第54話 殺人カップルは渾沌を愛する
(我々の予想を覆してほしいものなのだがね)
帝国に対する期待を抱きながら手帳をめくる。
注目に値する国は他にも存在する。
独自の宗教制度を敷く聖国などは、我々に宣戦布告を行っていた。
ただし、こちらに攻め込んでくることはない。
批判的な声明を発してばかりで、戦争に持ち込む兆しはなかった。
通達の際の印象からして、我々のことを毛嫌いしているのは明らかだった。
ところが彼らはこちらを攻撃する素振りを一切見せず、無抵抗のままに面会に持ち込んだ。
結果として、我々が聖国で殺した人間はゼロ。
戦う気がない相手を嬲るほど我々は嫌な性格はしていない。
時と場合によっては殺すかもしれないが、少なくとも聖国を訪れた時は手出しする気にならなかった。
彼らの賢明な判断に感心したのも大きい。
それまでの国が多大な被害を受けたことを加味して、聖国なりにどうすれば被害を抑えられるか考えたのだろう。
彼らの努力を踏み躙るのは良くない。
我々もフェアでありたいのだ。
とにかく、聖国は無謀な攻撃を仕掛けてくるほど愚かではなかった。
それなのに宣戦布告という強気な態度に出たのは、国民へのパフォーマンスではないか。
求心力を失わないための方便である。
表では敵対関係を謳いつつ、実際はこちらとの友好関係を築くつもりなのかもしれない。
もし裏切るつもりでも、他の国が我々を疲弊させたタイミングだろう。
いくつもの可能性を考慮して策略を巡らせる辺りが実に面白い。
「聖国は礼儀正しかったわね。プレゼントもくれたし」
ジェシカは鼻歌を奏でながら、愛おしそうにネックレスを撫でた。
聖国にて貰った代物だ。
魔力回復と魔術強化の効果があるそうだが、彼女は純粋にそのデザインを気に入っている。
ある種の賄賂だろう。
こちらの機嫌取りだと思われる。
聖国はしばらくは泳がせるつもりだった。
ただし、高みの見物は許さない。
いずれ泥沼の戦場に引きずり下ろそうと思う。
(そういえば、聖国と真逆の国があったな)
私は笑いながら手帳をめくり、該当のページを見つける。
この不毛の地と隣接する巨人の国は、愉快な体験をさせてくれた。
領土に踏み込んだ途端、彼らは強襲を仕掛けてきた。
旅客機で侵入した我々に対し、投石による洗礼を浴びせてきたのである。
強制的に墜落した旅客機のもとに、数百にも及ぶ巨人の兵士が殺到した。
圧倒的な数を誇った魔王軍に比べれば規模が小さく思える。
これが全戦力でないにしても少なめだろう。
しかし、巨人の国は量より質に重きを置いている。
兵士の一人ひとりが凄まじい力を有している。
見上げんばかりの巨躯に、城塞を軽々に粉砕できそうなパワー。
そのような兵士達が、我々の殺害だけに専念して襲いかかってくるのだ。
なんて素晴らしい環境だろう。
私とジェシカは歓喜して殺しまくった。
夢中になって巨人の国を壊滅寸前にまで追い込んでしまったが、彼らならきっと再起できるはずだ。
別に何も難しいことではあるまい。
我々への復讐心があれば、きっと蘇ってくるに違いなかった。
他にもいくつかの国に干渉していたが、揃って我々に仕掛けてくる気配はなかった。
それぞれ準備を進めているのだろうか。
何にしろ、退屈しないことを祈っている。
今後について想像を巡らせながら、私は手帳を閉じた。




