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悪魔勇者 立志編  作者: 響 翔哉
第1章 依頼
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シュルエにて その1

 シュルエに向けて車に揺られること数時間。そろそろ体の節々が痛くなってきた頃ようやく俺達はシュルエに着いた。時刻は、もう8時を回ろうとしていた。

 思ったより早く着いたのは、道が混んでいなかったのと、師匠が法を破る勢いで運転した事が理由だろう。

「やーーーっと着いたー」

 ユリさんは凝り固まった体をほぐすかのように伸びをしながらそう叫んだ。

「そうですね。やっと着きましたね。私も体の所々が痛いですよ」

 ユリさんの例に習ってフルメルさんも屈伸や、伸脚をしていた。

「おいおい、俺の運転が酷いみてェじゃねェか!」

 師匠が茶化す様なツッコミを入れながら車から降りてきた。

 まぁ、事実お世辞にも上手いとは言えないかもしれない運転だった。でも、よく考えればこんな、イカついデカい車を大雑把な師匠が繊細な運転を出来るはずも無いという当然の結論に至ったのだった。

 何はともあれシュルエに着いた。確かに姉さんの言う通り何も無い。街灯は点々とあるだけで、家も少ない。この町のおそらくメインストリートと思われる道には、商店街があるのだがこの時間というのもあるのか人は少ない。その先にこの町の領主の屋敷があるようだ。ここに住んでいる人達の表情を見る限りでは特に過疎化の問題がありそうには見えなかった。そんな平和そうな町にドラゴンなんかいるのか。そんな疑問が浮かぶ程の静かな町だ。

 だがしかし、こんな静かで平和だからこそドラゴンや他の魔物が集まっているとも言えるかもしれない。彼らも生きているのだ、何も人間と戦うために生きているのではないのだ。彼らも人間様なんかの迷惑になるつもりもないだろうに人間の主観だけで狩られ、殺されるのだ、彼らからしたらたまったものでは無い。そんな事を考えても仕方が無い事ではあるのだが、ついついそんな事を考えてしまう自分がいた事に少し驚いたが特にその事については考えない事にした。

「に、してもなーーーんにも無いね」

 ユリさんがみんなが想っても言ってはいけない事をサラリと言ってのけた。流石、天然物のバカは違うな。

 師匠も、フルメルさんも同じ事を思ったのか、苦笑いをしていた。

「そ、そんな事はどうでもいいですよ、分かり切っていたことじゃないですか」

 フルメルさんが急いでフォローしているが、フォローしているかどうか怪しい事を言っている。確かに何も無いが、もう少し言い方という物があるだろうに。そうだな、心落ち着く田舎町と言ったところか。

 そんな事はどうでも良くて、いきなりやって来た来訪者に警戒と好奇の眼差しを向けているここの住民の事をどうにかしなければいけない。

 その事に気づいた師匠とフルメルさんが自己紹介をし始めた。依然としてユリさんはこの長閑な田舎町の空気を満喫している。

「今回の依頼を受けやってきた冒険者パーティのリーダー、ヒューズだ」

「同じく、フルメルです」

「ラバルです。よろしくお願いします」

「え、私?しょうがないなー。私はみんな大好き天才ユリちゃんだよー」

 思わず蹴りを入れようかと迷ったが、そんな事をすればなんかユリさんに負けた気分がしたので渋々止めた。でも、師匠はそんな事気にも留めずユリさんの頭を思いっきりチョップした。

 ドガーーんと爆発音のような金属が破断したかのような物凄い音がした。

「い、いいいいいたーーーい。なんてことするのにゃあ。私の大切な大切な頭が割れたらどうするのにゃあ」

「うっせえ、そんなんじゃ死なん。それにオメェの頭はもう既に手遅れだろうが」

 流石師匠と言うべきか、アホと言うべきか実に難しい命題だった。というか、今更ながらユリさん語尾に『にゃあ』って付けてるし。本格的にもうユリさんの頭ダメかもしれない。

「ラバルくんリーダーが、私の頭を頭を、うえーん」

 はぁー、またユリさんの泣きが始まった。でも今回はリアルに痛そうだったので許すことにした。

「よしよし、痛いの痛いの飛んで行けー」

 なんか、大きな赤ちゃんをあやしている気分だ。なんでこんな事しなければいけないのか俺には到底理解出来ないのだが。それに心做しか周りの視線が痛いのだが。

 そう思って、周りを見てみるとここの住民の皆さんがドン引きしていた。ここの住民だけでなく、師匠もフルメルさんも少なからず引いていた。

 どうしてかと思ったら、ユリさんがなんと服を脱ぎ始めていた。しかも、下から。

「なっ、ユリさん何やってんですか!?」

 思わずというか脊髄反射に近い速度で脱ぎ始めていた服とユリさんの手を掴んで動けないようにした。

「何って、ラバルくんが私を慰めてくれるんってゆうからにゃあ」

「チョット待て、俺はそんな事言ってないし、なんで慰めるのに脱ぐ!?」

「だって、ラバルくんが私の疼きを―」

「チョット待て、なぜ俺がユリさんの疼きを鎮めるんだ。それにそもそも痛いから泣いていたのに何故そうなる」

「そうでもしないとラバルくんが乗り気になってくれないからにゃあ」

「はぁー、なんかユリさんと話していると自分がバカになっていく気がしますよ」

「なんて事ゆうにゃあ。私は天才にゃあ、万に一つもラバルくんがバカになる事なんて無いにゃあ」

「あのー、御二方とももうそろそろやめてくれませんか」

 俺達がバカげた話を衆人環視の路上で繰り広げているのをさすがにヤバいと思ったのかフルメルさんが止めに入った。

 フルメルさんが話に割って入って来てくれたお陰で周りを見ることができ自分達が何をしていたのかが分かった。

 改めて冷静に考えるととんでも無く恥ずかしい事をしていた。顔が熱くなっていくのが自分でも分かるくらい顔が赤くなっていった。ユリさんも同じ様で茹でダコみたいに真っ赤な顔をしていた。俺は掴んでいた手と服から手を離した。

「えーっと……」

 こういう場合どうするのが正解だろうか。とりあえずユリさんに謝る。その後周りの人達に謝る。これが良いだろうか。

 それとも、何もしないというのが正解か?ユリさんを連れてどこかに行くというのもありだろう。

「えーっと皆さんすみませんにゃあ」

 そんな事を考えているとユリさんが脱ぎ始めていた服を着直しながら周りの人に謝っていた。

 なんかユリさんってこういう切り替えの速さは凄いんだよな。バカでも真面目な時はかっこいいだよな。なんでこんなにバカなんだろうか。実はバカを装っているだけで実は本当に天才だったりして。

 ユリさんの謝罪を聞いて周りの人達もフルメルさんもとりあえずは良しみたいな空気になった。一応俺も謝罪しておくか。

「お騒がせしてすみませんでした」

 俺の謝罪をしてなんとかこの場は丸く収まったと思う。

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