第94話 殺人カップルは時を刻む
三年が経過した。
肥大した神と増え続ける我々の戦いは、まだ拮抗していた。
破壊の規模だけが大きくなっている。
世界が限界を迎えるようになったので、そのたびに私が再生させていた。
その処置がなければ、とっくに消滅しているだろう。
神は我々を殺すことに集中しすぎて、もはや本来の役割を忘れているのではないか。
大陸を抉るような攻撃を連発する神を見て、私は苦笑する。
五年が経過した。
拮抗に耐えられなくなったのか、神が新たな策を使ってきた。
世界を丸ごと隔離し、空間そのものを破綻させようとしたのである。
これは数兆人のジェシカが阻止してくれた。
魔術の腕は彼女の方が優れている。
一人ではとても敵わないが、数さえ揃えれば対抗できる。
私は壊された世界を複製して召喚し、殺し合いのフィールドを無限に拡張した。
神が空間に干渉して来ようと、どこまでも退避できるように対策しておく。
さらにジェシカの助力で、時空の狭間に何億人かのストックを潜伏させた。
これで世界に存在する我々が殲滅された場合でも対処できるようになった。
我々の数がゼロにさえならなければ問題ない。
殺し合いはまだまだ盛り上がる。
ゲームセットにする行為は断固として止めなくては。
十年が経過した。
とうとう神は、過去を改変しようとした。
本来は持ち得なかった能力だ。
我々と戦う中で密かに習得したらしい。
神格の中でも禁忌に相当する術と言っていたが、もはやなりふり構っていられないと判断したのだろう。
おそらく神は、過去の我々を抹殺するつもりでいる。
それを現在の時間軸に反映させようとしているのだ。
さすがに都合が悪かった。
現状の戦力など無意味になってしまう。
だから私は、ここで奥の手の一つを使用した。
召喚魔術を反転させた力――すなわち送還魔術を発動したのである。
これによって発動しかけた過去干渉の力を、別次元のどこかに転送してやった。
咄嗟のことで行き先を地球に指定したため、今頃はとんでもないことが起きているかもしれない。
まあ、現代兵器は問題なく召喚できたので大丈夫だろう。
送還魔術については前々から使っていた。
具体的には、召喚した物体を消す際に使用している。
それを独立して行使したのだ。
神の能力を転送するのはさすがに負担が大きく、反動で二十億人の私が死ぬ羽目になった。
ただ、実質的な損害は皆無だから構うことはない。
せっかくの過去干渉に失敗した神は激昂した。
それからしばらくはシンプルな暴力のみに頼るようになった。
素晴らしいほど分かりやすい反応である。
よほど自慢の策だったのだろう。
そのリアクションに満足しつつ、我々は喜んで受けて立つのであった。