第93話 殺人カップルは神を嬲る
それから我々は延々と殺し合った。
全力でぶつかり、そして何度も殺される。
血肉が弾けて骨が砕け、脳漿が飛散するその感覚を満喫した。
消耗した神は、底力を発揮してくる。
理不尽な異能によって、こちらの命を消し飛ばした。
空間の歪みの他にも様々な力を行使してきたのだ。
しかし、我々とて殺人鬼である。
狂気に浸り切っており、恐怖することはない。
最大最強の獲物を前に歓喜した。
死んだくらいで怯みはしない。
むしろ、ますます燃え上がる始末だった。
◆
それから約一ヶ月が経過した。
我々は未だに神と殺し合っていた。
神はまだ元気だ。
我々の死体からエネルギーを取得し、回復することを学んだのだ。
消耗戦に陥るのは初めてのことだったのだろう。
回復手段を確立した神は、露骨に強気なものへと豹変した。
我々は神の機転に感謝する。
これでさらに楽しめるようになったからだ。
簡単に死なれては困るが、手加減をするのも望ましくない。
その懸念が解消したのだから、間違いなく朗報だろう。
◆
さらに半年が経過した。
神は絶大な力を獲得していた。
我々の死体を取り込みすぎたのだ。
概算ではあるが、当初と比較して数十倍の力にまで膨れ上がっている。
少年だった体躯は、巨大なドームのように醜く肥えていた。
我々は羽虫のように殺される。
そしてすぐに復活し、全力で神に襲いかかる。
もはや敵わない領域にまで達していたが、別にそんなことはどうでもいい。
眼前に標的がいるから殺しにかかるだけだ。
ほとんど無敵になった神だったが、私の自動召喚だけは止められない。
破壊と創造の力を有するものの、細々とした改変は不得手だった。
不必要な部分のため、特に習得してこなかったのだろう。
そもそも神を煩わせるような存在は皆無なのだから。
何より、神にその意志がなかった。
我々への怨念により、嬲り殺しにすることを最優先している。
こちらの魂を挫くことに執着しているのは明らかだった。
加えて、力の増幅という欲望もあったのだろう。
我々を糧にどこまでも強くなれる。
だから完全に殺すのは惜しいと考えたに違いない。
故に神は我々を殺し続ける。
無尽蔵な強化を餌に、ひたすら蹂躙を繰り返した。
◆
神との殺し合いが始まって一年が経過した。
蹂躙の日々から形勢が逆転しつつあった。
原因はただ一つ。
私が、召喚魔術を復活以外の用途に使い始めたのである。
死ぬたびに召喚するのではなく、常に己を召喚し続けるようになった。
呼び出されたフレッド・タヴィソンが、新たな殺人鬼夫婦を即座に呼び出す。
それを高速で絶え間なく実行した。
無限に増えるフレッド・タヴィソンとジェシカ・ランヴァーは反撃を開始した。
神が蓄える力を瞬く間に削り奪っていく。
億単位で爆撃を叩き込み、億単位で神殺しの斬撃を叩き込むのだ。
いくら実力差があっても無視できるものではない。
さらに言えば、放っておくだけで億から兆、京へと悪化していく。
半年間の圧勝で油断していた神は、負けじと対抗してきた。
圧倒的な力で我々を次々と滅殺して、流出するエネルギーの補填に躍起となる。
その間に我々は数を増やす。
どこまでもペースを上げて、殲滅速度を凌駕して増え続ける。
壮絶な争いは、臨界点を突破しようとしていた。