第59話 殺人カップルはモール内を歩く
アナウンスを終えた私は、電源を切ってパイプ椅子に座った。
脚を組んで悠々と息を吐く。
ちょっとした達成感を覚えながら私は顎を撫でる。
(さて、どう反応する?)
これでモール内の動きも活性化するのではないだろうか。
放送室を出た我々は、陰から人々の様子を確かめる。
そこにあったのはパニックだった。
突如として異世界に召喚された人々は、慌てふためいている。
あちこちで喧嘩が起きて、蹴り合い殴り合い殺し合いの騒ぎであった。
きっと我々の名を知っているのだろう。
まあ、それを見越した上での行動である。
前世ではそれなりに暴れ回ったのだから有名でなくては困る。
これで人々のリアクションが薄かったら、プライドに傷が付いていた。
私は近くの自販機を蹴り付ける。
溢れ出してきた缶コーラを掴み取り、一本をジェシカにパスしながら開封した。
それを飲み干して満足する。
怒声や悲鳴をBGMに休憩をするのが気分が良い。
同じようにコーラを飲むジェシカが私に尋ねる。
「どうして私達の名前を教えたの?」
「ちょうどいい抑止力になるだろう。上っ面の善人を演じるより手っ取り早い」
下手な嘘は遠からず化けの皮が剥がれる。
モール内の人々とは長い付き合いになる予定だ。
後で正体が割れるくらいなら、最初から素性を伝えるべきだろう。
その方が長期的に見た場合は円満な関係が築けると思う。
(これで従順になるのなら楽なのだがね)
我々はモール内を移動する。
人々は我々を見ても反応しない。
気にも留めずに右往左往するか、理不尽にも殴りかかってくるくらいだ。
調子に乗った輩には銃口を突き付けて落ち着いてもらった。
それだけで彼らは顔を青くして俯いてしまう。
我々が歩き去るのを見れば、すぐさまどこかへ逃げ去っていく。
やはり何事も平和が一番だ。
望まない血が流れるのは良くないだろう。
ちなみに我々を見て反応しない人間は、モール入口での発砲を目撃していないのだろう。
たぶん奥のエリアに引きこもっていたのだと思う。
そのため先ほどの発砲やアナウンスが我々によるものだと気付いていないのだ。
間もなく我々は警備室に到着した。
さっそくジェシカが監視カメラの映像を指差す。
粗い画面には何か喚きながら走る人々が映っていた。
彼らは出入り口から次々と外へ脱走していく。
「勝手に逃げてる人がいるけれど」
「構わないさ。少しくらい減ったところで困らない。足りなくなればまた召喚すればいい」
ここで勝手な行動を取る人間など興味ない。
それに荒野はかなり広大だ。
出て行ったところで餓死するか、野生動物や魔物に殺されるだけだろう。
いちいち忠告する義理もない以上、自由にしていればいい。
「残った人々を手厚く保護しようじゃないか。彼らには魔王の街の住民になってもらうのだから」




