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第9話 殺人カップルは欲求を発散する

 機体が白い壁を砕いて、窓ガラスを粉々にした。

 戦闘ヘリは床を削りながら室内へ飛び込む。

 プロペラが火花を上げて折れ飛んで、室内に半ばまでめり込んだところで停止した。


 機内でブザー音が鳴り響く。

 どこからか白煙が上っていて焦げ臭い。

 エンジンが完全に止まって計器も壊れていた。

 力加減を誤ったのか、操縦桿が根本から割れている。

 これはもう動かせない。


 ジェシカは軽く咳き込み、苦笑しながら外に降りた。


「乱暴な挨拶ね。まあそんなダーリンも好きだけど」


「包容力のある妻がいて私は幸せ者だよ」


 私も精一杯の愛を伝えながら室内に降り立つ。


 二人分の体重を失ったバランスが崩れたのか、機体が後方に傾く。

 不気味な音を立てながら、そのまま城外へと落下した。


 数秒後、爆発音が轟く。

 悲鳴や断末魔が伴ったので、きっと真下に不運な人間がいたのだろう。

 どうやら下敷きになったらしい。


「ふむ」


 私はリボルバーを回転させながら室内を見渡す。


 豪華な内装は大金持ちの私室を連想させる。

 部屋の主らしき人物は壁の端にいた。


 王冠をかぶる初老の男だ。

 赤いマントを羽織っている。

 威厳を演出する服装で、険しい顔をして玉座にいればそれなりの効果があるだろう。


 ただし、今のように顔面蒼白では台無しである。

 二人の殺人鬼を前には、場違いな印象しか抱けなかった。


「な、何だこれは……」


 男は言葉を失っている。

 壁の大穴と我々を交互に見て、情けない表情を晒していた。


 彼こそがこの国の王であった。

 凡庸な能力しか持たない男だ。


 私はリボルバーを上げて挨拶する。


「やあ、初めまして。出迎え感謝するよ」


「貴様、何者だ!」


「フレッド・タヴィソン。しがない殺人鬼さ」


 国王の言葉に対して誇らしげに名乗る。

 そう、私は殺人鬼であることにプライドを持っていた。


 国王は何か言いたげだったが、私のリボルバーに注目して口を閉ざす。

 何なのか分かっていないが、武器であることは直感的に理解しているらしい。


 しばらく睨み合っていたところ、国王がたった今気付いたかのようにジェシカを見やる。


「聖女がなぜここにいる?」


「違う。私はジェシカ。ダーリンの妻よ」


 ジェシカは胸に手を当てて即答した。

 その手には血に濡れたカタナソードが握られている。

 切っ先が微かに震えていた。

 見開かれた目は、殺戮への期待に潤んでいる。

 今すぐにでも国王を切り刻みたいのだろうが、それを寸前で留めている。


 国王は我々を睨み、歯噛みしながら尋ねてくる。


「貴様ら、どこからの差し金だ。まさか教会が……」


「教会は関係ない。むしろ被害者と言える。今頃は途方に暮れているだろうね」


 王都の教会は先ほど爆撃で木端微塵にした。

 あそこに重役がいたかは定かではないが被害は甚大だろう。


 この場に聖女がいるから教会の関与を疑ったのだろうが、国と宗教の関係性は微妙である。

 少なくともこういった襲撃があったとしてもおかしくないらしい。


(国王も大変だな)


 同情しつつリボルバーを回す。

 国王はこちらの動きを警戒していた。

 時折、ビクリと震えている。


 血の気が引いた顔からして、戦闘技能は所持していない。

 何もできない一般人と考えて良さそうだ。


 私はその場を往復するように歩きながら説明する。


「我々はどこの勢力にも属していない。ちょっとした気まぐれで王都に来ただけだ」


「気まぐれだと? まさかそのような理由で――」


 国王が余計な発言をしようとしたので、私はリボルバーを発砲する。

 弾丸が壁の金具に反射して国王の左膝に炸裂した。


「ぐ、ごおおおおあああっ!?」


 国王がうずくまって悶絶する。

 膝を押さえながら唸っていた。


 私は国王に歩み寄って、その後頭部に銃口を突きつけながら語る。


「つまらない説教はよしてくれ。お互いの立場を考えた方がいい」


「う、ぐ……おぉ……」


 国王は苦しげに呻いている。

 こちらの言葉には反応せず、脂汗を流して痛がっていた。


 鼻歌を奏でながら待っていると、国王は憎悪に満ちた声で言う。


「調子に乗っていられるのも、今のうちだ……じきに兵士が来るぞ。貴様らはすぐに、死ぬ」


「兵士が来るのは大歓迎さ。なあ、ジェシカ?」


「そうね。まだまだ足りないと思っていたところなの。もっと呼んでほしいわ」


 ジェシカは頬を紅潮させて頷いた。


 間もなく兵士達の声が聞こえてきた。

 かなり殺気立っている。

 おそらくこの部屋を目指しているのだろう。


 壁に突っ込んだ戦闘ヘリを見て慌てているのかもしれない。

 きっと国王の命の危機を察して駆け付けようとしているのか。

 生憎と手遅れだが。


 傷を押さえる国王を嘲笑っていると、ジェシカが腕に抱きついてきた。


「ねえ、ダーリン。ちょっとだけお散歩してもいいかしら。我慢できなくなっちゃった」


「構わないとも。存分に楽しんでくれ」


 私が微笑みかけると、カタナソードを携えたジェシカは颯爽と室外へ出ていった。

 すぐさま兵士達の悲鳴が反響する。


 私は倒れていた椅子を直して腰かけて、倒れた国王を眺めた。


「すまないね。城の兵士が減ってしまいそうだ。今後のために求人広告を出しておくといい」


「……あの女一人で勝てると、思っているのか?」


「ああ。むしろ兵士が足りなくて欲求不満にならないか心配なくらいだ」


 私は肩をすくめる。


 ジェシカは稀代の殺戮マシーンだ。

 生身で突進して現代兵器の数々を破壊してみせる。

 刃物の投擲で戦闘機すらも撃墜できるのだから、まさしく怪物だろう。


 そんな彼女をただの兵士が止められるはずがない。

 心配せずとも勝手に殲滅される。

 為す術もなく蹂躙される彼らは憐れむ他なかった。

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