第89話 殺人カップルは神と対話する
私は少年の生首を観察する。
呆けたように口を開けており、落下の衝撃で額まで真っ二つになっていた。
合間から銀色の血を流している。
見開かれた目は、瞬きもせずに虚空を眺めていた。
遅れて胴体が落下してきた。
やはり地面にぶつかって無様に崩れ落ちる。
私はそんな神をしばらく傍観し、やがて冷静に指摘する。
「どうせ死んでいないだろう。早く起きたまえ」
最初は無反応だった生首が、一度だけ瞬きをした。
口を閉じて真顔になると、銀の血液も断面から頭部に吸い込まれる。
胴体が動き出して頭部を拾った。
それを首の断面に押し付ける。
ジェシカによる切断痕は、音もなく繋がってしまった。
少年は首を回してから嘆息する。
「まさか、いきなり斬首とは……」
「人間を舐めすぎだ。神だからと調子に乗っているからそうなる」
「汝らは、己を……人間と思っているのか」
少年は少し驚くように言う。
演技ではない。
本気で意外に思っている様子だった。
私は少年の一挙一動を観察しながら尋ねる。
「どういうことだね」
「七百年もの間、汝らは命を奪い続けてきた。その魂の在り方は大きく歪んでいる。もはや人間とは呼べない。だから我を傷付けることができる」
少年の説明は納得のいくものだった。
殺戮のたびに能力が強くなっていく自覚はあったが、魂の規格が変わっていたらしい。
そもそも常人では神にダメージを与えられないそうだ。
七百年間ひたすら虐殺を繰り返してきた我々だからこそ、目の前の超常的存在の命を脅かせる。
その時、ジェシカがそばに着地した。
彼女は銀色の血が付着したククリナイフを振るう。
もう一方の手には仮面が握られていた。
口元を覆うように隠す形状の仮面だ。
それを装着しながらジェシカは言う。
「人間にこだわりは無いわ。ダーリンと一緒ならどんな姿でも満足よ」
「その精神が、汝らを怪物に仕立て上げたのだ……」
「どうでもいいわね。化け物呼ばわりは慣れているわよ。ねぇ、ダーリン?」
「ああ、そうさ。今になって悲観することもない」
私は微笑すると、片割れとなる仮面を取り出して着けた。
こちらは彼女のものと違って目元を隠すタイプだ。
ぴたりと皮膚に触れた感覚がどこまでも素晴らしい。
殺人鬼として洗練される感覚があった。
私は晴れやかな心持ちで少年に話しかける。
「さて、時間稼ぎの会話は十分かな。そろそろ再生できた頃だろう」
「……気付いていたのか」
「もちろん。だから完治するまで無駄話で盛り上がっていた」
「なぜだ。我が負傷している方が有利だろう」
「簡単に死なれては困る。それではつまらなのでね」
怪訝そうな少年にそう伝えてウインクをする。
少年は忌々しそうに顔を歪める。
今までで最も分かりやすい感情だった。
「狂っているな。これが殺人鬼か」
「ようやく理解したかな。憶えておくといい」
そう返した私は、指を鳴らして召喚魔術を行使した。




