第87話 殺人カップルは神と決別する
前方一帯が爆炎で埋め尽くされて、廃墟が吹き飛んでいく。
きっかり二秒後、それらが一瞬にして消滅した。
クレーターの中央部には当然のように少年が佇んでいる。
少年は髪を払いながら迷惑そうに私を睨む。
「何をする」
「ちょっとした挨拶だよ。気に入ってくれたかな」
私は気楽な風を装って答える。
内心では相手の能力に関する解析を進めていた。
(今ので無傷か。魔術より高位の力だろう)
あの少年は神を自称したが、戯れ言ではないだろう。
もしかすると悪魔かもしれないが、とにかくそれに類する存在であるのは間違いない。
少年は特殊な術を操っている。
爆撃を消滅させたパワーは術式が読めなかった。
魔術に似ているものの、根幹から異なる印象を受けた。
あの能力を劣化させて人間向きに改良したのが魔術ではないか。
特に根拠はないがそんな気がした。
少年は音も無く浮遊すると、我々を見下ろす位置で止まる。
こちらに向けられた視線はどこかひりつく迫力を帯びていた。
生物としての本能が危機感を告げる。
不老不死になってもその辺りは機能していたが、ここまで強烈なのは久しい。
私は死の予感を押し退けて朗々と語る。
「神にとって七百年は短い。介入するのが面倒で、我々が発狂死するのを待っていたが、予想と違うので降臨した。この認識で合っているかな」
「そうだ。世界は我が所有物。決して汝らの玩具ではない」
「つまり我々を止めるつもりかね」
「無論」
少年は頷く。
その背後で空間の歪みが生まれた。
ゆっくりとずれが大きくなっている。
あれに触れたら即死だろう。
たぶん不死身の特性など関係なく命を奪われる。
私は直感的に理解した。
少年は歪みを発生させながら嘆く。
「異界の人間は世界に変化をもたらす良材である……そう聞いていたが、大きな間違いだった」
「単純にチョイスが悪かっただけだと思うがね。殺人鬼がもたらすのは破壊だけだよ」
「素性ではなく、魂の強度で選定した。前世の記憶まで取り戻すのは誤算だった。上手く洗浄できていなかった」
相変わらず感情が読めない。
しかし、どこか言い訳がましいニュアンスが窺えた。
少年は自分の責任ではないと主張したいようだ。
それにしても、我々を異世界に呼び込んだのは神の仕業らしい。
言うなれば自業自得であるにもかかわらず、あくまでも我々の責任にしたいという。
どうにも傲慢な神であった。
「世界は我が修復させる。汝らはここで糧となれ」
「――遺言はそれくらいでいい?」
それまで黙っていたジェシカが口を開いた。
少年は怪訝そうに眉を寄せる。
「何」
「無駄話はもう満足したかって訊いているの」
ジェシカは軽蔑を隠さずに応じる。
その瞳の奥では、獲物を見定める狂気が見え隠れしていた。
「あんたの正体や動機なんて興味ないし、神とか世界の事情だってどうでもいい。私とダーリンの邪魔をするから殺す。それだけ分かれば十分よ」
「神に挑むつもりか」
「上から目線で喋らないで。七百年もビビって姿を現さなかったチキンちゃんの癖に」
ジェシカが挑発的に返すと、少年の動きが止まった。
空間の歪みが一気に十倍ほどにまで膨らみ、地上に散乱する廃墟を吸引しながら轟音を立てる。
少年は緩く手を広げて我々に宣告した。
「――よかろう。汝らには死すら生温い苦痛を与える」




