第6話 殺人カップルは王都を見下ろす
半日ほど空の旅を楽しんだ後、遠くに巨大な都市が見えてきた。
周りを壁で囲っている。
外敵から民を守るための設備だろう。
「あれが王都か」
「懐かしいわね。厳密には私の記憶じゃないけど」
ジェシカが助手席で呟く。
彼女の人格は私とほぼ同じ瞬間に復活した。
王都にいた頃の記憶はあるが、自分の体験ではないような感覚に違いない。
その辺りは私にもよく分かる。
戦闘ヘリを加速させて上空から王都内に侵入した。
人々が豆粒に見えるような位置を飛行する。
この高度なら外壁があろうと関係ない。
出入りし放題である。
「どこか着陸に適した場所は……」
私はコックピットに設けられたモニターを注視する。
そこには真上から地上を見下ろす映像が流れていた。
横についたツマミを回すと映像がズームして、ぽかんと口を開ける民衆の顔まで確認できた。
機体底部に装着された構成のカメラによる映像だ。
それを駆使して適当な着陸地点を探していく。
ヘリの操縦とカメラの確認を行っていると、地上から何かが接近してくることに気付く。
私は意識を切り替えてジェシカに告げた。
「もう迎えが来たようだ。感知系の魔術で見張っていたのだろうね」
「さすが王国軍だわ。嬉しくなっちゃう」
ジェシカは鼻歌でも奏でそうな調子だ。
頬を両手で挟んで、とろけそうな笑みを見せている。
柔らかな目は、その奥に狂気と殺意を湛えていた。
すなわち私と同類の瞳だ。
世間一般には忌避されるが、この上なく愛おしかった。
私はモニターを操作して、映像の中央に接近してくる物体を捉える。
そこに映るのは大きな蜥蜴だった。
馬くらいのサイズで、翼を上下させて飛んでいる。
背中には軽装の人間を乗せていた。
映像のズーム倍率を少し下げると、そのような蜥蜴と人間のセットが数十ほど視認できた。
彼らは一定の距離を保ちながら接近している。
(ワイバーンに乗る兵士か)
私は戦闘ヘリの速度を落としながら顎を撫でる。
ワイバーンとは、あの翼付きの大蜥蜴のことである。
この世界に生息するドラゴンの親戚にあたるが、専門家でない私には何が違うのかまでは分からない。
似ているだけで生態的には別種なのだろう。
思考が脱線しかけたところで、ジェシカがモニターを指差した。
「騎竜部隊だったかしら。軍の中でも特殊な兵科よ」
「ふむ。対空のスペシャリストか。勇敢にも立ち向かってくるようだ」
ワイバーンに乗る兵士達が猛加速した。
それぞれの手には杖や槍やクロスボウが握られている。
突如として王都に侵入した戦闘ヘリを破壊するつもりらしい。
その勇敢な姿を称賛したいが、実情を知る身からすればそれは単なる蛮勇に過ぎない。
自殺行為と言い換えてもいいものだろう。
私は笑みを堪えながら操縦桿を握り直す。
戦闘ヘリが高速で旋回を始めた。
機体の角度や位置を調整し、騎竜隊が同じ高度まで辿り着いたところで、上部の赤いボタンに親指を添えた。
「まずはこちらから挨拶してやろう」
嬉々としてボタンを押し込む。
その途端、重い銃撃音が轟いた。
凄まじい振動が伴う。
二つの機銃が作動したのである。
シャワーのように放たれた弾は、騎竜隊を千切り飛ばしていった。
前方で一斉に血肉が爆発する。
勇敢な戦士達が瞬く間にミンチへと変貌していく。
残骸と化した彼らは次々と墜落した。
防御を試みたのか、射線上にバリアーらしき魔術が張られる。
しかし、大口径の銃弾を耐えるほどの効果はない。
数発も浴びせれば粉々に砕け散るので、何の気休めにもなっていなかった。
「はっはっは! これこそが蹂躙か! 素晴らしいなっ」
私は大笑いする。
圧倒的な火力で異世界の部隊を叩き潰す快感。
速まる鼓動が歓喜を主張する。
興奮状態に陥りながらも、思考は冷静に戦いを分析していた。
微塵の狂いも機体を操縦している。
たまに魔術や槍や矢の反撃が放たれるも、動き続ける戦闘ヘリに当たるはずもない。
ジェシカはレーザーの魔術で支援してくれた。
大雑把な狙いだが、放ち続ければ命中する。
外れたレーザーが地上を焼き払っていた。
既にかなりの被害を出しているが、ジェシカが意識しているのかどうか。
まあ、彼女が罪悪感に駆られたり、気に病むことはまずない。
私にとってはそれで十分だった。




