表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/99

第76話 殺人カップルは暴走する

 ジェシカの振るう斧が横殴りに英雄を襲い、その首を刎ね飛ばした。

 ほぼ同時に私のリボルバーが火を噴く。

 放たれた弾丸により、英雄の騎乗するドラゴンの頭部が破砕した。


 首を失った胴体がぐらついて、愛竜と共に地上へ落ちる。

 その大地には彼の配下が散乱していた。

 ドラゴンと竜騎兵が区別なく死んでいるのだ。

 落下の衝撃でミンチになっているが、よく見れば切断痕や弾痕が見受けられるだろう。


 光の床に立つ我々は、英雄の落ちる様を眺める。

 ジェシカは斧に付いた血を振り払いながら微笑んでみせた。


「競争は私の勝ちね」


「ふむ、これは認めざるを得ないな。さすがはジェシカだ」


 私が素直に拍手すると、ジェシカはますます喜ぶ。

 無邪気な姿はとても愛らしいが、実際の所業はどこまでも残酷だ。

 彼女に罪悪感はなく、むしろ凄まじい快楽と爽快感に満ちている。


(しかし、やりすぎてしまったな)


 私は何も無くなった周囲を見渡す。

 先ほどまでは、戦闘機と竜騎兵による熾烈な空中戦が繰り広げられていた。

 結果として竜騎兵が勝利し、残る戦闘機は撤退を余儀なくされた。


 ところがその後、我々が暴走して竜騎兵を殲滅してしまったのだ。

 あちらの主導者であった英雄も首を断たれて死んだ。

 なんとも悲惨な結末である。

 歴戦の英雄も殺人鬼には太刀打ちできなかった。


「空中戦も楽しいわね。コツも掴めたし、もっとスムーズに動けそうよ」


「それはいいな。私も見習わないといけない」


 上機嫌のジェシカに応じつつ、私は魔王都市の方角を指差す。


「さて、一旦帰還しよう。先遣隊が撤退できずに全滅した以上、英雄連合も迂闊には近付いてこないはずだ」


「……戻らないといけないの?」


「ふむ。どういうことかな」


 どこか不服そうなジェシカを見て、私は彼女の胸中を察する。


 次に発せられるであろう言葉を確信しながらも、あえて確認したのだった。

 ジェシカはその予測を裏切ることなく提案する。


「せっかく戦争が始まったのよ。待ってるばかりじゃ退屈だわ。私達で攻めちゃいましょ」


 このまま魔王都市を離れて、英雄連合の本部に突撃する。

 それは正気の沙汰ではない。

 戦争の概念を根底から揺るがすことになる。


 ようするにジェシカは、他人の攻防を見守ることに我慢できなくなったのだ。

 まだ初戦だというのにこの調子である。

 彼女の忍耐力の脆さをありありと証明していた。


(ここは本来ならブレーキ役に徹するべきなのだが……)


 顎を撫でて悩む私は、自らの疼きを自覚していた。

 衝動が燻っている。

 殺人鬼の本能が、これでは全然足りないと主張していた。


 そう、我々にとって竜騎兵の蹂躙は欲求解消どころか、さらなる欲求を誘うだけに過ぎなかった。

 言うなれば前菜だ。

 ここでメインディッシュを置いて席を立てるほど我慢強くない。


 そこまで理解したところで、私はジェシカと握手する。


「君は最高のパートナーだ。一緒に英雄連合に仕掛けようじゃないか」


「まあダーリン。あなたも最高よっ!」


 感激なジェシカが熱烈なキスをしてくる。

 その瞬間、我々の心は一つになり、事前計画は残らず崩壊したのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >「君は最高のパートナーだ。一緒に英雄連合に仕掛けようじゃないか」 >「まあダーリン。あなたも最高よっ!」 >感激なジェシカが熱烈なキスをしてくる。 >その瞬間、我々の心は一つになり、事…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ