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ノータイトル  作者: 凛音
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翼人との出会い

時は遡り、12年前

まだ5歳である私は大きな城の姫君であった

そばにはいつもメイドと優しい父上がいた

なに不自由ない暮らしだった

今思えばただ生きているだけで幸せだったあの頃は自分の中で全盛期な気がするほど


ただただ幸福だったのだ

ある晴れた日の朝、いつものようにただれた肌を鏡に写した

袖を通すだけの簡単なワンピースから自分の腕をまくりあげたままで泣いた

そんな生活を繰り返す毎日だった


なんといってもこのような醜いアザはまるで呪いのようで、普通の女の子が羨ましいと思わない日は無かった


嫁にでも行く日は自分のこのアザを見て気味が悪いと言うのだろうか

もう誰も私を貰ってくれる男性はいないつもりで暮らしていた


支度を済ませてなにをしようでもなく渡り廊下を歩いていると、「明良」と不意に優しい声で呼ばれ、勢いよく声の主の元へ駆け寄った

「お父上!どうなされたのですか?」

父上は大きな手で私の頭をゆっくりと撫でた

そして私をひょいと抱えてたかいたかいをした

気が済んだのかしばらくして私をそろりと下ろした


「明良、今日はお前のためにプレゼントを買いに行くんだ 。でも、父上は恥ずかしがり屋だからお前にプレゼントを見られたくないんだ

、、、わかってくれるかな?」

「えー、、、私も言っちゃダメ?、、、お父上」

上目遣いでチラと父上を見る

父上はうーんと大袈裟に考える素振りを見せて、いつもの笑顔に戻った

「いいだろう、ではメイドをつけるから彼女から決して離れてはいけないよ?」

「うぁーい!うわーい!!お父上大好きです!!」

父上に力いっぱい抱きついた

すると父上は気づかないように一言つぶやいた


「少々手荒だが、お前のためならなんでもないよ」

本当に小さくて誰にも聞こえていなかった


ーそうして私は父と知らぬ間に共犯を侵してしまったのだ

後に自分が一生背負い続ける咎になるとも知らずに、、、


そこにはペガサス、小人、話す木々、の他に翼人と言うまるで天使のような風体をした生き物がいた

人のようであるが、人ではない

なんだか不思議な親近感を感じながらも、なんだか神秘的な気がして話しかけるのには勇気がいった


結局、翼人とだけ話さずじまいで「帰りましょう」

とメイドの祭子から言われ、渋々引き返そうとした時だった


何かゴウゴウと音が鳴っているのに気がついた

「私、、、見に行ってくる!」

「あ、いけません!!お嬢様ーーー!!!」

祭子の悲鳴にも似た呼び声を無視して思いっきり地面を蹴った


どうしてそんなに世界の終わりのような奇声を上げるのか?不思議に思ったもののいつものことと思い、それほど考えなかった





ー燃えていた

全てを包み込む血のような赤

「いやぁぁぁ、逃げろ!!!!」

「飛ぶんだ!みんな空へ逃げるぞ!!」

翼人たちが人間たちの手によってはめられたのだ

燃え盛る裏の世界

ピッと頬に何かどろりとしたものが飛び散った気がした

「どうして、、、?こんなこと、、」

目の前の状況から逃げたくて、無我夢中で走り続けた

はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ

自分の呼吸だけが聞こえて、消えたくなった

このまま自分も彼等と共に滅びればいいとまで考えていた


不意に景色が晴れ、顔をあげる


美しい少年がたたずんでいた

彼は翼人だった



「君は、、、?」

私はどうしていいか分からず顔を逸らす

彼はゆっくりと近づいてくる

「来ないで、、、」

彼は残念そうに笑った

「どうして?君はなんだか辛そうな顔をしているよ?、、、俺にできることはない、のかな」

「心配しないで、少し怖い夢を見ただけなの」

私は小刻みに震えて泣いていた

自分では気づかなかったそれに気がついて彼は私をふわりと抱きしめた

「うっうううぅぅぅ〜〜!」

それまで堪えていた涙が溢れ出しあたりは私と彼の二人だけになったかのような感覚に苛まれた


バランスを崩して、ドサッと花畑に倒れ込んだ

しかし、くるはずの衝撃は訪れず代わりに二つの大きな鮮やかな青に捉えられた

「捕まえた」

私の肩までの髪を一房つかみ口付けた

恥ずかしい気持ちになり、彼の手を払いのける

「いや、、、!」

「君が人間か、、、初めて見た」

彼は舐め回すように私の全身を見た

「もっと触ってみてもいい?」

「は、、、?それはど、ど、どういう、、、⁈」

ドギマギしてどうしていいか分からずに目をつむってじっとしてみる

「触っていいけど、私も背中の翼に触りたいな」

「なんだ、そんなことか。いいよ、お互い未知の存在に会えて興味が尽きないね」

彼は私の服の袖からなにやら黒い何かが見えて、袖を少し上げた

「これは、、、」



しまったと思った

自分はアザがある醜い体であることを


「君は、もしかしてー、、、」


彼が何か気づいたように目を見開いた

瞬間、彼の体が覆い被さるような状態になる

「え、、、あの、私、、、、」

「静かに、誰か来た」

恥ずかしさで爆発してしまうというところで

静寂の花園に来客が訪れた

それは沢山の血をつけ、翼人の翼を自分の服に無造作に引っ付けた人間たちだった

「誰がいる?」

「逃げ遅れた翼人の子どもと、お嬢様です」

「フン、子どもか。子どもではそこまで役には立たんな、、、どうしたものか」

3人の男は思案する


「去れ」

美しい翼人の少年は凛とした声を響かせた

彼は3人の男の前に立ち塞がり、目で相手を殺せる威圧感を放った


しばらく3人は冷や汗をかき呆気に取られていたが、一人が危険を察知し素早く彼の翼をロープで締め上げた


「うっ」短く悲鳴が溢れる

「やめてーーーーーーー!!」


それからのことはよく覚えていない


全てが終わったであろう頃には私は心が空っぽになっていて、気絶した

ただずっと叫んでいた気がする





その晩、気絶から目覚めた私は自室をノックする音で目を覚ました

キイと扉の音が響いて見知った優しい顔が入ってきたのを視界の隅に写した


「明良、今日は疲れただろう?ハイ、プレゼントだ

お前の洋服だ。これならお前のアザは治る

わざわざ買ってきたんだよ」


「ありがとうお父様」

一言お礼と愛想笑いをした




、、、まさかね

今日は起こったことが夢か幻であることを願い、私は意識を手放した


彼はこの後どうなったのかは分からない

私の初恋は間違いなく彼だったろう

意味もなく好きになった、運命のー、、、





翼人との出会いは悲劇に終わった


悲しき初恋は報われるのか?

それともー、、、


次回はこの話の続きです

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