は掴まれていた手を擦って疲労のにじむ溜息を吐いた。


「もう、行ってくれよお前」

「はいはい」


 玲香は適当に返事して、寝室に消えていった。

 気まずい沈黙が場を満たしている。由流華は何かを言おうとしても言葉が見つからず、助けを求めるように小春に視線を転じた。

 小春は力ない苦笑を見せて、手つきで幸恵を座らせた。幸恵は握られた腕を軽く振り、素直に従ってその場に座り込む。

 小春は困り切った表情で指と首を同じ角度で傾げて幸恵を示した。


「仲悪いの」

「う、うん……」


 それは見ればなんとなくわかったが。

 幸恵は鼻を鳴らして吐き捨てるように言った。


「いいんだあんなやつほっといて。何かと変に絡んでくるんだよ。由流華も気を付けなよ、私が言うのもなんだけど絡まれてキレたりすんなよ」

「……わかった」


 別に、多少のことでキレる性格でもないので頷いておく。

 空気は少し淀んだような気はしたが、魔法の練習を全員で再開した。


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