第8話 殺人カップルは城を訪問する
空を移動すること暫し。
前方に白亜の城が見えてきた。
荘厳な趣きで歴史を感じさせる雰囲気だ。
周囲とはかけ離れた存在感を主張している。
周りを水の入った堀に囲われており、閉ざされた門と吊り上げ式の橋が入口にあたるのだろう。
他に侵入できそうな場所はない。
まあ実際は隠し通路等があるはずだが、生憎と外から識別できる範囲はそれだけだ。
「あれが国王の住まいかな。随分と立派なものじゃないか」
「財力と権力と誇示するのが好きみたいね。ちょっと趣味が悪いわ」
ジェシカはチーズバーガーを齧りながら言う。
彼女はたまにポテトもつまんでいた。
移動中に私が召喚したものだ。
運動して腹が減ったと言っていた。
ジャンクフードの食べ過ぎは健康面に悪いが、彼女の場合は一流のアスリート以上の運動量がある。
たぶん問題ないはずだ。
それよりジェシカの態度だ。
先ほどまではあれだけ狂乱に浸っていたのに、今はすっかり落ち着いている。
退屈そうに城を眺める彼女の横顔は、関心の無さをこれでもかと示していた。
城についてはあまりそそられないらしい。
「君はああいった城が嫌いなのかい?」
「お城は好きよ。持ち主の国王がいけ好かないだけ」
「ははは、なるほどな」
私は小さく笑う。
この国の王については一般常識と言える程度には知っている。
実に凡庸で、良くも悪くも特徴がない。
引き継いできた座を維持し、そのまま子供達へ継承するつもりだろう。
大きな出来事もなく、円滑に国を運営している。
有り体に述べると、コメントに困る人物だった。
もう少し特徴を出してくれると嬉しいのだが。
ジェシカが無関心なのも納得である。
我々の興味を強く促すのは、いつだって特殊な存在なのだから。
私は城の周りを旋回しながら考え込む。
「さて、どうしよう。せっかく王都に来たのだから、挨拶くらいするのがマナーだと思っているのだが」
「別に放っておいてもいいんじゃないかしら。どうせ私達に会いたがってないわよ」
「それは否定できないね」
別に城をスルーしても構わない。
立ち寄ったところで、我々の求めるようなイベントがあるとは限らなかった。
素直に候補として挙がっていた観光スポットを巡るのが順当だろう。
もしくは王国軍の関連施設を破壊して回るのも楽しい。
私はいくつかの案を脳裏で整理しながらジェシカに訊く。
「君は国王に会いたいかな?」
「どっちでもいいわ。あ、城の兵士と殺し合うのは楽しいかも! 国王の命を賞品にしたゲームなら盛り上がれそうよ」
「ほうほう、良いアイデアだね。ただ、それは別の機会にしてもいいんじゃないかな。他国の首都でもできることだ」
脳内の方針が一つにまとまりつつあった。
実利に基づいた結論だ。
それを察したらしく、ジェシカが質問を投げてくれた。
「じゃあダーリンはどうしたいの?」
「やはり挨拶だよ。国のトップには敬意を払うべきだろう」
「珍しいことを言うのね」
「そうかな。私はいつだってマナーを重んじているよ」
私は誇らしげに語りながらトリガーを引く。
機銃がありったけの弾丸を城に浴びせると、最上部付近の壁に大穴を作った。
ジェシカは呆れたように私を見た。
「これがマナー?」
「私にとってはね」
そう言って操縦桿を倒す。
戦闘ヘリが急加速を伴って降下し、壁の大穴に衝突した。