第99話 殺人カップルは永遠の愛を誓う
それから数時間をかけて移動した。
警察の追っ手が来ていないことを念入りに確認しておく。
この世界が由来の電子端末は、逆探知の対象になる。
だから我々は地球の道具ばかり使っていた。
魔術も併用するため、ひとまず困ることはなかった。
都市部を抜けて田舎道を進み、未開拓の山々の間を抜ける。
次第に懐かしい道のりになってきた。
そこからさらに奥地へと入れば、木々の間に豪邸が見えてくる。
私はそばに停車させると、札束入りのバッグを担いでオープンカーを降りた。
「久々の我が家だね」
「そうね。何カ月ぶりかしら」
ジェシカはまったりした様子で言う。
最近は家に帰らず連続で強盗ばかりしていた。
昼夜問わず警察とカーチェイスや銃撃戦を繰り返す日々は刺激的だが、我々だってたまにはリラックスしたくなる。
今回はちょうど自宅の近くに来ていたので、強盗終わりに帰ると決めていたのだ。
我々は玄関を開けて室内に入る。
薄暗い部屋は全体的に埃だらけだった。
完全に放置していたから当然だろう。
私は苦笑し、ソファにバッグを投げながら肩をすくめる。
「先に掃除をしなくてはいけないな」
「一緒に頑張りましょ。協力したらすぐに終わるわ」
「そうだね。頑張ろうか」
箒や雑巾、水入りバケツといった道具を召喚する。
そして我々は室内の掃除を開始した。
家中の窓を開け放ち、手分けして作業を進めていく。
魔術の使い方次第では、効率を大幅に上げられる。
しかし、あえてそれはしないようにしていた。
掃除に限ったことではないが、便利すぎる魔術は我々を退屈にさせる。
不老不死の我々にとって、ちょっとした手間さえも娯楽に等しいのである。
それをスキップするのは惜しい。
こうして掃除をする時間も、ジェシカと一緒なら至福のひと時だ。
掃除を終えた我々はバスルームで汗を流す。
その後は食材を召喚してキッチンで調理を行った。
日暮れには二人で作ったディナーを堪能する。
その最中、私はワイングラスを置いてジェシカに切り出した。
「ジェシカ、君に渡したいものがある」
「あら、何かしら?」
ジェシカが不思議そうな顔をする。
何も気付いていないようだ。
サプライズにしたかったので良かった。
私は懐を探り、取り出したそれをジェシカに見せる。
「受け取ってほしい」
「こ、これって……」
ジェシカが驚く。
口元に手を当てて、肩を震わせた。
大きく見開かれた目は潤んでいる。
彼女に差し出したのは、白銀の石がはめ込まれた指輪だ。
前の世界から召喚した世界樹の枝と結晶で作ったものである。
ジェシカに気付かれないように製作するのは大変だった。
随分と時間がかかってしまったが、出来栄えについては自信がある。
それでも喜んでもらえるか不安だった。
しかし感動するジェシカを見て、すべての苦労が喜びに変換された。
私は照れ臭くなって小さく笑う。
「改めて考えると、渡していなかったからね。遅くなってすまない」
「いいのよ、気にしないで」
ジェシカは頬を赤く染めて左手を前に運ぶ。
私は指輪をそっと彼女の薬指にはめた。
サイズはぴったりだった。
「ありがとう、ダーリン」
「いいんだ。こちらこそ、いつも感謝しているよ」
私はジェシカを抱き締めて、熱い口づけを交わす。
ジェシカも嬉々として受け入れてくれた。
(つくづく素晴らしい人生だな。異世界に転生できて良かった)
こればかりは神に感謝せねばなるまい。
力及ばず死んだ我々は、こうして結ばれることができた。
おかげで永遠の愛を育むことができる。
我々にはもったいないほどの幸せだった。
今後も大切にしていこうと思う。
これにて完結です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
新作も始めておりますので、よければそちらもお願いします。