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「なるほどな、分かった。ちょっと見る」
白髭を生やした初老に差し掛かるこの店のマスター。この人もまた魔法使い。
日本では生きにくいだろうにそれでも、日本に居着く魔法使いの為にここに生きている人だ。
結奈は席に着くことなく、カウンターの向こう側、作る方へ入っていき、珈琲を自分で淹れる。
たまにバイトさせてもらっているから、自分の分くらいは作れる。
焦る気持ちで息が荒くなっていたが、珈琲を挽き、香ばしい香りが漂えば少し落ち着いた。
マスターは他国と違い魔法使いを徹底的に差別意識をうえつけた日本の統括会の司令の立場も持ち合わす。
喫茶店のマスターなんて表の顔に過ぎない。
「ただいま戻りました」
お店はCLOSEになっている。
裏口からマスターではない声が聞こえた。
結奈のよく知った声だった。
「凛!」