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いつもの日常

「フワァ〜アァ」


 大きな欠伸をしながら横になった状態で大きく伸びをする少年。少年は身体を起こすと周りに目を向ける。少年の周りには特に物は一切置かれてなく、あるのは少年を囲む石壁のみだった。少年がぼーっと石壁を眺めていると後ろからガチャッとドアノブが回る音が聞こえた。

 少年が後ろに目を向けると赤い髪の男性がいた。男性は少年を見ると怒りを顕にした表情を浮かべる。


「起きたのならとっとと着替えろっ!!」


 そう言って男性は少年に向かって手にしていた服を勢いよく投げつける。勢いよく投げた服は少年の顔に小気味いい音を発しながら止まる。男性はそんな少年の事に構わず扉を勢いよくバンッと音を発させながら閉めて立ち去っていく。


「分かりました……父さん」


 少年はそう言うと石床から立ち上がって投げつけられた服を手にする。カーキ色のボロボロのシャツ、ところどころ穴の開いているズボン。村人とはいえあまりにみすぼらしい服。少年はそのみすぼらしい服に着替えていく。

 そして少年は男性が閉めていった扉のドアノブに手を掛けその場から出る。外へ出て暫く進んだ先で後ろを振り向く。後ろには少年が寝床として与えられている小さな小屋。生まれてからずっと無理矢理、生活させられた場所だ。


(俺はなんでこんな惨めな思いをしなきゃいけないんだろうな?)


 心の中で少年は問いかける。

 だが少年は理解していた。理解する事を拒絶しても周りがそれを許してくれない。少年が溜め息を吐くのと同時に。


「おい、何やってるんだいっ!! 早く朝飯を食べて働きなっ!!」


 少し離れた場所にある家屋から女性の大きな声が少年の耳に届く。少年は嫌な気持ちを封じ込めると、すぐさまその家屋へと入っていく。

 家屋に入ると忌々しげにこちらを見る桃色の髪を腰まで伸ばした女性がいた。女性は目の前のテーブルに肩肘を付き頬杖を付きながら


「全く、ただでさえ役立たずの()()()()()なんだから……。これ以上迷惑を掛けるんじゃないよっ!!」


 少年は女性から目を逸らしながら


「ごめんなさい……母さん」


 そう告げると同時に頭に重い衝撃が襲った後、床にコツンと何かが落ちる音が響く。少年が音のした方へ目を向けるとそこには一切れのパンがあった。


「それ食ってさっさと働きなっ!!」


 少年は床に落ちたパンを拾い上げる。パンはカチカチに固くなっていて、ところどころにカビが生えていた。少年はそれを持ったまま外に出る。これが少年の1日の始まりだ。親から不当な扱いを受け、そして……


「おう、()()()()()じゃねえかっ!!」


 村人の連中が少年を指差してそう呼ぶ。そして皆ゲラゲラと笑い声を立てる。少年は奥歯を噛み締める。そして逃げるようにその場を駆けだす。後ろにはさっきより勢いを増してゲラゲラと笑う声が聞こえた。


(クソクソクソクソッ)


 少年は心の中でそう繰り返しながら走る。なんで自分だけ毎日こんな不当な扱いを受けなくてはいけないのか。理由は分かっていても、理解する事は出来ない。

 暫くして少年の持ち場である畑に着く。少年はそこで立ち止まると空を見上げる。まだ朝の時間帯、空はクッキリと晴れた快晴でどんよりと曇っている少年の心とは反対に青く澄み渡っていた。


(俺、なんで生きてるんだろ?)


 少年は心の中でそう呟くと同時に片手で目の前を横一文字に切るように動かす。すると目の前に青い正方形のプレートが現れる。そしてそのプレートにはこう書いてあった。


クロウ・ランブルク LV D


 職業 無職


 攻撃力 0

 防御力 0

 運   0

 魔力  0


 天恵

 ??? LV10(MAX)


 これが村人達に()()()()()と呼ばれる所以だ。少年、クロウ・ランブルクのステータスは全部ゼロなのだ。なので村人の中で一番劣っている。いや村人とはいえ僅かながらのパラメーターが割り振られてるはずだ。なのにクロウがオールゼロなのは


「無職……か」


 クロウが噛み締めるように言う。

 そう、この世界の仕組みではそれぞれに職業という物があり、それに伴ってスキル、パラメーターが振り分けられる。

 パラメーターとは『攻撃力』、『防御力』、『運』、『魔力』の数値の事。そしてクロウのプレートには書かれていないが、スキルという欄がありそこには『剣術LV1』などと言った事が書かれている。これは生まれた時に決まるものではあるが、経験などを積めば新しいスキルを覚える事がある。

 そしてこの中で1番大事なのは天恵という欄だ。せっかく、職業が村人なのに天恵がその村人にとって、役に立たない天恵だったら意味がない。こればかりは生まれた時にしか与えられないもので、自分の意志で増やす事も出来ないから文字通り神頼みになる。

 だが、クロウが生まれて調べられたパラメーター、スキルは村人、いやこの世界では前例のない物をその身に宿した。


「なんなんだよ。『LV D』とか『無職』とかって……」


 この世界では1人1人にLVという物がある。そのLVは魔物と戦って経験を積めば自然と上がる。それに比例してスキルのLVも多少時間が掛かるが上がる。

 だがクロウのLVの欄は『D』という謎の文字が刻まれている。したがって、クロウのLVがこれ以上上がるのかは全く分からない。

 そして不可解な点は後2つある。1つは職業だ。職業はこの世界で生きていく上で必要な項目だ。冒険者と書かれていれば、戦闘向けのパラメーターが割り振られるし、村人ならば全体的にバランス良くパラメーターが振り分けられる。

 だがクロウの場合は『無職』と書かれていた。だからパラメーターが全部0なんじゃないかとクロウは思ったが、前例が無い為にそれを確かめる手段がない。そして最後の1つは


「この『???』ってなんだよ……」


 クロウが項垂れながら口にする。

 そう、本来なら生まれた時に開示される天恵の欄がクロウの場合生まれてから15年の間、ずっと『???』のままなのだ。これは条件によって開放されるのだろうが、その開放の条件が現状不明のままだ。


「まぁ分かんないものは考えても仕方ねえか」


 クロウは嘆息混じりに言う。

 分かっているのだ。例えそれが解明されたところで現状が変わる訳じゃないことを。村人達が自分を馬鹿にするのは自分より格下がいるから。だから下を貶めることで優越感に浸ろうとしている。それが人間の心理なんだとクロウは考えていた。


「さて、仕事を始めるか」


 クロウはそう言って畑に突き立てられたままの桑を握りしめた――。

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