冬とギルドと茶番劇 その2
結局、ユリさんの鶴の一声で今日の仕事は魔物討伐に決まった訳だが、ユリさん以外あまりやる気のない様子だ。例にも漏れず、俺もその1人だ。
「ま、ユリが決めたんだ文句はねェよな」
「仕方ありませんね。ユリさんが決めたのなら、私にはどうすることもできませんから」
「ムー。私の事をめんどくさい女みたいに言わないでくださいよー」
「実際そうじゃないですか。俺が嫌って言ったら涙目で訴えてきて、許したら許したらで調子に乗ってより一層激しくなるし、自分の意見や、願いが叶えられないとすぐ泣くし……」
あ、やばい。少し言い過ぎた。
そう気がついた時にはもう手遅れだった。ユリさんは、少し俯き肩をワナワナ震わせながら、今にも泣きだしそうだった。
「ご、ごめんなさい。少し言い過ぎました」
「ラバルくんは、私の事嫌いなんだね。私はこんなに可愛がってあげてるのに、ひどいよ……」
そう言うと、ユリさんは声を上げて泣き出した。
あーあ、やっちまった。マジでユリさんを泣かせてしまった。確かに事実を言ってはいたが、今言わなくても良かった。それに、事実だとしても、言ってはいけないこともある。ほんと俺はバカだ。
いつも一緒にいるからと言っても、言っていい事と悪い事もある。ユリさんみたいな言われたことを間に受けるような純真無垢な人には特にそうだ。更には、ユリさんは俺の事を可愛がってくれるほどだったのだ、よりショックは大きいだろう。
こうなれば、謝罪しかない。なんなら、土下座だってしてやる。
「ユリさん本当にごめんなさい。俺が悪かったです。許してください。本当はそんな事思ってませんから」
「グスン、ほんとに?嘘じゃ、ない?」
「本当に本当です」
「じゃあ、許してあげる代わりに、仲直りのキスをして」
うん?今なんて言ったこの人は。仲直りのキスをしてもいいじゃなくて、してって言ったよな。この人わざと泣いたんじゃないよな。ユリさんに限ってそんなことないよな。ないですよね。
「えっ、今なんて」
「冗談だよー、もうラバルくんたらこんな事に引っかかちゃうなんて可愛いんだからもう」
ヤッパリからかわれていただけのようです。まったく、笑えない。こっちはヒヤヒヤしたのにそれを内心転げ回るくらい笑っていたなんて。
「大人の女性を甘く見ちゃダメだよラバルくん。分かったかな?」
「クソ坊主には、まだまだ早ェよ」
「もう、こっちはユリさんに嫌われたと思ってヒヤヒヤしたんですからね。だから、ユリさんもうこんなことしないでください。本当に心配したんですから」
真剣にそう伝えると、ユリさんは少し残念そうな顔をしたが、なんとか納得してくれた。
「そんな事より、今日の仕事です」
先程の件は無かったかのようにユリさんは話を切り出した。
「そうだな、茶番はいいからとっとと仕事に行くぞ」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、早速、しゅっぱーつ」
いつにも増して元気いっぱいなユリさんだった。みんなでギルドから出て今にも出発しそうな雰囲気の中、俺はここでふと疑問に思った。
何も準備していないということに。
「あの、チョットいいですか」
「うん?どうかしたのかい、ラバルくん」
「えーっと、なんの準備も無しで向かうんですか?」
「あ、そう言えばそうだったね。どうしよっか。そのへんで適当に、とはいかないし」
「魔物討伐だったよな。ンだったら、その洞窟とやらがある街まで車で行ッから、オメェら、各自要るもん用意しとけ」
そう言うと師匠は、自分の家の方へと駆け出した。
「では、我々は準備に取り掛かりましょう。まずは、ユリさんには携帯用の軽食を。ラバルくんには、情報を。私は、武器や、荷物をまとめるための袋を持ってきます」
フルメルさんは、各人にわかりやすく尚且つ簡潔に指示を出した。流石は、首席で卒業しただけの事はある。指示に一切の無駄が無い。それだけではなく、瞬時に役割分担をさせる事により時間の短縮をしている。更に言うならば的確に役割分担をしていると言える。なぜなら、ユリさんは食べ物に関しては、誰よりも詳しいと言えるだろう。俺は、沢山の人脈から得られる情報がある。フルメルさんは、貴族なので武器やなんかはフルメルさんに頼むのが手っ取り早い。
「じゃあ、行ってくるね」
「それでは、私も一度家に戻ります」
さっきまであんな賑やかだったのに一瞬にして1人になり、そして静かになった。なんか、物凄く寂しくなった。でも、そんな事言ってられない。俺も与えられた仕事をしなくては。