第95話 殺人カップルは神を追い詰める
二十年が経過した。
神に焦りが見え始めた。
我々を倒せないのではないか。
そんな思考が脳裏を過ぎったのだろう。
彼の懸念も仕方ない。
我々はどれだけ殺されても復活する。
微塵の恐怖もなく、喜びを以て戦闘を続行するのだから。
五十年が経過した。
神の攻撃が単調になってきた。
どうやら思考を放棄して、ただひたすらに暴虐の嵐を吹き散らしている。
とは言え、それに負ける我々ではない。
圧倒的な破壊で殺されるのなら、上回るスピードで数を増やすまでだ。
既に我々は、別次元でも無限召喚をループさせている。
どのような攻撃で大量殺戮に見舞われようと、すぐさま復帰できるように待機していた。
この辺りの対策は手慣れたものだろう。
ただ、さすがに飽きが出てきた。
神だけが標的では退屈する。
だから別次元に人々が繁栄していた頃の世界を召喚するようになった。
そこでそれぞれ殺戮を展開し始める。
我々は久々の殺人に狂喜乱舞した。
破壊と再生を繰り返しながら時間を潰す。
百年が経過した。
節目とも言うべきタイミングである。
神は思考放棄を抜け出して正気に戻っていた。
原因は、私が特製のミサイルで神の頭部を粉砕したからだろう。
これにはさすがの神も驚いたらしい。
今までの爆撃でも多少は傷付いていたが、まさかたった一発で大損害を与えられるとは思わなかったに違いない。
使用したのは過去の神を利用した人型ミサイルだ。
別次元の私が素材を提供し、ジェシカが魔術で加工してくれたことで完成した。
開発に四十年も費やしたものの、それだけの価値はある。
しかも完成したことで、以降は召喚魔術で手軽に使用できるようになった。
頭部を再生させた神は、死の危機を避けながら戦う羽目になった。
五百年が経過した。
神が明確に弱体化し始めている。
我々の死体から魔力を吸収しているのに、その超絶的なパワーに陰りが見えるのだ。
どうやら人間からの信仰が得られないことが原因のようだった。
神格を支えるのは、人々からの信仰心である。
根幹の力はそれによって成立していた。
今までは我々の魔力で誤魔化してきたが、それにも限界があったのだ。
人間が不在では衰えていく。
故に神々は世界を創造し、己の力を増大させようとするのだ。
我々の殺戮は、迷惑極まりない行為であった。
千年が経過した。
いよいよ追い込まれた神は、世界と人間を創造した。
信仰心を取り戻すための策だ。
そこに私が水素爆弾を連打し、すべて台無しにしてやった。
結果、神は脅威となり得ないほどに弱体化した。
なけなしの力を無駄にした挙句、信仰心が枯渇してしまったのだ。
加減を誤ると死にそうな有様で、逃げるだけの能力も残っていないようだった。
仕方なく我々は、増えすぎた自分と殺し合うことにした。
別次元にいた分も参戦させて開始する。
大規模な攻撃は禁じて、刃物や銃で削り合った。
弱り切った神は、山積みの死体を漁るようにして魔力を確保する。
延命処置に過ぎない行為だろう。
情けない姿を横目に我々はひたすら殺し合う。
そして、一万年が経過した。
――いよいよ終焉が、迫りつつあった。