第67話 殺人カップルは報せを喜ぶ
老人から聞いた話は、なかなかに興味深い内容だった。
彼は帝国所属の英雄で、空間魔術の使い手らしい。
今回は帝国からの伝令役として我々のもとに来たそうだ。
あわよくば殺害に漕ぎ着けようとして、見事に失敗したわけである。
そして、逃走もできずに情報を垂れ流しにした。
そんな老人が何を伝令するつもりだったのかと言うと、英雄連合の設立と宣戦布告であった。
王国を中心に企画された急ごしらえの組織で、各国が同盟を結んで進行しているらしい。
驚くことに人員の大半が英雄で構成された連合軍だった。
目的は新時代の魔王――すなわち私とジェシカの抹殺である。
共通のために各国が関係性を問わずに協力しているのだという。
そして、移動と逃走に優れた老人が伝令役に選ばれた形だった。
「英雄連合ねぇ。上手くいくと思っているのかしら」
「それだけ切迫しているのだろう。我々の脅威度は、国境を問わず手を結ぶほどだと判断されたらしい」
我々は先代魔王を始末し、国々を巡って脅しをかけた。
場合によっては壊滅的な被害を与えている。
上層部が焦るのも当然のことだ。
というより、そうなるように仕向けた。
反応としては上々だろう。
まさかこの短時間で連合軍まで設立するとは思わなかった。
我々が知り得ていない情報だから、本当にごく一部の人間のみが関与しているらしい。
一般的にも知られていないことだろう。
全力で我々を殺す気のようだ。
(まあ、互いの利権争いも入っているのだろうがね)
主催は王国らしい。
現在は前王の息子が取り仕切る始まりの国だ。
魔王殺害の大義名分を掲げつつ、覇権を握るつもりなのだろう。
なかなかに肝が据わっている。
他の国もそれぞれ別の狙いがあるに違いない。
我々の殺害を視野に入れつつ、敵国を蹴落とすつもりなのだ。
伝令役に選ばれた老人などその一環ではないか。
立場の弱くなった帝国は、不必要な場面で英雄を消費させられたのだった。
性悪な老人が協調性に乏しいことは明白。
まさに捨て駒として適役と言えよう。
我々によって返り討ちにされることまで想定しているのだと思われる。
(人類は決して団結できない。火を見るより明らかなことだ)
それはこの老人の犠牲こそが物語っている。
誰もが利益を追求している。
上っ面はいくらでも偽れるが本質は不変だ。
人間とはそういうものである。
そこに善も悪も関係ない。
純然たる事実が存在するだけだった。
本当に世界平和を実現するとしたら、人間という種の根絶しかないだろう。
未来永劫、誰も生まれないようにするのだ。
そうすれば争いなんて消滅する。
まあ、そんな考えはナンセンスだ。
あまりに愚かしい回答未満の戯れ言であった。
つまり根本的に世界平和は実現不可能なのだ。
「英雄連合を放置するの?」
「まさか。我々は主賓だからね。堂々ともてなされようじゃないか」
我々が介入せずとも、英雄連合はいずれ破綻する。
しかしどうせ破綻するなら、我々が食い荒らしても問題ないだろう。
せっかく目論見通りに魔王として認識されたのだ。
この機を逃す手はない。
先代魔王を休眠に追い込んだ者達も参戦するだろう。
さぞ楽しめるはずだ。
魔王の夫婦として、盛大なパーティーにしていこうと思う。




