第98話 殺人カップルは逃走する
オープンカーはビルの立ち並ぶ大都市を走っていた。
アクセル全開で交差点に差し掛かる。
赤になった信号機を前にドリフトを決めて、慌てる通行人を横目に曲がり切る。
正面から迫るトラックを躱すと、さらに加速した。
後方からサイレンが聞こえてくる。
見れば警察の数台のパトカーが追ってくるところだった。
「駆け付けるのが早いわねぇ。マークされていたのかしら」
「きっと主要な銀行やカジノを常に見張っていたのだろう。通報システムに頼らない人海戦術だな」
「かなり警戒されているのね」
「それだけのことはやっているさ」
神を殺した後、我々はこの世界にやって来た。
それから文明レベルや言語、一般常識を学び終えると、強盗稼業を開始した。
前世でも繰り返してきた行動だ。
ある意味、黄金コンビの復活とも言える瞬間だった。
原点回帰とも言える強盗は我々にとって至福の時間となった。
神を嬲り殺しにするより遥かに楽しい。
もっと早く始末すればよかったと後悔しているほどである。
(不老不死なのだから、別に焦ることもないがね)
私は微笑して、サイドミラーでパトカーの運転手を視認する。
戦闘型サイボーグの割合が多い。
彼らは様々な兵器を内蔵しており、相手の犯罪レベルに応じて解放される。
我々には無制限で兵器を使えるだろう。
「はは、愉快な仕組みだな」
この世界は地球と酷似しているが、技術面で差異がある。
バリエーションがあってこちらを飽きさせない工夫が凝らされていた。
「おっ」
前方にて、パトカーがバリケードになって道路を封鎖している。
警官が銃を構えていた。
ここで挟み撃ちにして我々を食い止めるつもりらしい。
ジェシカは舌なめずりをしながら私に尋ねる。
「どっちがやる?」
「ここは任せてくれ」
私は手元のボタンのうち一つを選んで押す。
前方で爆発が連鎖し、突き上げられたパトカーが宙を舞った。
警官達も吹き飛ばされる。
その中を我々は堂々と走り抜ける。
「ヒュゥ、さすがダーリンね!」
「そうだろう。頭脳戦も得意なんだ」
今の地点は、事前に決めていた逃走経路だった。
警官達が待ち伏せしてきそうな箇所に爆弾を仕掛けていたのである。
他にも切り抜ける手段は用意していたものの、予測が的中すると気持ちが良いものだ。
依然としてくる追跡してくるサイボーグの警官が、車内からボンネットに移る。
パトカーは自動運転に切り替えたようだ。
サイボーグは片腕をこちらに向けると、そこからミサイルを発射した。
「今度は私に任せてね」
「ああ、頼んだよ」
ジェシカが滑るようにして後部座席へ移動する。
銀行から盗んだ札束のバッグを踏みながら、彼女はククリナイフを構えた。
そして、飛来したミサイルを一刀両断する。
二つに分離したミサイルはアスファルトの地面に落下して爆発した。
我々の乗るオープンカーに被害はなく、別のパトカーに直撃して炎上する。
ミサイルを撃ったサイボーグはそれでも諦めず、今度はボンネットから跳躍した。
直接オープンカーに圧し掛かる魂胆らしい。
圧倒的な身体能力は、数メートルの距離を難なく詰めてくる。
「すまないが土足厳禁だ」
私は短機関銃を召喚し、サイドミラーで狙いを付けながら連射する。
ばら撒かれた弾丸はサイボーグに炸裂した。
姿勢を崩したサイボーグは、着地できずに地面とキスをする。
そこから激しく回転し、後続のパトカーに轢かれて大破した。
その様を見届けた我々は、流れるようにハイタッチを交わした。