第42話 殺人カップルは秘策を放つ
私は術の行使に集中する。
いつもなら片手間に構築できるが、今回は事情があって少し時間がかかる。
それでも慌てずに手順を進めていく。
使うのはもちろん召喚魔術だ。
それ以外の特殊能力は持ち合わせていない。
落ちこぼれに転生した私に許された唯一の個性である。
様々な魔術を使いこなすジェシカと比べると些かシンプルだが、実際の汎用性は彼女のそれにも劣らない。
ようするに工夫次第なのだ。
発想の転換――そしてアレンジ。
あとは検証と練習を重ねれば完璧と言えよう。
薄目の視点は魔王に固定しておく。
注意を引くジェシカは申し訳ないが意識の外にやった。
彼女のことも心配であるものの、今は思考を割くべきではない。
術の成功率を上げなければならなかった。
魔王が一瞬だけこちらを見た。
その口から何かが飛んだ。
紫色だ。たぶん毒液だろう。
避けなければ。しかし魔術が。
判断に迷う前に、辺り一帯の光の床が同時に動き出した。
私を守るように浮き上がって重なると、毒液をガードしてみせる。
毒液はそれでも貫通して迫るが、微妙に軌道がずれて脇を抜けていった。
さらに二度目の毒液が飛んでこようとしたその時、私の術が完成する。
強い抵抗感のせいで狙いが大雑把になってしまった。
普通なら失敗だろうが、今回の的は果てしなく大きい。
多少はアバウトでも問題ないだろう。
「くくっ」
私は仮面の裏で会心の笑みを湛えた。
そして魔王に向けた指を鳴らす。
刹那、この世界に一万発の水素爆弾が召喚された。
ただし今までのように空中に呼び出したわけではない。
それらは魔王の体内に出現していた。
一万発の、水素爆弾は、魔王の、腹の中だ。
遠隔召喚のさらなる発展形。
それが今回使った体内召喚であった。
相手の魔術に干渉されるので面倒だが、成功すれば回避不可能な反則攻撃となる。
いくら防御膜を持つ魔王とは言え、体内での爆発には対応できないだろう。
本来は起こり得ない現象なのだから当然である。
「座標合わせに苦労したんだ。さあ、存分に吹き飛べ」
私は悠々と告げる。
事態を察したジェシカが猛速で退避してきた。
そんな彼女を抱き止めた瞬間、魔王の長い胴体が発光する。
光は集束と膨張を繰り返しながら膨らんでいく。
凄まじい爆発音が轟いた。




