表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/66

1話 再会を果たしたければ 5章 1

 マリーの家を出て都市に向かう馬車を探したのだが、夜だったこともありどこに行ったらいいのかがわからなかった。なんとか記憶を辿り村を出た由流華は、仕方なく都市に向かって歩き出した。

 馬車で三日の距離を歩けばどれぐらいかかるのか見当もつかなかったが、ほとんど躊躇いもなく歩くことを選んだ。そのうち馬車が見つかるかもしれないということも考えたが、一刻も止まっていたくなかったのだ。

 剣の重みを身体強化で支える。こうすると重さは大分マシになった。ただ、歩き続けているのですぐに足が痛くなり疲れてくる。

 由流華はノエルから五つのギフトタグと思しきものを回収していた。どれもアクセサリーのようなものでうっかり発動しないように、なるべく触れないようにして鞄にまとめてしまっている。

 何もない道をひたすらに歩き続ける。時折振り返った時に見える村の大きさを見て、やっと前に進んでいることが実感できた。それぐらい周囲には何もない。

 まだ陽が昇る気配もない、真っ暗な夜のままだ。人も獣も、何もない。日本で母の実家に向かう時に、こういう山道があったことを思い出す。

 星明りだけを頼りに歩きながら、今日の出来事が脳裏をよぎる。

 目の前で首を切ったノエルが、まぶたに焼き付いていた。あの瞬間、ノエルは確かに笑っていた。口の端のわずかな微笑みだったが、確かに喜びに染まっていた。

 ぎりっと、歯噛みする。ノエルのことは好きになっていて頼りにもしていた。それなのに、あんなふうにピアスを奪い事に及んだことに激しく心がかき乱されていた。

 日本に帰りたがっているとはノエル本人も言っていた。ノエルとの会話ではそれなりの頻度で日本の話が出てきたし、今の日本がどうなっているかということは結構訊かれもした。

 全て噓だったのだろうか。

 ノエルの優しさも、由流華に寄り添ってくれたことも、由流華が立ち直ることに協力してくれたことも、全てが偽りだったのだろうか。

 涙がこぼれて、地面に伝った。拭うこともせずに、ただ足を前に進める。

 由流華には、灯以外の友達はいなかった。仲の良い人間ともいうのも、まったく存在しないままだった。

 異世界に転生して、ノエルは仲良くなれたと思っていた。でも、全部このための嘘なのではないのかとも思ってしまう。

 もちろん、そんなことはありえない。道理で考えれば無理があることなど今の由流華にだってわかる。ほとんど妄想だとわかっていても、そうなのではないかという疑いは鎌首をもたげると消え去ってくれない。

 灯が生きている、けれど、ノエルは死んだ。

 灯に会える可能性が生まれたのに、心は千々に乱れている。今はノエルのショックと灯に再会できる可能性が生まれた希望がせめぎ合っている状態だ。

 しかし、ノエルは死んだ。転生のギフトタグといっても、使い方があるに違いない。

 それを知るためにも、都市へ向かわなければいけない。

 ひたすらに歩き続けていると、空が白んできた。何時間歩いたのかはわからないが、夜が明けたのならそれなりに時間は経ったはずだ。

 だが、都市にどれだけ近づいたのかは心許ない。いくらなんでも都市まで徒歩で行くというわけにはいかないので、どこかで馬車に乗るしかないのだが。

 空が完全に明るくなった頃、さすがに休憩することにした。歩き詰めの足は悲鳴を上げていて、ふくらはぎのあたりはぴくぴくと痙攣を始めている。

 適当に座り込むと、腹が音を立ててなった。恥ずかしがる気力もなく、腹を押さえる。気休めにもならず、うつむいて体力の回復を待つ。身体強化を足に入れると、少し楽になった。

 少しして、また歩き出した。休息が十分とは言えなかったが、体力のあるうちに少しでも進んでいきたかった。

 我慢できずに足に身体強化を回すと歩くのは楽になったが、すぐに剣の重みがきつくなってきた。半分ずつで分けるとマシになった気がしたので、それを維持して進んでいく。

 太陽が昇っていき、真上に差し掛かってきていた。空腹と疲れがない交ぜになり、眩暈すら覚える。

 また休憩を取ろうと座れそうな場所を探していると、遠くから音が聞こえてきた。感覚が鈍くなってきた由流華にも何の音か当てがついて、そちらを勢いよく見やる。

 かすかに見えるのは、間違いなく馬車だった。

 思わず笑みがもれた。あの馬車に乗ることができれば、都市へ行くことができる。

 近づいてくる馬車を見つめて、楽観的な気持ちが少しずつ萎んでいくのを感じた。

 あの馬車が乗せてくれるかはわからない。乗れたとしても、都市まで行けるかわからない。それに、代金だって――

 そんなことを考えている間にも、馬車が近づいてくる。どうするか決めかねている由流華は、馬車の前に出たり何らかの合図なども送らずにいた。

 馬車は由流華の横を通り過ぎ――ずに止まった。


「キミ、こんなところで何をしているんだ?」


 幌を開けて、赤髪の男が怪訝そうに由流華に問いかけた。


☆☆☆


「僕はエンリケ・アズファイア。こちらが……」

五十嵐弥生いがらし・やよいです」

「あ、あたしは柳沢由流華です」


 馬車に乗せてもらった由流華は、二人の自己紹介に名乗りを返した。

 赤毛の男――エンリケは由流華をじっと見つめ、行先を訪ねてきた。都市と答えた由流華に、乗るように言ったのだった。

 エンリケは顔立ちも整っていて、温和そうな雰囲気を持っている青年だ。隣に座っている弥生は――名前からして転生者だろう――黒い内巻きのボブに可愛らしい小顔の少女だった。声も可愛らしく、いわゆるアニメ声だ。由流華と同じぐらいか、少し年上ぐらいだろうか。

 大きい馬車だったが、乗客は二人だけだった。その中で二人は寄り添うようにくっついて座っていて、ただの友人という関係ではないことがうかがえる。


「ありがとうございます。乗せていただいて――」

「それはいいんだけど、あんなところで何をしていたんだ?」

「えっと……」


 どこからどう説明したものだろうか。筋道立てて説明する自信が持てず、口を開けずに考え込む。

 エンリケは小さく嘆息して言い足した。


「キミは冒険者か」

「……見習い、みたいなものです」

「見習い、ね」


 エンリケは値踏みするように由流華を眺めている。隣の弥生は薄い微笑を顔に張り付けて同じように由流華を見つめている。馬車に乗せてもらってこんなことを言うのも悪い気がするが――不気味だった。

 エンリケは身を乗り出すようにして、由流華の隣にあるものに鋭い目を注いだ。


「その剣には見覚えがある」

「――っ!」


 いきなりの指摘に、身体がびくりと震えた。

 由流華の動揺を他所に、エンリケは続ける。


「ノエルくんのものだね。それは目立つ。都市の冒険者なら、誰が見ても気づくだろう」

「……これは、確かにノエルのものです」

「どうして、ノエルくんの剣をキミが持っているんだ?」

「それ、は――」


 言いよどむ由流華を、エンリケは鋭い眼差しを突き刺すように向けてくる。

 下手な誤魔化しは逆効果だろうし、何かが思い浮かぶわけでもない。観念して、由流華は口を開いた。


「ノエルは死にました」

「……は?」


 エンリケはぽかんと口を開けて、呆けたような表情を浮かべた。隣の弥生は目を見開いて、信じられないという反応を見せている。

 ちょっと待ってくれ、とエンリケは手を前に突き出した。


「ノエルくんが死んだって? どういうことだ?」

「……言葉通りです」

「それで、キミはなぜノエルくんの剣を?」

「ノエルが死んで……遺品を回収したんです。それを届けるためにノエルのギルドの……」

「リヴァイブ?」


 エンリケの補足に、こくりと頷く。

 エンリケは腕を組み、眉根を寄せて確認してきた。


「キミはノエルくんの関係者か?」

「友達、です。リヴァイブにも誘われていましたが……」

「うん? 所属してはいないのか」

「はい、一か月ぐらい前に転生してノエルのお世話になっていました」

「そうか、なるほど。遺品というのは剣のことか?」

「ノエルが持っていたギフトタグもです。返さなきゃと思って……」


 エンリケは得心が言ったという風に何度か頷いた。

 神妙な顔つきで隣の弥生を押し出すように背中に手を当てた。


「彼女はリヴァイブのメンバーだ」

「え!?」


 驚きの声を上げて、弥生とエンリケを交互に見る。弥生は顔を伏せていて、その表情をうかがいしれない。

 ややあって顔を上げた弥生は、何かを堪えるように唇を引き結んでいた。


「僕は彼女の恋人でリヴァイブとは関係ないが――そういう話なら弥生には説明が必要だろう。なあ?」


 呆然とする由流華を睨むようにした弥生が、小さく頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ