第78話 殺人カップルは先を見据える
我々はヘリで移動する。
先ほど蘇生した戦闘機部隊を数度ほど追加で召喚して、適当な攻撃地点を指示して送り出す。
これで複数の同一人物が世界に存在することになってしまった。
ドッペルゲンガーより性質の悪い状況である。
とは言え、半日後には大半が戦死するはずだ。
何も問題ないし、たとえ全員が生還しようと我々は困らない。
ヘリを操縦する私は、口笛を吹く妻に話しかける。
「調子はどうだね、ジェシカ」
「最高よ! 戦争って素晴らしいわ。もっと盛り上げたくなっちゃう」
ジェシカは満面の笑みで応じた。
可憐な姿だが双眸は爛々とした狂気に彩られている。
先ほどからずっと臨戦態勢だった。
ある種の興奮状態をキープしている。
いつどこから敵が来たとしても、今の彼女に奇襲を仕掛けることはまず不可能だろう。
たとえ魔術を抜きにしようと、ジェシカは超一流の殺人鬼だ。
膝の上に置かれたククリナイフが相手の首を刎ねることになる。
嬉しそうなジェシカを眺めているうちに、私は良いアイデアを閃く。
「この大陸の外にも様々な国がある。除け者にするのは良くない。どんどん巻き込んでいこうじゃないか」
「ダーリンったら天才ね! 大賛成よ!」
抱き付いてくるジェシカを撫でつつ、私も上機嫌になった。
別に彼女のためだけのアイデアではない。
私だって楽しみなのだ。
遊園地の入場待ちをする少年のように心がときめている。
きっと大陸の外の国々は、魔王が死のうと新たな魔王が生まれようと他人事だと思っているだろう。
そろそろ当事者としてステージに立ってもらわねば。
ジェシカの熱唱を聞きながら空の旅を満喫していると、横合いから殺気を感じた。
まだかなりの距離があるが、高速で接近している。
歌うのを止めたジェシカは蕩けそうな笑みでククリナイフを握った。
「何か来るわね」
「おそらく英雄連合からの使者だろう。我々の接近を察知したらしい」
雲の切れ間から向こうの正体が覗く。
それは、途方もなく巨大な浮遊島であった。
くり抜かれた大地の上に要塞がそびえ立っている。
島の下には馬鹿げたサイズの亀が密着していた。
あの生き物が浮力と推進力を兼任しているようだ。
(面白いな。こんな戦力を隠し持っていたのか)
もしかすると、先代魔王を倒すための秘密兵器だったのかもしれない。
各国でそういった研究が進んでいたのは知っている。
我々の暴走を鑑みて、使用に踏み切ったのだろうか。
浮遊島は猛速でこちらに迫りつつあった。
私はジェシカに確認する。
「いけるかね」
「楽勝よ」
頼もしい答えを聞いた私は大笑いする。
そして、ヘリを最大まで加速させた。




