第97話 殺人カップルは繰り返す
二十年後。
我々は別次元の世界にした。
現在、大都市の一角で近未来的な銀行の前に立っている。
「ダーリン、準備はいいかしら」
「私はいつでもオーケーさ」
ショットガンを掲げて応じると、ジェシカが扉を蹴破った。
そのまま素晴らしい速度で室内に侵入し、驚く人々の間を駆けて奥へと進んでいく。
私は歩きながら室内に踏み込み、ショットガンを何度か発砲した。
轟く銃声の後に発言する。
「すまないが、手を上げてくれるかな」
穏やかな口調で要求すれば、人々は恐怖に顔を染めて従う。
背後から警備ロボットが襲いかかってきたので、ショットガンの三連射で破壊しておいた。
室内に設置された監視カメラも拳銃で撃ち抜いておく。
これで少しは時間が稼げるだろう。
ジェシカは窓口を乗り越えて職員の一人を脅迫していた。
彼女は相手の首筋にナイフを添えて要求する。
「金庫に案内して。暗証番号の入力をしてもらうわよ」
そのそばで不審な動きを取る職員がいた。
デスク下のボタンでも押そうとしているのだろう。
私はその職員の額に銃弾を叩き込む。
仰け反った職員は椅子から崩れ落ちて視界から消えた。
「勝手に通報されると困るのだが」
同じような動きをしていた職員も順に射殺していく。
余計なことをする者がいなくなるように牽制した。
よほどの愚か者でない限り、迂闊な行動をしようとは思うまい。
一方でジェシカは職員を連れて金庫室へ向かった。
私は殴りかかってきた人質を撃ち殺しながら声をかける。
「手筈通りに頼むよ」
「ええ、任せて! 二分で済ませてくるわ」
頼もしいジェシカに微笑みつつ、私は口笛を吹く。
すると、近くで怯えていた初老の男が呟いた。
「まさか殺人夫婦が来るなんて……」
「ほう、この地域でも有名なのだね。光栄だよ」
まだ強盗の回数は少ないが、それなりに名が知れているらしい。
喜ばしいことだ。
男はまさか私が反応するとは思わなかったのだろう。
彼は震えながら懇願する。
「妻と娘がいるんだ。どうか命だけは……」
「頭を上げてくれ。我々は殺人鬼だが、無闇に暴れるほど野蛮ではない」
私は苦笑して制する。
死体から溢れた血の臭いが室内に充満してきた。
誰かの嘔吐する音もした。
私は気にせず話を続ける。
「君、名前は?」
「ナダルク……ナダルク・レントーロだ」
「ふむ、そうか」
私は頷いてポケットを探ると、一枚の金貨を取り出した。
この世界の最高級カジノで手に入れた代物だ。
ちょっとした会社を買収できるだけの価格を持つ。
実に馬鹿げた設定だが、記念と思って取っておいたのだ。
その金貨を渡しながら私は囁く。
「ナダルク。君にプレゼントだ。友人の証と考えたまえ」
「ど、どうも……」
「取り調べで没収されないように気を付けることだ。どこかに隠しておくことを推奨するよ」
そう言ってナダルクにウインクする。
ほぼ同時に金庫室からジェシカが戻ってきた。
札束のはみ出たバッグをいくつも抱えている。
返り血を浴びているのは、暗証番号を言った職員を殺したからだろう。
「ダーリン、全部奪ってきたわよ」
「さすがジェシカだ。仕事が早いね」
私は投げ渡されたバッグをキャッチして、顔を青くしたナダルクと握手をした。
「それでは失礼させてもらうよ。諸君に良い週末を」
銀行を飛び出した我々は、愛車に乗ってその場から走り去るのであった。