第62話 殺人カップルは強襲を受ける
その後、我々は二十人ほどの脱走者を殺害した。
じっくりと追い回して仕留めるのは、なかなかに有意義な時間であった。
現在は荒野のど真ん中で小休憩を取っている。
木製のベンチを召喚して腰かけて、ミネラルウォーターで喉を潤していた。
「次はどの方面を探索しようか」
「あっちに逃げていそうな雰囲気がするわ」
「よし、君の直感を信じるよ」
そんなやり取りをしながら二人きりの時間を満喫する。
とても良い息抜きとなっていた。
我ながら人間狩りというアイデアは最高だった。
ジェシカと仲良く話しながら、適度に身体を動かすことができる。
心身ともに健康になっていくのを実感していた。
ベンチの近くには保存食のごみと空のペットボトルが転がっている。
我々ではなく、逃亡者が捨てたものだ。
見渡す範囲にはいないが、徒歩圏内に潜伏しているに違いない。
ジェシカが魔術を使えば、広範囲の生命を探知可能だ。
それで逃亡者の行方は手に取るように分かる。
しかし、現在はあえて魔術の類は使っていなかった。
あっさりと居場所が分かったらつまらないからだ。
これはレクリエーションである。
せっかくの人間狩りなのだから、捜索も含めて楽しむべきだろう。
そうして休憩を終えようとした時、私は遥か前方に人影を認めた。
「おや」
私は拳銃を手にしながら目を凝らす。
誰かがこちらに歩いてきている。
逃亡者かと思いきや、どうにも奇妙な現象が発生していた。
時折、人影の一部が薄れたり輪郭が歪むのだ。
そのせいで正確な容姿を捉えられない。
(目の錯覚ではなさそうだな)
私は意識を集中する。
幻惑系統の魔術を施された感じもない。
五感は正常に機能していた。
それなのに相手の正体が判然としない。
辛うじて分かる背丈や体格からして、おそらく男なのだろう。
ただ、現段階では断定しない方がいい。
その推定すらも誤りかもしれなかった。
あれは認識阻害の魔術だと思われる。
かなり珍しい能力で、様々な術の複合によって姿を誤魔化すという代物だ。
使用者ごとに原理が異なるため、無効化が困難な魔術であった。
(明らかに逃亡者ではなさそうだが、一体何者だ?)
私は隣に座るジェシカに視線を移す。
彼女は両手に斧とククリナイフを保持していた。
腰に吊るしたピアノ線は、いつでも引き出せるように装着されている。
美しい瞳は、静かな歓喜を示していた。
「ダーリン、どうする?」
「決まっているさ。挨拶しに行こうじゃないか」
私はベンチから立ち上がる。
こんな辺鄙な場所にいるのだ。
向こうは我々に用があるに違いない。
人間狩りは一時中断し、正体不明の人物に接触しようと思う。
私は拳銃をベルトの間に挟み込み、フルオート式のショットガンを召喚した。
尻ポケットに入れたバタフライナイフを確認すると、ジェシカを連れて歩き出した。




