今夜の宿泊先は?
少女に水筒を渡していると、毛繕いをしていたクーが仲間外れにされたと思ったのか足元にやってきて甘え始めた。すっかり息が整った僕は、クーを抱き上げて頭をなでる。すると、少女はクーに興味を持ったのか、「あなたの猫?」
と聞いてきた。どうやら猫というのはこの世界にもいるようだ。そもそも、言語が同じだけでもありがたいことである。異世界にやってきて、言葉が通じないなんてことになったらもっと大変な目にあっていただろう。とりあえず、先ほどの質問に答えることにする。僕が「そうだよ」
というと、少女は「可愛い猫ちゃんね~」
と言いながらクーを撫で始めた。鼓動が早くなる、きっと少女の顔が近くなったからだろう。少女にはもう少し行動に気を付けてもらいたいものである。「この子の名前はなんていうの?」
唐突に聞かれ一瞬自分の名前を聞かれているのかと勘違いしたが、冷静になり「クー」
と一言で質問に答える。普段あまり異性と話すことがないせいか、無駄に緊張してしまう。そういえばお互いに名前を言っていないな、と思い自己紹介することにした。僕が自己紹介を終えると、少女も察したようで「私はカナ。今年15になるの」
少女改めカナは少し恥ずかしそうに言った。自己紹介を終えるとカナの家に招待された。はじめは断っていたのだが、飲み物だけでも飲んでいってと言われたので、行くことにした。
カナの家はいかにも童話に出てきそうといった感じで、木造の二階建てだった。周りには少し離れたところに他の家があるだけで、近くには小さい納屋と野菜のように見える植物が植えられている畑があるだけだった。「お邪魔しまーす」
と言いカナの家の中に入る。クーもお邪魔しますと言っているつもりなのか「にゃー」
と鳴いている。誰か来たことに気づいたカナのお母さんと思われる人物が玄関にやってきた。「いらっしゃ・・・・」そこまで言って何故か黙ってしまった。するとカナだけ手招きされ、何か二人で話している。クーが下ろしてほしそうにしているのをしっかり捕まえながら、静かに待つ。しばらくして、二人が戻ってきた。とりあえず上がらせてもらいリビングに案内された。先ほど二人でなにを話していたのか気になっていると、カナのお母さんに「あなた貴族の子?それなら今すぐ帰ってくれないかしら」
と言われた。貴族?何の話をしているのかわからなかったが、自分の服装を確認してその理由を理解する。学校から帰ってきてそのままだったため制服を着ていたのだ。確かにこんな服を着ていたら中世なら貴族なのかもしれないと思いつつ僕は「貴族じゃなくて、ダンスパーティーに行く途中だったんです」
と適当な作り話をした。そもそも普通の人はダンスパーティーなんか行かないのではないだろうかと言ってから思ったが、どうやら大丈夫だったようでカナのお母さんは「それならよかった」
と言った。きっとこの世界にも身分の問題があるのだろうと、カナのお母さんの言動から理解できた。一方クーはカナに懐いたようでカナと一緒に飲み物を取りに行っている。家はどこかと聞かれたので旅の途中だと言った。荷物は落としてしまい何も持っていないということにしてお金もその時落としてしまったと説明した。すると、ぜひうちに泊まっていってと言われた。こんな展開本当にあるんだなと思っていると、いいタイミングでカナが水を持ってきた。クーも一緒に帰ってきたが、カナに相当懐いてしまったらしくこっちに戻ってこなくなってしまった。やっぱり猫って自由気ままだなぁ。するとそれをうまく使ったカナのお母さんが「ほら、猫ちゃんもこんなに懐いてることだし、余ってる部屋もあるから~」
と言って結局泊めさせてもらうことになった。どうやら僕はこの親子の押しに弱いようだ。