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真祖の吸血鬼

「何だ今のっ!?」


 たった今聞こえた悲鳴に身構えるクロウ。


「どうやら只事ではないみたいじゃの?」


 ラナの言葉にクロウは頷くと悲鳴がした方角へと方角へと駆けだす。ラナもその後に続く。

 暫く走って目の前に飛び込んだ光景にクロウは足を止め息を呑む。


「あ……ぁ……あぁ」


 目の前ではいつもクロウを馬鹿にして笑っているレグルムの姿。クロウより背が高く筋骨隆々な身体。だがそんな彼の身体を抱き締め首筋に噛み付いている紫の髪を肩まで伸ばしている男。レグルムの首筋から綺麗な鮮血が首筋を伝い、衣服に水玉を作らせていく。


「……あふっ」


 男はレグルムの首筋から口を離し、抱き締めていたレグルムの身体を離す。クロウはレグルムの顔に目を向ける。顔が真っ青で生気を全く感じなかった。レグルムは音も無くその場に倒れ込む。まるで、マリオネットの人形が糸を切られたかのように。


「ん?」


 男がクロウとラナに目を向ける。男の目は猛禽類のように鋭く攻撃的な瞳でクロウは、その瞳を見て心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥る。


「どうやら、次の獲物が来たみたいですね……」


 男は妖しい笑みを浮かべながら言う。男の口の端にはみ出てる長い歯、いや牙からレグルムの血と思われる赤い液体がキラリと妖しい光を放つ。


「主、吸血鬼(ヴァンパイア)か?」


「吸血鬼だってっ!?」


 クロウはラナの言葉に驚き慄く。吸血鬼は魔界の生き物では上位の存在だ。一度姿を見れば秒殺されると言われるほどに。そんな存在が今クロウの前にいるのだ。慄かないはずがない。


「私の事をご存知とは……。貴方、人間にしては中々知性に富んでおられるようだ」


 男は軽く拍手をしながらラナを褒める。言い終えたと同時に男は牙に付着した血をペロリと舐め取る。


「ウム。ゲートが開いた感覚はしなかった……。ならばずっとこの人間界にいると推察するが違うかの?」


「そこまでお見通しか……。最近の人間は本当に賢い。でも……」


 次の瞬間、クロウは息を呑んだ。いきなり男が消えたかと思ったら目の前に音も無く現れたのだ。そしてレグルムにしたように抱き締めようとした瞬間……


「ごふっ!!」


 男はレグルムの倒れている所まで吹き飛ばされた。ここまでの出来事にクロウの思考が追い付けずに困惑する。


「無事かっ!?」

 

 ただ一つ分かるとすれば男を吹き飛ばしたのは、クロウを守るように男の前に立ちはだかっている少女……ラナだということだ。


「アンタは……いったい?」


「話は後じゃ」


 緊迫した空気を含んだラナの声にクロウは固まる。その声がこう語ってるように聞こえたからだ。『邪魔をするな』と。


「この力……」


 ラナは吹き飛ばした男に視線を向ける。男は殴られた頬を擦りながら、喜々とした表情でラナを見ている。


「貴方……人間じゃないですね?」


「やっと気付いたかえ?」


 ラナは男の言葉に意地悪そうな笑みを浮かべる。その表情はイタズラが成功して満足した子供のよう。


「貴女の名前を伺っても?」


 柔和な笑みを浮かべて尋ねる男。だがラナはその言葉に肩を竦める。


「人に名を尋ねる時はまずは自分からと言うじゃろ?」


「おっとこれは失礼……」


 男は胸の前でポンと手を叩く。


(どこまでもワザとらしいやつじゃな……)


 ラナはここまでの男の仕草を見て苛立たしく思った。全てにおいて芝居がかってるように見えたからだ。人を殺している行為をまるで、紳士の遊びと……、周りにそう思わせるかのように。


「私の名前はルカルド・デュラム……ルカとお呼びください。まぁ、次があればの話ですが……ねっ!!」


 男……ルカの姿が再び消える。そして現れたのはラナの目の前で足は地面から離れていた。


「ふっ!!」


 ルカは空中にあった両足の内、左足をラナの右側頭部に向け蹴りを放つ。その蹴りはクロウの目には捉える事が出来なかった。それほどまでに速い。にもかかわらず


「……ぐはっ」


 ラナはルカの蹴りを右腕でガードしてカウンターで左拳をルカの鳩尾に叩き込む。ルカは鳩尾を殴られた事により息が詰まり、動けなくなる。ラナはその隙を見逃さない。すぐさまルカの胸ぐらを掴むと顔面に拳を放つ。


「……ぶっ」


 ラナの放った拳がルカの鼻に当たる。鼻の部分から骨が折れる音と共に鼻から血が滴る。


「これで終わりかのう? つまらん……っ」


 ラナは目の前の光景に目を見開いた。今鼻に血を垂らしていたルカの姿が蜃気楼のようにゆっくりと消えたからだ。


「……どういう、ことじゃ?」


「こういう事ですよっ」


 突然聞こえた声にラナは振り返る。するとこの世の終わりみたいな絶望的な表情を浮かべているクロウ。そのクロウを後ろから恍惚とした表情で抱き締めているルカがいた。


「幻か……。主、吸血鬼の中で相当の高位の存在と見受けるが、違うかえ?」

 

 ルカはラナの言葉にニヤリとする。口の端から見える牙がキラリと光る。


「そこまで知っていらっしゃるとは……。えぇ、私は吸血鬼の中でも最高位の存在、()()に当たります」


「ほう。ならば主、相当長い事生きているのではないかえ?」


 ルカの言葉に不敵な笑みを浮かべるラナ。


「そうですね。ですがそれはなにか?」


 ラナの言葉に訝しむルカ。だけど暫くして笑い出す。


「まぁ良いでしょう……。さて、頂くとしますか」


 そう言ってルカはクロウの首筋に白くて長い牙を突き立てる。


「……ぁ……ああっ」


 クロウは牙を突き立てられた事により生じた痛みに喘ぐ。瞬間自身の身体が急激に冷えていくのを感じ取った。


「や……やめ、ろ……」


 クロウは朦朧とした意識の中で、声を必死に絞り出す。ルカはその消え入りそうな声を聞いて笑い声を立てる。


「ヒャハハハッ!! 良い血の味……堪らないですねえ〜っ」


「クロウっ!!」


 ラナがルカに血を吸われているクロウを助けようと駆け出す……が


「ぬおおぉっ」


 ラナはその場で蹲る。


「な、なんじゃ? 起き上が、れぬぞっ」


 苦しそうに呟くラナ。ラナの言う通り、身体がビクともしない。地面に貼り付けられているかのようだ。


「私の能力……()()()()()ですよ」


 ルカはクロウの血を恍惚とした表情で吸いながら告げる。ラナはそこで気付いた。さっきまで黄色かった瞳が赤く染まっている事に。


「主、瞳が……」


「あぁ、気付きましたか? あふっ……真祖の吸血鬼は固有能力を使うと目の色が変化するんですよ」


「あぁ……あ」


 ルカが言い終えたと同時にクロウの顔色が完全に血が抜かれ真っ青なになった。ルカはクロウの首筋から口を離し今も尚、地面に這い蹲っているラナの元へ歩きだす。身体の支えを失ったクロウはレグルム同様、その場に倒れ伏す。ラナはその光景を見て歯を食いしばる。


「主、そやつを殺しおったな?」


 ルカはラナの問いに歓喜の笑みを浮かべる。


「えぇ……中々に美味でしたよっ」


「許、さぬ……主はなんとしても……」


「どうするつもりで?」


「殺し……っ!?」


 ラナは言いかけていた言葉を止め目をはち切れんばかりに大きく見開く。今ラナの目の前でありえない事が起きたからだ。


「どうしたのですか? まさか怖くなって……」


 ルカもそこまで言って言葉を止める。自身の背後から禍々しい気配を感じたからだ。ルカはゆっくりと後ろを振り向いた。


「なっ」

 

 その瞬間、ルカは言葉を失った。血を抜かれて息絶えたはずのクロウがそこに立っていたからだ。それも体中にクロウの髪の色と同じ柘榴色の禍々しい気を発しながら……。

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