第65話 殺人カップルは追い詰める
「そ、んな……馬鹿な」
老人が信じられないとでも言いたげに呟く。
驚愕に染まった瞳はジェシカを凝視していた。
腹が横一線に裂けて出血しているが、それすら気にならない様子だった。
よほど能力に自信があったのだろう。
(彼が動揺するのも当然だ。普通は起こり得ない現象だった)
老人は自らの空間をずらして潜伏していた。
座標が微妙に異なるため、こちらの攻撃は通用しなかったのだ。
曖昧な人影はずれが原因で生まれたものに違いない。
それを上手く利用して、正体不明の演出を保っていたのである。
対するジェシカは、攻防の中で老人の居場所を特定した。
風の魔術の発生箇所や追撃のタイミングと癖、感じる視線の角度から突き止めたのだろう。
もっとも彼女の場合、それらを論理的に紐解いたわけではない。
おそらく本能的に統合し、魔術を付与した一撃で空間を切り裂いて暴き出した。
ジェシカは斧を回しながら老人に告げる。
「あまり舐めないで。私だってプロの殺人鬼なのよ? 臆病者のお爺さんくらい簡単に殺せるわ」
「貴様ッ」
激昂した老人が、両手を突き出して何らかの術を放とうとする。
しかし、その前にジェシカの腕が動いた。
戦いの中で張られていたピアノ線で引き絞られて老人の両腕に巻き付くと、そのまま食い込んで切断する。
「ぐ、うおおおおおおっ」
「ほらね。風の魔術で勝てると思ったのかしら。いくらすごい切れ味でも、撃たれる前に止めれば意味がないもの」
ジェシカが当然のように言い放つ。
彼女は振り向いて私に声をかけてきた。
「ダーリン、どうする?」
「よし、私が話を付けよう。任されてくれるかな」
「もちろんよ。あとは頼んだわ」
ジェシカが殺気を解いて笑ってこちらに戻ってくる。
私は入れ替わるようにして老人の前に歩み寄った。
「やあ、清々しいほどの惨敗だな。気分はどうだね」
「……ふざけて、いるのか?」
「否定はしないさ」
私が皮肉を込めて言うと、左右から風の魔術が放たれた。
胴体を輪切りにするルートだ。
私は地球から台風を部分的に召喚すると、風の魔術に当てて打ち消した。
前々から密かに練習していた小技である。
これによって魔術もどきとも言える自然現象を発現できるようになった。
老人は口を開けて絶句する。
「なっ……」
「君は空間を操る術に長けているようだが、私もそうなんだ。悪あがきはやめたまえ」
私は勝ち誇るように述べる。
老人の顔は真っ青になっていた。




